連続対談「私的占領、絵画の論理」について。その13 辻可愛という振動

画家二人による連続対談「私的占領、絵画の論理」の第三回が、9月18日の金曜日に予定されています。今回のゲストは辻可愛さんです。要予約となっています。貴重な機会ですので、皆様ぜひご来場ください。コロナ対策として席数を絞り、消毒液も準備してお待ちしています。「一人組立」とART TRACEの共同企画です。

一人組立×ART TRACE 共同企画
連続対談シリーズ「私的占領、絵画の論理」
第三回「予感を描くことは可能か」 ─ 辻可愛 ─

辻さんは1982年生まれ。2006年に東京工芸大学芸術学部デザイン学科を卒業されたあと、2009年から2012年にかけて、極めて先進的な教育機関であった四谷アート・ステュディウムに在籍されています。四谷アート・ステュディウム在学中から作品の発表をはじめ、昨年もスタジオ35分で個展、『節むす穴むす』を開催されています。

『節むす穴むす』。面白い(あるいは変な)個展タイトルだと感じないでしょうか。辻さんのwebサイトを見ると、今までの活動歴が掲載されていますが、展覧会タイトルがどれも面白い(あるいは変な)ことがわかります。ちょっと列挙してみましょう。それぞれの展覧会には辻さんのfrickerをリンクしておきますので、そちらでぜひ展示風景や作品画像をご覧ください。

2011年『walk barefoot』、GALLERY OBJECTIVE CORRELATIVE、東京

walk barefoot=はだしで散歩、でしょうか。イメージ喚起的ですが、まぁわかります。

2012年『辻可愛展』、GALLERY OBJECTIVE CORRELATIVE、東京

まぁ普通。

2013年『階段下の声/あの床の冷たさ』、waitingroom、東京
『双眼鏡で隣に座る』GALLERY OBJECTIVE CORRELATIVE、東京

『双眼鏡で隣に座る』? ちょっと不思議になってきました。

2014年『ぶつけた小指』、Studio 35 minutes、東京
『どろどろの触手』、WISH LESS gallery、東京

わかんなくなってきたぞ。

2018年『ちるちり』、TABULAE、東京

ちるちり。散る、散り?

2019年『節むす穴むす』、Studio 35 minutes、東京

ええと、ええと、なんだろうこの感覚。

画家を呼ぶにあたって、いきなりその人の作品ではなくタイトル、言い換えれば画家の発した「ことば」に注目するのは邪道ではないのか、作品そのものに注目すべきではないのか、と考えるのは正当なことです。でも、僕は、この、辻さんの展覧会のタイトルに覚える「なんだかちょっと、奇妙な感じ」は、辻さんの作品と重要な点で関係していると思います。

言葉は、文字ですから、一般に眼で見るものです。むろん視覚に困難を持つ方が点字などで触覚で感受することもあるでしょうが、いずれにせよ文字は同時に「音」を付随させます。つまり、人はことばを受け取ると(生来聴覚に障害がある方を除けば)その言葉に音の振動を感じる。

そして、絵画は、光を反射して人に感覚されます。光は波長の差によって色彩となります。絵画上の色彩もまた、光の波=光の振動として見てとられる。ことばが音の波長の連なりであるように、絵もまた、光の波長の差異によって構造を組み立てています。上の、辻さんの個展タイトルにリンクされたfrickerを、もう一度ご覧ください。Webの画像越しであっても、辻さんの絵画作品が、極めて強く光の振動を感じさせることは伝わるのではないでしょうか(このブログで何度も強調していますが、ぜひ実作を見てください。対談当日は、何点か、辻さんが作品を持ち込んで下さいます)。

この、震えの感覚を基底に置いたとき、辻さんの作品と、辻さんの展覧会タイトルを含めたことばの関係が、通り一遍のものでも、ましてや奇をてらった、広告的な発想のものでもない、十分に構造的な連携関係を持ったものであることは了解可能なはずです。だから、辻さんの作品を考えるとき、辻さんが発する「ことば」に注目し、「ことば」と作品の関係を見ることは、間違いなく有意味だろうと思います。

2018年3月23日、墨田区向島のアトリエ兼スペース「TABULAE」で見た個展『ちるちり』会場で、辻さんの作品を前にして、僕は、やはり色彩のバイブレーションを感じていました。パネルに描かれた、風景や植物がかなり抽象化されつつも、しかし元の参照項が失われていない絵画をみていると、微妙な濃淡のある絵の具が、自分の眼の中で、何かことばを発しているような気持ちになります。しかも、そのことばが「意味」を成すと同時に「おと」であるような、声の形なのです。

比喩的・感覚的な表現は一度おいて(しかし、そういう迂回路は辻さんの作品を受け止めるためには、必要な手順だとも思います)、改めて辻さんの作品を、ちょっとゆっくりと、見ていきたいと思います(続く)。

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