人がリスク行動を起こす原因とは! 芸人にとってYouTubeとはどんな存在?

初めまして!法政大学経営学部永山ゼミの三期生です。

私たちのゼミは、プログラミングや統計を駆使するデータ・サイエンスのアプローチから、クリエイティビティ(新規かつ有効なアイディア)が促されている仕組みや要因を明らかにすることをテーマとして活動しています。

そんな中今回の私たちの研究テーマはこちら。

人間のリスク行動について


人々は時折リスクを追ってまで、その後の成功に賭けて行動に移すときがあります。しかし、全てが成功するわけではありません、失敗することもあります。
では、いったいどのような時に人々はリスク行動を起こすのでしょうか。


【今研究のきっかけ】
この研究は何気ない世間話から始まったものでした。
最近一番見るメディアは何かという話題でチーム全員がYouTubeと答えました。そんな時、1人のメンバーが「そういえばYouTubeをやっている芸人って最近テレビに出ていないよね。」と言い出したのです。確かに自分が小さい頃見ていた芸人はいない人も多い気がする...。

皆さんも最近テレビで見かけなくなった芸人はいますか?

何百人の芸人がいるのでたくさんの芸人が浮かぶと思いますが、私たちが最初に頭に浮かんだ芸人はこちら...


中田敦彦氏です。


中田敦彦氏と言えば、2003年に相方藤森慎吾氏と『オリエンタルラジオ』を結成。そして翌年にMー1グランプリでNSC在籍中ながら準決勝に進出したという伝説を持っています。
その後は『武勇伝』で大ブレイクし、数々のテレビ番組に出演。また、2014年には音楽ユニットである『RADIO FISH』を結成し、楽曲『PERFECT HUMAN』が大ヒットしました。その結果紅白歌合戦にも出場するなど、芸人の枠を超えてテレビで大活躍する人でした。


そんな中田氏ですが、最近はテレビで全然見ない!
実際のデータからも見てみると、2019年のテレビ出演本数はなんと...

画像1

出典 :https://www.oricon.co.jp


たったの14本だったんです。
(年間のテレビ番組出演本数を表示、最大出演数は2007年で471本。)

昔は大人気でたくさんのテレビ番組に出演していたのに、最近ではオリエンタルラジオとしても中田敦彦としてもテレビに全然出ていないんです。
では一体、中田氏は現在何をしているのでしょうか。

一番有名なのは中田敦彦のYouTube大学の開設でしょう。2019年5月に開設し、たった開始5ヶ月で登録者数100万人を突破。視聴再生回数は1億5000万回を突破しています。他にも、青山学院大学経営学部の客員講師や、アパレルブランド『幸福洗脳』や音楽グループ『FAUST』のプロデュース。また、オンラインサロン『PROGRESS』の開設やカードゲーム『XENO』の考案・開発などを行っています。
出典:https://www.nakataatsuhiko.com


このように中田氏は、芸能界だけではなく、リスクを背負いながらも様々な新しいことに精力的にチャレンジしている事がわかります。

では反対に、中田氏の相方である藤森慎吾氏はどうなのでしょうか?調べてみると、とても興味深い事が判明しました。


2019年のテレビ出演本数はなんと...

画像2


出典 :https://www.oricon.co.jp


124本。

中田氏とは正反対でたくさんの番組に出演しており、バラエティー番組だけでなく『私、失敗しないので』でお馴染みのテレビドラマにも出演。またミュージカルや映画などにも出演しています。レギュラー番組を持ちながらプラス俳優業としての仕事もあり、華やかな芸能界でマルチな活躍をしています。


このように2人ともチャラ男やPERFECT HUMANでブレイクするだけの力や才能があったのに、藤森氏は現在も華やかな芸能界で幅広い活躍、
一方中田氏は、テレビを離れリスクを伴いながらも新しいことに挑戦し続けています。


そこで私たちは、中田氏のリスク行動には何かが影響を与えているに違いない!そう考えたのです。


【仮説】
私たちはHenrich R Greve の論文「Performance, Aspirations, and Risky Organizational Change」を読み、『希求水準』と『組織行動』というものに着目しました。
Henrich R Greve (1998)によると
「希求水準とは成功と失敗の間のボーダーラインであり、知覚者によって知覚される決断における議論や疑念のポイントとなる基準である。」とあります。
分かりにくいので言い換えると、
「希求水準」は決断時にみられる最低限の結果のことで、この「希求水準」が満たされないときに人々は「組織行動」に変革をもたらすということです。


これを中田氏で例えるとどうなるのでしょうか。
私たちは「レギュラー番組の本数」が最低基準を満たしていないときに「テレビ以外に活躍の場を移す」のではないかと考えました。

過去にテレビで活躍をしていた2人ですが、藤森氏に比べ中田氏は、過去の実績から自分にはこれくらいの力はあるのにというレギュラー本数の希求水準に対して、実際のレギュラー本数が上回ることが出来ていない。そこで、ここでは自分の才能は認めてもらえないと『評価の隔たり』を感じ、その結果『リスク行動』を行いYouTube業界に移動したのではないでしょうか。


よって、私たちは先行研究とこの考えから

『評価の隔たり』が『リスク行動』に正の関係を引き起こす

という仮説を立てました。


【研究方法】
今回この研究で扱う対象はもちろん!

