見出し画像

【マッチレビュー】2022 J3 第26節 AC長野パルセイロvsアスルクラロ沼津

待ちに待った勝点3

 9月25日、長野Uスタジアムで行われた2022 J3 第26節 AC長野パルセイロvsアスルクラロ沼津の一戦は2-1でホームチームの勝利となった。
 ホームチームの長野としては、先制される難しい展開でありながら、ホーム2連戦の2試合目で9月初の勝点3を得ることができた。8月最終戦の北九州戦で勝利を掴み、昇格戦線への再浮上が見えてきていた。しかし、9月に入って、いわき・岐阜・福島と3試合連続で勝利に見放されると昇格戦線からは一歩後退する立ち位置となった。これ以上突き放されると、流石に昇格への望みが…という段階での大きな逆転勝利だった。また、得点という点に関してもホーム宮崎戦以来の複数得点という結果になった。奇しくも逆転勝利という特典もセットで。攻撃における重要な課題に対して、明確に合格点を出せたことは今後の8試合に向けてもプラスの材料と言えるだろう。
 そして、今節は他会場で鹿児島と松本が敗れたことで、昇格圏との勝点差が10に縮まった。逆転可能な勝点差という一般論からすれば、まだまだ「勝点差>残試合数」となっているため、厳しい状況だ。しかし、長野が勝ったタイミングで上位が転んで、一気に勝点差が縮まったことは運が良かった。勝利のタイミングと重なったことで、まだ運があると思い込むファクターになり得るとも言えるだろう。
 一方アウェイチームの沼津としては、長野のミスを突いての先制点を奪ったが、ジンクスを崩すことはできず、逆転負けを喫することになった。今季これまでアウェイゲームで1勝しかしていないこと。J3参入以降Uスタジアムでは勝利がないこと。この2つのジンクスは先制点を奪っても重くのしかかった。望月新監督にとっても、初黒星を喫するなど流れとしても、良いものとは言えない結果となった。
 富山、藤枝とのホーム2連戦では、上位相手に勝点4を奪う戦いを見せたが、アウェイで勢いを継続することは叶わず。ただ、ゴール期待値に注目すると、富山戦・藤枝戦で1.0に届かなかったところから、今節では1.1に乗せることを達成している。前半の時間帯では、長野の期待値を上回る時間帯も長く、内容として悲観しすぎることはないと感じた。次節の松本はリーグで2番目に失点の少ない守備の硬いチーム。その松本を相手に得意のホームで得点&勝点を掴み、再び浮上のきっかけを生み出せるかが重要になってくる。

スタメン&ベンチメンバー

 ホームの長野は、前節からスタメンを2名変更。前節はチーム内得点ランキングトップの宮本・山本を前線に配置していたが、今節はトップ下に東を起用。また、攻撃時に長野の生命線を担っている森川がベンチスタート。代わりに藤森を先発起用した。前線のメンバーは、左利きの山本・三田・藤森が揃うというあまり見られない光景になった。
 一方、アウェイの沼津も前節からスタメンを2名変更。静岡ダービーから中3日という影響もあってか、染矢選手と佐藤選手がベンチ外。代わりに遠山選手と久しぶりのメンバー入りとなったブラウンノア賢信選手が最前線に並んだ。日程上、怪我明けのエースを連戦に出場させることは得策ではないが、上位富山を下した時の2トップが不在という事実がどれだけ関係してくるかにも注目していきたい。

息を吹き返したビルドアップ

 福島戦に続いてこの試合でも5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムによるボール保持の姿勢は健在。4バックがPA幅程度に開き、守備時にLWBを担っていた水谷がボランチに入る形。
 この長野のビルドアップに対して、沼津は2つの姿勢を見せたと思う。1つ目は前半の序盤に見せた積極的にボールを奪いにくる守備。

 長野の4バックに対して、マンマークをつけるように2トップと2SHで捕まえることを試みた。しかし、長野として前線から圧力をかけてくる守備は、格好の餌になる。4バック+GKでボール保持しているため、リスキーなプレーを選択しない限りは、数的優位を生かしてボールを握り続けることができる。しかし、長野としても前進して得点を取らないことには勝つことができないため、前にボールを進めていく必要がある。
 ボールとチーム全体が前進していくために使うのが、相手のプレッシングの裏側のスペース。上図で言うなら長野のボランチの位置である。相手の2トップ+SHを釣り出しておいて、タイミングを見計らってボランチがボールを引き出す。沼津のプレッシングをひっくり返した局面では、長野のボランチにはプレー選択の時間が与えられ、好きなことができると言っても過言ではない。長野のボランチにボールが入った瞬間に沼津の中盤もアプローチをかけたいところだが、東の立ち位置がそれを鈍らせる。
 沼津DFラインには捕まらない所謂1.5列目の位置で構えることで、CBとしてはボランチにマークを預けざるを得ない。

 こうなると沼津ボランチは自分達の背後のバイタルエリアに侵入させることを避けようと位置が押し下げられることになる。この結果、沼津の前線からのプレッシングを剥がした先には時間と空間が用意されている状態になり、主導権を握りながら攻撃を進めることができる。

