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アール・ド・ヴィーヴル02/屋久島2018-08-21送陽邸にて

アールドヴィーヴルって何だろう。
文字通り言えば、アートとして人生を生きるということだろう。でも、僕らは「人生の達人」や「悟った仙人」みたいなりたいわけじゃなく、1人ではなく2人で人生を満喫すべき術としてこのコトバを捉えているのです。
joyと結びついている。
お金もちでも人生を楽しめてない人もいるし、スピリチュアルだけどjoyの無い人も見てきた。

僕らは歳も離れているし、全く遠い人生を歩んできたけれど、ある時に出会って、2人が互いに、互いの「娯楽」になった。2人はテレビも新聞も嫌いなので、2人で些細なことを、日々の珍道中のように過ごしているだけで「娯楽」joyになったのである。
まあ、相性がよい。
退屈しない。
愉快である。
2人で食うと、大抵のものは美味い。
とりわけ旅するのが好き。
日々の旅である散歩も好き。

渚は昔、セラピストになるまえに、沖縄に住みスキューバーダイビング屋で働いていたことがある。
繁雄は、学生の頃から何度も沖縄に旅して8ミリでロードムービーをとっていたし、民謡の神さま照屋林助から「予祝」を教えてもらい、細野晴臣さんや、ジョナス・メカスさんと沖縄をへめぐったこともある幸運な編集者である。
加えて言うと、宮古島のユタさんに、診てもらったこともあるほど、「南のチャネル」に縁深い。

その2人が、すっかりハマって、毎夏通っているのが、しかし、沖縄ではなく、屋久島になろうとは。
これはストレンジでハッピーなこと。
何かの、シルシ。
ミチビキなのだと思っています。

第2回目のアールドヴィーヴルは、意表をついてこの夏の、屋久島珍道中。
台風直撃の日々記録。
ここに記述された、他愛のない時間がアールドヴィーヴルなのだと思うのです。


(台風19号直撃の日、宮之浦からの帰りの車中にて)
繁雄(以下S)- 意外とまだ雨降ってこないね。でも風が強くなってきた。
渚(以下N)- 見て見て。台風のTV中継やってるよ。明日飛行機飛ぶかなあ。
(今日の夜半から暴風域)
S- 台風の日に島に来るなんて、なんて酔狂なんだろ。ちょっと待ってね。(と言って、You tubeの音楽をボサノバからジェフ・ミルズのEXHIBITIONISTに変える)
N- ワォ、なんか楽しくなってきた!


S- あの山見てよ。もこもこの森が波うってるよ。いろんな種類の木が、何万年も時間を経てできた生態系だから、ヴァイブレーションがいいんだね。
N- 一湊(いっそう)のあたりは風が強いね。わー、白い波、きれい!昨日、海、気持ちよかったね。(昨日、送陽邸の横の、ウミガメの産卵で知られる「いなか浜」で、海遊びをした)今日もあわよくば、入れるかなあ。
S- 昨日より天気いいぐらいだね。雨降ってない。
N- もうすぐ台風くるっていうのにね。嵐の前。屋久島には5,6回来てるけど、ラッキーなことに晴れが多いから。でも天気悪くても、好き。


S- 展望台で停まろうよ。
N- どっち?東シナ海?夕日の見えるほう?
S- どっちも。
(東シナ海の展望台に車を停めて外へ)
N- ひー、飛ばされるー。
S- すごい、気持ちいいー。
N- 海面に波が舞い上がってる。


S- でも刻々と風景が変わるね。向こうは青空が見えてるけど。
N- 山からは黒雲だよ。帰んなきゃ。早く乗って。
S- (再び車内DJ)あっ、待って。停まってよ。でかい石があるよ。
(渚、車を路駐)
なんか、いい感じの場所だよ。
(繁雄先に車を降りて場所を探しに行く。渚は車を停める場所を探す)


N- (追いかけてきて)なに?ここ。
S- なんか解説があるよ。
(吉田の大石とある)
今から1550万年前に、海底が隆起して屋久島ができた。吉田の大石がいつからここにあるかわからないらしいけど、地元の人たちは、この石を信仰の対象にしてきたって書いてあるよ。
N- すっごく大きいけど、かわいい石だね。
(2人とも草むらをかきわけて大石に抱きつきに行く)


