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モブでいたくなかった人間達



たった今急にデスゲームが始まったなら、私は間違いなくモブその1。
だって意味がわからないから。
絶対わたわたして、そのまま気付かない内に死んでしまいそうだもの。
私は別に勉強ができる訳でもないし、脱出ゲームとかの謎解きや、ロジックとかのパズルも苦手。
要は考えること全般嫌い。

でもよく、ゲームが始まった途端に「俺は1抜けさせてもらうぜ」とか言って出口の方へ向かっていったり、「死にたくないよぉぉ」とか騒いで五月蝿がられて見せしめのように殺されるキャラクターがいる。
私はあれの方が心底羨ましい。
アイツらにはしっかり名前があって、役割もある。
死ぬ直前に、役割を果たして印象に残って消えてゆく。
下手に物語の中で急に殺されるモブより余程いい。

私は、声を発するまでもなく大勢の中の1人としてなんとなくゲームをして何となくゲームの中で死んだことになって顔に×がつく女。

そう思ってた。

「今から、皆さんには殺しあってもらいまーす」

目の前にいるピエロは確かに私にそう言った。
正式に言うと、私たち。
周りにいるのは、互いに得体の知れない人達で、起きたらここに集められてて。
大体10人くらいの、背丈年齢バラバラの男女。

「ほんとに…こんな世界が…」
私がそう呟くと、背の小さい女が叫び始めた。

「ちょっとー!どういうことよ!帰してよー!!死にたくないよぉぉぉ」

しまった、出遅れた。私がその役をやるはずだったのに!!!

「し、死にたくないよぉぉぉぉやだぁぁぁママァァァァ」
私は女よりでかい声で叫んだ。

決まった、これで私が最初に……

「俺だってやだよおぉぉいっそ殺してくれよぉぉ」

「やるなら俺をやれ!!!みんなは助かれ!!!」

思い思いに全員叫び出した。
私は驚いて呆気に取られてしまった。
ピエロも呆気に取られている。

まさか……こいつら全員……

「やってらんねーな、俺は出口を探させてもらうぜ」

叫んでいた男が立ち上がった。

なるほど!その手があったか。
全員が叫んでしまったことで、うるさくする→死ぬのルートが無くなってしまったなら、別の形で目立てば良い。

「あー、帰っちゃうの?そういうルール守らない子は~」

ピエロが口を開いた。まずい。

「わ、私もやってらんないぜー。馬鹿馬鹿しい、なにがデスゲームよ~」

大根顔負けの棒読み芝居で私は男と反対方向に歩き出す。

「ルールを守らない君たちは~」

ピエロが私と男に銃口を向けた。

やった!これで私も!!!

「私も、殺せるもんなら殺してみろって感じ~」

「デスゲームとか今どき古いもんなぁ、出口探すしかないかぁ~」

全員、立ち上がってしまった。

間違いない。このメンツ、
とんでもないキャラ被りをしている。
全員私と同じ思考の持ち主。モブになりたくない、普通すぎる、人生モブ野郎共だ。

「……」

ピエロもどうしていいか分からなそうで、段々可哀想になってきた。

その後も続く、ゲームでよくある目立つ奴合戦。

ピエロに立ち向かおうとするものや
武器を持って死のうとするものは
全員に真似された。

全員を説得しようとリーダーっぽく振る舞おうとするもの、
「バカだなぁお前ら、冷静になってみろよ」
などと賢いキャラのような発言をしたやつだけは触れても貰えなかった。
単純に鼻についたからだ。
そいつらはモブ以前に、このメンツの中だと物語にも入れて貰えない。

全員、以下の考えでまとまっている。

『いかにモブらしくない方法でいち早くピエロに殺してもらえるか』

誰だって本当は生き残る主人公になりたい。
だけれど、知能や自分の性格のそれが、
主人公の立ち位置になれないことをちゃんと知っているのだ。
だからこそ、自分はモブであると認めている。
だからこそ、今モブとして死にたくない。

10人のモブの醜い争いが続いた。

半日は過ぎただろうか。
全員疲弊して、眠気が訪れた。
「俺は、寝るぜ。夢かもしれねぇからな」
と、とある男は寝始めてしまった。

ピエロは来た、チャンスだと言わんばかりのニヤリとした口元をした。
だがしかしここは、考えることが苦手なモブから抜け出したいやつの集まり。

「私も…眠すぎるから一旦寝るね…」
「みんな寝るなら…いっか…」
「とりあえず…起きてから考えるか」

1人だけ抜けがけさせるかと、
全員寝始めてしまった。

「ここの人間は…アホしかいないのか」
ピエロは呆然として、ボソッと呟いた。

ただ1人、私だけがその言葉を聞いていて。

「聞き捨てならないわ」

立ち上がった。

…あれ?みんな起きない。

周りを見ても、全く真似をしてくる様子がない。

やった!私の勝ち!!

「これで私は格好良く、死ねるわね」

私は銃を手に取り、ピエロに向けた。

「どうせあんたを殺せばゲームは終わ…」

るんでしょ、とイキリモブっぽい言葉を言いかけた時、1人の男が目を覚ました。

「あ、お前…!!」

私は慌てて銃をそいつに向けて、撃った。
即死。

「「あ?」」

ピエロと私は思わず同じ声を出した。

その後も次に起きたやつ、起きたやつ、最後まで起きないやつ全員撃った。

「……」

私は、生き残っている。
そしてこれは、間違いなくモブのやり口ではない。
喜ぶべきことだ。

なのに私は。

急展開を迎えたデスゲーム。ピエロは拍手で私を迎える。

「君の勝ちだ」

なりたかったはずの、主人公。
脱却した、モブという形から。
でも今は、心ここに在らず。

私は、人を殺した。

欲をかかず、モブでいられたなら、どれだけ幸せだっただろうか。
変わることを求めず、モブでいられたならこんなにも背負うものは無かっただろうか。

形だけ出来ても、
私はやはり、主人公になれる器ではなかった。

パァンッ

「あ」

ピエロは今度は1人で声を出す。

「なーんだ、お前も普通だったのか」

残念そうにどこかへ消えていくピエロ。

「モブって、最高じゃん…」

私はピエロの言葉が嬉しくて、死にゆく中、笑うのだった。

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