紅一点
小2くらいだったと思う。
彼女に出会ったのは。
茹だるような暑さが街行く人の表情をこわばらせていた。猛暑日ってやつだ。
そうなると喉が渇くもので。
潤いを求めて冷蔵庫を開けると、そこに彼女は居た。
お茶とか水ばかり飲んでいた長島少年にとって、その出会いは衝撃的であった。だってお茶なのに赤いんだもん。
午後の紅茶のストレートは赤い。
今思えば「赤は止まれ」くらいの常識だ。
この時の僕は赤で止まれなかったんだけども。
キャップを捻ると同時に喉に流し込む僕の姿は、パッケージの彼女にどう映っただろう。
半分減った辺りで彼女に目をやると、心なしか微笑んでいた。
きっと気のせいだろうが、当時の僕にはそう見えたのだ。
おいおい、美味すぎるだろ。
こんなにも美味い飲み物があったなんて。
震えたよ。
これまで彼女と向き合ってこなかった自分を恥じた。無知である辛さを身をもって知った瞬間であった。
それからというもの、ことある毎に午後の紅茶を欲した。あと午後女神様と呼ぶことにした。
その甘さと美味さにあてられた1人の少年に、飽きなど来ようはずがなかった。
中2の夏休みには毎日1.5Lのペットボトルを空けた。男子あるあるのコレクター癖が働き、学校が始まる頃には部屋の床一面に彼女が横たわっていた。
ゴミ出しの際、母とやや揉めたのを覚えている。
今でこそあんなジャンキーな飲み方はしていないが、たまにあの日々を思い出すのだ。
部活で疲れた体に流し込んだストレートティー。
一緒に花火を見上げたレモンティー。
雪降る北長岡駅で手を温めたミルクティー。
自販機にあると買っちゃうアップルティー。
あ、あれリプトンだわ。
午後の紅茶の方も愛してます。
思えば僕の青春はいつも午後の紅茶と共にあった。それはきっとこれからも変わらない。
何年経っても変わらぬ美味しさと紅茶業界の益々の発展に乾杯。
拝啓 キリンビバレッジ様
いつかCMのオファーお待ちしております。
長島多稀
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