N- 虫に刺されそー。
S- 山から土石流といっしょに、ころがり落ちてきたんだろうな。
(車に戻って、また出発)


N- でも、ホント、送陽邸のある永田のエリアって特別なかんじの場所だよね。
S- どうして送陽邸を知ったんだっけ?
N- わたしは、むかし旅館の仲居をしてる時に雑誌で見たの。行ってみたいなあって思ってた。20年くらい前かな?
S- 僕は6年くらい前かな、雑誌の取材で屋久島に来て、車に乗せてもらって海岸を走っている時に、異様な建築群を見つけたんだよね。それが送陽邸だった。帰ってきて、渚にその話をしたら「それって、わたしが行きたかったところだよ!」って盛り上がって。


N- それ以降、ほとんど毎年夏に来るようになったね。
S- 世界中いろんな場所に行ってきたし、沖縄の御嶽や聖地・霊場にもずいぶんと巡礼したけど、屋久島、特に送陽邸は僕らにとっては特別な場所だね。
N- あんなに虹がでる場所もないし。だって、ウミガメが昔から産卵にやってくる浜に建ってるんだよ。昨日の海岸で、偶然遭遇したカメちゃん、ほんとにかわいかったなあ。こんなに雨が降って、波も荒れてるのに、水が全然濁らない。澄んでるよね。


S- 昨日の夜、送陽邸の主人が言ってたけど、台風19号ソーリックは中心付近の最大風速は45m(最大瞬間風速は60m!!)だって。どーなるかなあ。
いよいよ臨戦態勢突入かな。
N- 風が強くなってきたね。
S- まだ雨降ってないし、永田のお墓見に行こう。
N- きのう大将が言ってた、永田公園のところね、オッケー。


(横河渓谷の入り口のお墓)
S- (墓を見ながら)無縁仏になっちゃってる墓もあるなあ。やっぱりここに作りたいな。海の真ん前だし。 
N- 生きてる間に、先に自分のお墓を作って、逆に自分でおまいりし続けるっていうのがいいよね。
S- なんか、2人で最終的に入る場所が決まっているっていうのがいいと思うんだな。死んでからも仲良くしていられるし。
N- さんせいー。
S- 横河のあたりもそうだし、永田公園のところも、大昔の土石流で流されてきた大きな石だらけだね。
N- その中から石を選ぶ。できるだけ自然石を選べたらいいね。
S- あの「丸石信仰」の石みたいに。人工なのか、自然なのかわからないくらいで。
N- このあたりの土手とか石垣は、みんな丸石が使われてるから、意外とあるかもしれないし。
(繁雄、永田区総代のところに電話をしに行く)


S- できるかもしれないなー。まあ、じっくり本気でやろう。


(送陽邸に戻り、いなか浜でランチ)
N- 風が強いから、買ってきたのり巻きが風で飛ばされちゃうよ。(と、気のすすまない様子)
S- 大丈夫だよ。あそこの岩まで行こう。
N- (歩きながら)でも、本当にきれいな砂だね。石もきれいで、かわいいし。



S- 永田の花崗岩はきれいだね。京都のうちにもけっこう永田の石が「いる」よね。
N- 石どうし、仲良くしてるね。昔、この世界には「祝福されている場所」と「されてない場所」があるって言ってたよね。
S- そうだね。都市のビルとビルのすき間とか。建物が壊されるまで、何十年も「死んだ場所」になる。人間がいなかったら、地上はいっぺんにパラダイスに戻るだろうね。昔、ブラジルのリオデジャネイロに行った時も思ったな。ヨーロッパから征服者が来て、それまでインディオたちが自然と調和しながらつくられていたエコシステムは解体されてしまった。でも、リオも大きな石の山でできていた街で、ちょうど屋久島が巨大な岩の島であると同じように、石が作り出す特別な磁場がある。
N- いいヴァイブレーションがある。


