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「クックパッドアプリに買い物体験を組み込む」プロダクトマネージャーとしての挑戦の話

こんにちは。
クックパッド事業本部 買物サービス開発部の長野(@naganyo)です。
デザイナー兼エンジニアという職域でクックパッドに入社して、もうすぐ丸10年になります。

買物領域の新規事業であるクックパッドマートを初期メンバーとして立ち上げたのが3年前。そこから2年間はクックパッドマートアプリのプロダクトマネージャー(以下: PdM)をしていました。昨年からは、クックパッドのレシピ検索アプリに買い物機能を導入するプロジェクトが始動し、現在はそのプロジェクトのPdMを担当しています。

本日は昨年一年をふり返り、「クックパッドアプリで買い物体験をつくる」という取り組みと、その過程で私がPdMとして考えたことについてお話ししたいと思います。

クックパッドアプリの買い物機能とは

クックパッドと聞いて、多くの方がイメージされるのはレシピの投稿・検索サービスだと思います。iOSのクックパッドアプリは私が入社した直後にリリースされたので、その歴史はおよそ10年。たくさんのユーザーさんが、毎日「今日のごはん何つくろうか」と考えながら利用してくれているアプリです。

一方で、クックパッドマート(以下: マート)というサービスは初めて聞いたという方もいるかもしれません。リリースからまだ2年半ほどの新規事業で、地域の生産者が販売する食材を、1品から送料無料で、お客様の近隣の受け取り場所へお届けするサービスを提供しています。

クックパッドアプリの買い物機能は、この2つのサービスをつなぐ取り組みです。昨年の10月から、ログインユーザーに先行して機能を公開しています。
つくりたいレシピに必要な食材がその場で注文でき、マートの流通基盤を利用することでどこよりも新鮮な状態で手に入る、そんな世界を作ろうとしています。

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▲クックパッドアプリの買い物画面

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▲レシピから直接材料を買うこともできる

なぜいまクックパッドに買い物機能を追加するのか

私が見てきたクックパッドの10年の中でも、今回の機能追加はかなり大きい変化だと思います。その大きな変化に今チャレンジする理由は、これまでは献立決めから調理までだったサービス提供の範囲をグッと拡げ、より大きな括りで人々の料理体験を変えられると考えているからです。

料理をするなら、必ずどこかで食材を調達します。その過程では、自分で買い物リストを作ったり、レシピを調べたり、スーパーの品揃えによって作るものを変えたりと、小さな手間やストレスがたくさん積み重なっています。そのような日々の面倒な部分を可能な限りサービスが吸収し、料理にまつわる体験の楽しい部分が手元に残るような状態を作っていくために、レシピと買い物の融合にはとても可能性を感じています。

機能公開に至るまでの道のり

上記のように「レシピと買い物を融合させる」という思想のもと、単なる相互送客のような形での実現は早い段階で選択肢から外しました。アプリの一機能として体験をつなげることが何より重要だと考えたためです。しかし、その選択によって、当然ながら開発の難易度は爆上がりしました。

ここからは、それでもなんとか作りきり公開に至るまで、私がPdMとして考えたことや工夫したことについて、お話しします。

「これならやれそう」と思える状態をつくる

プロジェクトの開始時点では、クックパッドアプリの一機能として買い物体験を組み込む方針は決まっていましたが、逆にいうとそれ以外は何も決まっていませんでした。
レシピ検索のフローにどう組み込んだらいいのか、ネガティブな影響が出るリスクはどれぐらいか、そもそもクックパッドからマートに注文を入れるにはどうしたらいいか、などなど、すべてが「うーん、わからん・・・」という状態でした。

それでも前に進めるために、まずは「レシピから食材が買える」というミニマムな体験をスタッフの自分たちが日常的に使えるようにするという最初のマイルストーンを決めました。目標はGW前リリース。目標ラインを決めたことで、逆にそれまでに実現するにはどうしたら良いかを考えることができるようになりました。

具体的には、デザインは既存のアプリUIを大きく変えずに組み込める形にし、マートアプリのUIで成り立つ部分はどんどん移植する形にしました。そうすることで既存のAPIへ加える変更が最小限になり、クライアントアプリの開発を一気に進められるイメージができました。

