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友達の奇跡

友人を、広島の施設に訪ねた。

大学を卒業し、働きだした時、同じ課に配属された同期である。
野球を見に、ビリヤードをやりに、
スキー場に、旅行にと
たくさんの時間を過ごした。
当時、会社で一番忙しいと言われていた部課だったので、
夜中や、土日も働いていたことも多かったので、
何故あんなに遊べたのか不思議なくらいだ。

やがて、僕は、家業を継ぐために地元徳島に戻った。
それでも、彼がその時、配属していた、
広島や東京を訪ね、お好み焼きなどを一緒に食べた。

彼が、脳出血を発症したことを聞き心配したが、
復帰したことを聞き、少し安心したことも思い出す。
でも、2回目の発症で、
寝たきりになったことを聞いた。
年賀状に返事を出せないことに、
奥さんが心配して電話をくれた。
その後、広島の実家で療養をしていたが、
他の病気も併発して、施設に入ることとなった。

今回、広島に出張があり、
お見舞いに行きたいと奥さんに電話した。
コロナ対策で、
10分間の面会だけが、許されるらしい。
それでも良いのならと。
半身は動かず、言葉は、単語を繋げることも難しいらしい。
痴呆も進んでいると。

公共バスを使って施設を訪ねた。
面会の受付をした。
その受付をした横のドアのところにベッドが運ばれてきて、
そのドアが開けられる。
ドアの手前で僕が、向こうのベッドで彼が、
そこでの会話だけができるらしい。

果たして、
会社で一緒だった長尾だけど、わかる?
初めはうつろだった彼の眼が、
アッっと微かに声を出した後、
涙で満たされていた。
心が、通じた。

よく遊んだよな。
声をかけると涙。
昨日、カープの応援行ってきたよ。
そこでも涙。
お前の奥さん、いい奥さんよな。
そして涙

長尾、今、何してる?
懸命に話しかけてくる彼。
動こうとする彼。

あっという間の10分。
奇跡の10分。

ありがとう。
こっちが勇気をもらった。

ありがとう。


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