スペインと日本を結ぶ若き大麻農家の話

 カナダのマニトバへ留学して農業を学んだ経験を持つ、スペインと日本のハーフの青年、手塚ニコラ氏の話を聞いた。
 彼は、カナダではワイナリーで働き、オーガニック酵素に出会った。その後、311で原発事故が起きた直後に沖縄に避難し、日本を脱出することを決断し、母親の故郷であるスペインのムルシュア州カラバカ・デ・ラ・クルスに夫婦で移住をはじめた。そこで、未経験ながら、大麻農家になることを決意。彼の地が合法かどうかも分からぬまま調査を開始すると、THCの低い三十数種類の種からの栽培は可能であることがわかった。
 カラバカ・デ・ラ・クルスは、日本同様に大麻の産業が衰退しており、彼が移住した当時は大麻農家は一軒もない状態であったが、大麻産業は400年の歴史があり、昔は漁網や教会の鐘のロープ、靴底、サッカーゴールのネット、そして、船の帆や舫いロープなどにも使われていたそうだ。大航海時代を牽引してきた代表国であることを考えると当然のことといえる。大麻があったからこそ、織田信長も異国文化に触れることができたともいえる。
 農地を取得した彼は、暗中模索の中、大麻栽培を開始する。独学ではあるが、奥さんとともにがむしゃらに大麻栽培に専念する日々が続く。ムルシュア州は歴史的に大麻と関わりの深い土地ではあるものの、大麻農家は彼一人。だが偶然にも、6年前に他界した母方の祖父は、この土地で大麻農家を営んでいたということを知り、大きな勇気をもらう。現在もムルシュア州では大麻農家は彼一人という状況が続いているが、自身の生活を「ムルシュア州に大麻を復活させるプロジェクト」と位置付け、栽培を続けている。彼が移住した当時にはスペイン全体でも20軒しか大麻農家は存在せず、現在でも50軒ほどしかいない。ここ数年増えた農家は、世界的に流行しているCBDオイルを生産することを目的としており、彼のように麻の実を食材にしようと考えている人間は一人もいない。スペインではヘンプシードナッツは、ほぼ輸入に頼っているというのが実情だ。しかし、そこにこそ勝機がある。
 さて、彼は現在、ムルシュア州認定のオーガニック農法に加えて、カナダで学んだ農法を取り入れている。具体的には、無農薬で微生物や酵素を使い、水も100年前にアラブ人たちがつくった水路を流れる天然水を使用している。スペインの太陽と空気の中で、手作業で雑草や虫たちを除く作業を夫婦で黙々と続ける、正真正銘のオーガニックヘンプといえる。その上、養蜂も行っており、受粉も蜂達にお願いしているようだ。今後は有機物を使い、耕さずに育てていくことを目標としている。現在、収穫した麻の実を低温圧搾したオイルと、ローのヘンプナッツを日本に輸出できるよう、手続きを進めている。販路は現在模索中である。スペインの麻繊維を使った日本の織物活動も行う。今後はヘンプシードオイルを使ったコスメ製品も開発する予定である。オーガニックの食材を日本に輸出したい。オーガニックヘンプで、日本を元気にしたい。それが、311の後に日本を後にした彼ら夫婦の願いだ。
 これだけしっかりしたオーガニックヘンプ食材は、恐らく日本には存在しないだろう。
 彼ら夫婦の活動と、彼らがつくるヘンプ食材は、大いに注目すべきである。


(スペインの参考データ)
カジョサ・デ・セグラは現在も大麻博物館のある産地でした。大麻産業は日本とほぼ同時期の1960年代以降、石油産業の発展と共に衰退して行きましたが 繊維でロープや漁網を作っていた編む技術は、化学繊維に成り代わった現在でも活かされています。
https://www.youtube.com/watch?v=mFafH4MtnEU
*現地の紹介PV 2分30秒から大麻の映像が出ます

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