▼ クライアントアプリ開発の裏側については、エンジニアの@yujif_がこちらにまとめています

一方で、APIタスクは減ったものの、サービス間連携のための技術的な課題は他にも山積していました。アカウント連携はどうする?決済処理は?レシピの材料からマートの食材を提案するにはどうしたら?マートから配送に関するPush通知を打つには?などなど。。

それらを一つ一つ解決していくために、各領域に詳しい社内のエンジニアに「GW前までにこんなことを実現したいんですが、どうすればできるか相談させてください!」と、圧強めの相談を投げかけ、知見を集めながら実現方法のイメージを固めていきました。

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▲社内のエンジニアに相談し、知見をまとめたissueの様子

そんなこんなで、全く見えていなかった実現方法が少しずつ見えるようになり、1月の終わりごろには「これならやれそうかも?」と思える状態になりました。ゴールが壮大すぎてどうしたらいいかわからない時ほど、ブレイクダウンしたマイルストーンを決めて、「これならやれそう、あとはやるだけ」と思える状態に早めに持っていくのは、スピード感を持って開発を進めるためにとても重要だなと感じました。

出来るだけ早くドッグフーディングを開始する

目標はGW前としていたものの、現実的には連携基盤を整えるのにもう少し時間がかかったので、実際にスタッフが使える状態が整ったのは5月の後半でした。その後は自分たちが普段の生活の中で機能を使い倒し、さらにはチーム外からもフィードバックをもらえるよう、社内のスタッフ全体に呼びかけていきました。

しかし、それだけでみんなが使ってくれるようになるほど、現実は甘くありません。例えスタッフであっても、私生活で使うとなると人間は正直なもの。最初は責任感から触ってくれても、不便であればパタリと使われなくなります(泣)。買い物機能も初期の段階ではほとんど使ってもらえず、「使わない理由はなんですか?」という苦肉のアンケートを取ったりもしました。

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▲「使わない理由はなんですか」アンケート

とはいえ、そういった何が致命的になるのかをはっきりさせるためにも、スタッフによるドッグフーディングができる状態をいち早く作ったのは良かったと思っています。アンケートでも、使わない理由をいちユーザーとして率直に回答してくれるスタッフが多く、その内容も非常に参考になりました。その後は、ドッグフーディングの結果を踏まえて、必須な機能の優先度を見極め、順次開発を進めていくことができました。

「ユーザーがどう感じるか?」に仮の結論を出す

スタッフ公開から一般公開へとジャンプアップするためには、不足機能の実装以外にも対応すべき重要なことがいくつかありました。

まず、買い物機能の対象ユーザーはマートの配送エリアのユーザーに限られるという制約への対応です。マートアプリと違い、クックパッドアプリの場合は既に全国各地のユーザーが利用しています。人口比率にすると90%以上のユーザーが機能を使えないため、対応エリア外のユーザーにとっても不快にならないUIや仕様、コミュニケーションはどうしたら良いかというのは非常に大きな課題でした。

▼ この辺りの詳しい設計については、デザイナーの@sn_taigaがこちらのnoteにまとめています

また、すでにたくさんのユーザーがいるサービスに大きな変更を加えるため、買い物機能が入ることでこれまでの体験やサービスの価値が阻害されないかという懸念は社内でも強くあり、きちんと配慮した設計にすることも求められていました。

どちらの課題に対してもデザインや仕様検討にはかなりの時間をかけ、慎重に設計を進めました。しかし、最終的に「ユーザーがどう感じるか?」という議論はどうしても空中戦に陥りがちです。そうなると、何も前に進まなくなってしまうので、十分に設計を練り、「これならユーザーさんに受け入れられるのではないか?」と思える状態になったタイミングで、ユーザーテストを実施しました。

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▲Zoomを使ったリモート環境でのユーザーテストの様子

結果は、検索・投稿ともに、既存の体験に対するネガティブな影響は少なそうなことが観察できました。かつ、買い物機能自体にはどちらのユーザーからもポジティブな反応が多く得られました。対応エリア外の場合のコミュニケーションに関しても「残念には感じるものの不快感まではいかない」ということもわかり、全体の方向性に一定の自信を持つことができました。

