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another story-ほんとのところ②

パイナップルの香りのリップバームと
ベリーミックスの香りのハンドクリームを選ぶ。
どちらもスヌーピーがデザインされているもの。
簡単なラッピングの袋に入れてもらった。

先生のインスタのプロフィールに
「海も好き。BEER も好き。SNOOPYも好き」とある通り
ハンカチや服やバッグにもスヌーピーを選ぶくらい大のスヌーピー好き。

今日はそのスヌーピーをバッグに入れて来た。

待ち合せは水の宇宙船がシンボルの立体型公園。
9月も今日で終わるというのに、最高気温は30℃を超えるらしい。
立っているだけで額から汗が噴き出るくらいの暑さ。

約束の11時を少し過ぎた頃、先生が来た!

いつもの帽子に白いTシャツとデニムのパンツとスニーカーに
スヌーピーのミニトートバッグというラフな格好。
手にはジャケット。

先生と教室の外で会うのはやっぱり不思議な気分。
私の知っている同年代の男性は会社勤めの既婚者が多い。
みんなポロシャツやTシャツにチノパンとかデニムを合わせた
如何にも日曜日のお父さんといった格好をしている。
だから、軽い感じで小綺麗にしている先生がとても新鮮に見える。

先生が私に気付いて唇をすぼめた、おっ、という表情をしたのに
ほっと安心して笑顔になる。

「おはようございます」

「おはよう、すごい暑いね
待ち合わせ場所勘違いしてて慌てちゃった。どっかお店に入ろう」

先生は額の汗をハンカチで拭いながら言った。
すぐ目の前のカフェに入った。

アイスコーヒーと紅茶を頼んで向かい合わせに座った。

「なぎちゃんのお仕事って本を作っているの?」

「うん、洋楽や映画の雑誌の出版社なの」

「何ていうところ?」

会社名を伝えると先生はスマホで検索し出て来たページを見せた。

「本当だ、みんな海外の人だね。最近の人って全然分からない」

意外だと思った。
先生の仕事柄から音楽全般に詳しいと勝手に想像していた。

「先生は普段どんな音楽を聴いているの?」

「普段ね、あんまり聴かないよ。
聴くとしたら、生徒さんがこの曲をやりたいって言ったものとかだね」

それも意外だった。
あっと思い出してバッグから青いリボンが付いた袋を取り出した。

「渡したいものがあるの」

両手ではい、と先生に差し出した。

「え?何?開けていい?」

「うん」

あのスヌーピーのハンドクリームとリップバーム。

「この前、先生の手に触れたとき
手のひらがすごく硬くてカサカサしていたから」

「ありがとう。すごい可愛い」

先生は嬉しそうにハンドクリームを手の甲に塗った。

「10月2日は誕生日なんだ。ちょっと早めのプレゼント。
ありがとう、すごく嬉しい」

「10月2日が誕生日なの?知ってる?その日はスヌーピーの日なの
スヌーピーの日が誕生日なんて、先生にぴったりだね」

良かった、喜んでもらえて。
微笑んでミルクティーのカップに口を付けた。

「なぎちゃんの誕生日はいつ?」

「6月9日なの」

「じゃぁ、ロックの日だね」

笑ってうんと頷いた。

「なぎちゃんは、今日いつまで一緒にいれるの?」

「7時くらいには家に着いていたいかな?」

「そろそろ出る?」

うん、と頷いてお店を出た。

右側を歩く先生の左腕に触れると、先生はすっと私の手を掴まえる。
エレベーターに乗り顔を見合わせて微笑むとどちらかともなくキスをした。

どこに行くともなく、ビルの間を日陰を見つけながら歩いていた。
人通りが少なくなって向こう側に住宅街が見えてきた。
目の前に灰色のコンクリートの建物、そう、ラブホがあった。
まさか・・・

「ねぇ、どこに行くの?」

「どこって、休憩処・・・」

足が止まった。
ふたりで会ったからと言って
今日、必ずそんな関係になりたい訳じゃない。
お互いのことを知って少しずつ分かり合っていけたらいいのに。

「先生は私のこと好きなの?」

「分からない」

その言葉に俯いた。
自分のことを好きかどうかも分からない人と
セックスしてもいいのだろうか。

「嫌なら、いいよ。無理しないで。どこかでお話ししよう」

先生は私の手をひっぱりその場を離れようとした。
ここで拒否したら、次が無い様な気がした。

「じゃ、行こう」

先生の手を握り締めた。

「なぎちゃん、聞くよ?これは遊びだよね?」

一瞬怯んだ。
やっぱり断るべき・・・
この先に私の幸せはあるはず、ない・・・
でも、体を使ってでも先生を引き留めたかった。
私は先生に愛されたい。。。

「うん、分かってるよ。本気にならないよ、大人だから・・・」

物わかりが良くて大人で少々軽くて、、、
これからそんな女を演じるんだ。
それでいい。
私にはそれが似合っているのだから。。。









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