S- 送陽邸だって、ビョークとか、ヨーロッパや世界中の「いいセンサー」を持っている人に愛された不思議な旅館だよね。
N- 大将が屋久島中から集めてきた古い家をバラして、つぎはぎして作ってある。素人の建築の寄せ集め。屋根の上には丸い石が積まれていて「重し」になっている。やっぱり石のヴァイブレーションがあるのよね。


S- 僕は子どもの頃から、家業が「鉱業所」だったから、鉱物といっしょに育った。蛍石の大きな原石がおもちゃだったしね。石をたくさん集めてたよ。
N- 石を集めるといえば、屋久島の一湊い住んでた詩人の山尾三省も石を集めてたよね。うちにもその本あったよね。
S- ゲーリー・スナイダーとの対話集「聖なる地球の集いかな」とか「ジョーがくれた石」とか。アニミズムとバイオリージョナリズムをそれらの本から学んだな。
N- 石にはセラピーの力もあるしね。ストーンセラピーの技法もあるし。ストーンセラピーはある女性セラピストが、夢で見て発明した技法といわれているけど、実はネイティブアメリカンの間に昔から伝わる技法なんだよね。


S- そうだね。やっぱりいい「場所」には条件があると思う。永田の送陽邸は石とか海とか気流とか、太陽の光(夕日が沈むのが見える)とか、条件の組み合わせがそろっているんだと思う。


N- 屋久島にはもう何回も来て、縄文杉とか滝とかひととおり見たら、もう、島に来る理由って、送陽邸に来ること自体が目的になっちゃったよね。ほかの宿に行くなんて考えられない。
S- 送陽邸に行って。今年もハンモックにゆられながら、用意してきたハイボールを飲みながら海を眺めている。なぜか、こんなにいいヴァイブレーションの場所なのに、ほとんど周りに人はいないので、美しい自然を2人だけで堪能できる。


N- 雨が降ってきて濡れても、ぜんぜんイヤじゃないし。
S- そう。お金で買えないものがあるね。
N- ここに来ると、カラダもココロも同調してカラッポにかわるしなー。ところで、昨日海に入って、波のなかに仁王立ちしてたけど、何か気づいたの?
S- 白い美しい波が生まれては消えて。そのあり様を海は何億回も繰り返しているんだなーって。それ自体は人間が考える「意味」とか「目的」とか何も無いものなんだよね。そんな宇宙のいとなみの中で、人間だけが「意味」の世界にしばられて、ウンウン苦しんでる。ああ、「まかせればいいんだなー」って。
N- 明日、台風で飛行機が飛ぶかわかんないけど、屋久島は島としたら、小島じゃないけど、台風に比べたら「点」だよね。ここにいたら、すべてを「やりすごすしかない」と実感できる。
S- ジタバタしないのは、ラッキーへの道かも。


(雨が降ってきたので浜から送陽邸に戻ってくる)
N- おっ、いよいよ伝説の。
S- 全部窓が下げられているよ。
N- スカスカになってるよ。
(テーブルも窓もとりはらわれている。送陽邸の大将と息子たちが鎖で屋根を留めている)
大将- きますね。台風が過ぎてからの南西の風が問題ですな。
N- 夜半から明け方が暴風域らしいですね。
大将- どうなりますかなー。
息子- 晩御飯は母屋か、それぞれの部屋になりますね。


(部屋に戻って、台風の様子を見ている。渚はずっと携帯で明日の帰りの飛行機の状況を調べている。繁雄は布団に寝転んで、この原稿を書いている。となりの部屋から声がきこえる)
息子- ゴトーさん、ちょっといいですか。(と言って、ベランダに入ってきて、丸太でベランダの補強。しばらくすると、雨が豪雨に変わる。風も強くなる)


N- うーん。いろいろ考えても、なるようにしかならないなー。(と、携帯を放り出して、布団の中に入りこむ)わたしは、送陽邸なら、何日居たってうれしいんだけどね。
(僕らは、もうなるようにしかならないと腹をくくって、島と天気に任せた。台風は駆け足で去り、僕らは何もなかったように、無事、飛行機は飛んだ。来年また来るからねー)



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