ユーザーテストの結果は数名のユーザーの反応なので、もちろん偏りがないとは言えません。しかし、空中戦になりそうな議論に仮でも結論を出し、方向性を決めていくには、実ユーザーによるテストはとても有効でした。
また、クックパッドの根幹であるレシピを長年投稿してくださっている方が今回の変化をどう感じるのかは、個人的にも特に不安でした。しかし、テストに参加された方の一人が「世の中にはいろんなサービスが生まれているし、クックパッドもどんどん変わっていくべきだと思う。応援します!」という言葉をくださったのには、とても励まされました。

機能拡充を進めつつ、段階的に公開をスタート

こうして不足機能の追加実装とユーザーテストからの微修正を加えることで、社内での合意形成もでき、8月下旬から一般ユーザーさんへの公開を段階的に開始することができました。その後はパフォーマンスやユーザーサポートのキャパシティに問題がないことを確認しつつ徐々に公開範囲を広げ、10月にはログインユーザー全員に公開状態となりました。

正直、当初の見積もりではスタッフ公開から一般ユーザーへの公開までに、ここまで時間がかかるとは思っていませんでした。しかし、様々な大きな意思決定にはそれなりの時間が必要でした。改めて、クックパッドという歴史あるサービスに加える今回の変更が、会社としても大きなチャレンジなのだということを実感しました。

レシピサービスに買い物体験を融合させる難しさ

さて、ここまでで「ようやく全体公開!やったー!」と言いたいところ。しかし、今回も現実はそう簡単ではありませんでした。

実際、リリース前に懸念していた既存ユーザーのサービス離れやネガティブな反応、炎上のようなわかりやすいトラブルは皆無でした。それはよかったのですが、一方で、リリース直後は買い物機能が自然に使われ始める数も、かなり少ないのが現実でした。「家にあるもので何か作ろう」とキッチンでアプリを開くユーザーからすれば、買い物が文脈から外れていることは、リリース前からも想定はしていました。しかしこれだけの数のユーザーがいれば、自然に気づいて使ってくれる人もそれなりにいるのでは?と淡い期待を持っていた部分もあり、想像以上にシビアな数字には、正直泣きたくなりました。

しかし、泣いていても仕方がないので気を取り直し、全体公開の翌月には「お一人様一回限り、商品を1品を無料で体験できる」という施策をリリースしました。機能を認知するとともに、注文から受け取りまでサービスをひと通り体験してもらうことをねらいとした施策です。

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▲無料体験施策の画面

この無料体験施策では、ねらい通りに初回体験をするユーザー数をグッと伸ばすことができました。もちろん最終的なゴールには遠いものの、最も致命的と思われた認知の部分にいち早く強めの施策を打てたことで、日々モニタリングしていた数値が一気に上向き、チームのモチベーションも前向きに保つことができました

たとえ最初の数値が芳しくなくても、リリースしたからこそわかる日々のユーザーの動きを定量・定性の両面から分析し、次のアクションに繋げていくことは、プロジェクトを停滞させないためにとても重要です。今回の無料お試し施策を皮切りに、既存のアプリの利用の流れと買い物の文脈をすり合わせていくための改善を今現在も複数仕込み中で、今後もチャレンジを続けていく予定です。

まだまだこれから

昨年1月に始まり、理想のゴールまではまだまだ遠い状態で年を越すことになりましたが、これからが、より可能性を広げていけるフェーズだと思っています。今年はよりチャレンジを加速し、料理に必要な食材を調達する段階からクックパッドが想起され、レシピと買い物がどこよりもスムーズにつながる世界を現実にしていきたいと思います。

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さて、かなり長文になってしまいましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございます。昨年スタートした新しいチャレンジと、そのなかで私がPdMとして考えたことなどをご紹介しました。
もし、この記事を通して、クックパッドでの取り組みに関心を持ってくださる方がいれば、ぜひ気軽にお声がけください。職種は様々、一緒にサービスづくりができる仲間を募集しています!

2021年がよい年になりますように 🌅



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