お笑い芸人です。

研究対象:お笑い芸人 204名

(条件:1.1995年~2017年大阪・東京NSC卒業の吉本芸人 -事務所格差を考慮し吉本に統一
    2.Wikipediaに掲載されている芸人
    3.在京キー局の出演経験のある芸人)

たくさんの芸人の中からこの条件の人に絞りました。

そして仮説を芸人に当てはめると

上記の条件の芸人達の特色を調べた中で、『YouTube進出』をしている芸人に一番影響を与えているのは『評価の隔たり』である

ことが分かれば、この仮説を立証することが出来るのです!

(『評価の隔たり』を『希求水準』、『リスク行動』を『テレビ以外に活躍の場を移すこと(今回は分析をしやすくするためYouTube進出に限る)』と定義するため。)

データは先ほども使用したORICON NEWSの芸能人辞典を使用したいと思います。


では早速詳しく分析してみましょう!

【分析手法】
私たちが使った主な分析手法はこちら...
コックス比例ハザードモデルを用いたサバイバル分析です。

サバイバル分析とは...?
イベントが発生するまでの時間と、イベントとの間の関係に着目した分析で、イベント発生までの間に起こる様々な要素の影響を見ること。
(https://jp.mathworks.com/help/stats/survival-analysis.html)

つまり、『YouTube進出』(イベント)が発生するまでの間に起こる『評価の隔たり』(要素)の影響を見ることができるのです。

説明変数 :『評価の隔たり』
被説明変数:『YouTube進出(ダミー変数)』

ではこの条件で早速サバイバル分析をやってみましょう!と言いたいところなのですが、その前に『評価の隔たり』を数値化したいと思います。


今回私たちは説明変数とした『評価の隔たり』を

『評価の隔たり』=(予測のレギュラー本数)ー(実際のレギュラー本数)

と定義しました。

しかし、予測のレギュラー本数なんてわからないですよね....
色々な芸人さんがいますし、キャリアも違えば獲得した賞の数も違います。

そこで今回使用したのは固定化効果モデルです。
この『固定化効果モデル』とはレギュラー番組本数に影響を与えそうな様々な要素の
時系列データで分析することで、予測のレギュラー本数を算出する事ができるのです。
(http://ryotamugiyama.com/2016/01/09/fixed_effect/)


例えば、中田敦彦さん(2019年)の場合
固定化効果モデルにて出た予測レギュラー本数は3.71(本)。
一方で実際のレギュラー本数は1(本)となり

『評価の隔たり』は(予測のレギュラー本数)ー(実際のレギュラー本数)ですので、
3.71 ー 1 = 2.7
この2.7という数字を今回『評価の隔たり』として使用しました。


そして実際の評価の隔たりの結果はこちら...

画像4

画像3

(評価の隔たり上位20人を記載)


このように評価の隔たりが多い人は結構多いのです。
では、評価の隔たりを数値化できたので、早速サバイバル分析を行っていきたいと思います。


【結果】
サバイバル分析の結果はこちら…

画像5

表の左側の『評価の隔たり』はサバイバル分析においての説明変数、それ以下はコントロール変数です。右の各値は各変数の傾きが表示され、数値に付いている星マークはあればあるほど統計的に有意なものとなります。

つまり、今回の目的である『評価の隔たり』は、『YouTube進出』に対して優位に影響を与えました!
しかし『評価の隔たり』は、『YouTube進出』に負の影響を与えるという結果が出てしまったのです。

したがって、仮説「『評価の隔たり』が『リスク行動』を引き起こす」は棄却されてしまいました。


【今後の研究に向けて】
残念ながら、私たちの仮説は棄却されました。
なぜこの結果になってしまったのでしょうか。

私たちが考えた問題が2つあります。

1つは芸人個人の年齢や芸歴です。
どんな人でも若ければ若いほど失敗してもやり直せる環境にいます。そのため評価の隔たりがなくても、チャレンジとして新しいこと(リスク行動)を行います。一方で、年を重ねると挑戦がしづらくなり、評価の隔たりが起きていたとしてもリスク行動を起こさないのではないかということです。そこを加味して年齢や芸歴事に分析をかけられれば、また違った結果がでるのではないかと考えています。

2つ目は芸人にとってYouTube進出はリスク行動ではないのではないか?と言うことです。
YouTubeは無料で動画を投稿する事が出来ますし(編集や機材の費用は別として)、
一度ブレイクしたことある芸人さんなら無名YouTuberよりファンの数も多いと考えられます。そのことから再生回数も稼ぎやすく、そこまで苦労しなくてもYouTube進出できるのではないか?と言う結論に至りました。


このように研究結果からでた問題を反映させ、まだYouTubeに進出している芸人さんが少ないことから検証結果がまた変わるかもしれないと言う希望を持ちつつ、今後も研究していきたいと思います!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?