 また、宮阪や水谷から1タッチで山本につけるようなパスが出ることで、ボランチにわざと食いつかせた背後を取る。そして、2列目の三田・藤森・東の近めの距離感のコンビネーションにつながり、局面を打開できる場面になることが多かった。

成長過程のアクションも…

 前半の途中から沼津の守備意識がわずかに変わる。積極的にボールを奪うと言うよりも、4-4-2で立っているところから相手の持ち上がりの様子を見て、奪いどころを見定める守備になった。所謂、前節の福島と同じ"待つ守備"である。相手がブロックを組む守備に対しては、まだまだ成長の余地があると信じたい。
 沼津としては、最も危険な位置から逆算してブロックを組んでいるため、ある程度の揺さぶりでは、隙が生まれない。だからこそ、隙につけ込んで攻めている時は許された数十cmのズレがカウンターの起点になってしまう。相手も守備に神経を使って緻密に守ろうとしているからこそ、それを凌駕する精度や意識が求められる。前半は、終了間際のいくつかのビッグチャンスまでなかなか決定機を作り出すことができなかった。あと1、2本パスがつながれば…という場面が散見され、攻めきれない印象になってしまった。

 しかし、前半で2度ほどCB→SBのパス交換で相手の守備ラインを越えようとする試みを見ることができた。パスの距離が伸びるため、それまでのボール保持に比べるとリスクはグッと上がる。それでも、引き込んで守る相手に対して、こちらからアクションを取る攻撃の一手段として有効なものだと考える。1週間のトレーニングで取り組んできたことなのかは不明だが、ここでもチームの成長を感じた。
 そして、40:20・43:30・45:30頃の場面では、徐々にアタックングサードでのすり合わせができるようになり、攻撃の糸口を見つけつつあるように感じた。

攻撃のギアを上げる交代

 実際に前半の終盤で良い形の崩しを見せるなど、前半のメンバーも悪くない活躍を見せていた。それでも、引き分けではなく得点を奪って勝たなくてはならない立場の長野。シュタルフ監督の試合後インタビューでも、「攻撃をして得点を奪う姿勢」からと言及された後半最初の交代。攻撃時の2列目が総入れ替えとなる形になった。ベンチでメラメラ闘志を燃やすメンバーに早めのチャンスを与えたことで攻撃が活性化する。
 単なる空中戦の強さと言うよりもしなやかな身のこなしで2列目に良いボールを落とせる山本と機動力に強みのある2列目の相性は抜群。45分間の疲れがないこともあり、沼津の守備陣に襲いかかる。

左サイドのコンビネーション

 今季途中から後半に組むことが多かったデューク&杉井の左サイドコンビ。この試合でも躍動し続けた。

 対戦相手の立場にたつと厄介でしかない運動量お化けのコンビ。どちらがどちらのサポートについても息のあったコンビネーションでサイドの深い位置まで進入できる。そして、どちらも左利きであるため、クロスは極上。ニアに早い低弾道のクロスを送ることもできれば、ファーにふんわりとしたクロスを上げることもできる。
 更に、今節は山中が同時にトップ下として起用された側面も大きいと感じた。ここから先は、理論と言うよりもフィーリングの領域になってしまうので言い切ることは難しいが、3人のイメージが非常に合いやすい組み合わせなのだと思う。サッカーIQの高さからポジショニングすることもあるかもしれないが、瞬間瞬間は本能的に最適なポジションをとる。そのため、イメージを共有できている人が1人コンビネーションに増えることで、相手は更に混乱する。今節はこの崩しから得点は生まれなかったが、今後も必ず生命線になってくるホットラインだろう。

右サイドの配置

 HTでの交代で森川が入ったことにより、右サイドは構造的に変化したところがあると考える。それは、森川がタッチライン際まで開いてボールを呼び込むようなポジショニングを取ることが多くなったこと。沼津だけではなく、守備をする時は中央を守ろうとするのがサッカーの定石。そのブロックに亀裂を生み出すためには、左右に揺さぶって守備側の選手間距離を極端に伸ばしたり、縮めたりする必要がある。森川がこの立ち位置をとったことで、LSBの濱選手が取るべき立ち位置が難しくなった。
 そして、RSB佐藤とRWG森川の特長の兼ね合いが非常に面白い化学反応を生んでいたと思う。佐藤はRSBであっても、中央に入り込んでプレーする場面が多く見られる。これはチームの決まり事によるものなのか、佐藤本人の元々のポジション本能からくる動きなのかはわからない。しかし、同じシステムでRSBに入ることのある藤森に比べるとその動きは顕著だと言える。

 先に言及した森川の位置と佐藤の立ち位置が組み合わされ、池ヶ谷や秋山から森川への直通ルートが開通する(実質的な偽サイドバック状態)。森川が大外から仕掛けるも良し、佐藤がポケットに飛び出していくも良し。それぞれの特長が発揮される位置でプレーができていたように思う。構えて守ってくる相手に対してのオプションとして、この形が偶然でも生まれたことは今後にとっても良い材料だと言える。

影の功労者

 久しぶりの複数得点ということで、ここまでは攻撃に焦点を当てたレビューをしたが、今節は守備にも光るところがあった。
 まず前半からネガティブトランジションに移行した時の強度が素晴らしかった。相手にプレー選択時間を与えないプレッシングから蹴らせて回収することはもちろんのこと、局面局面におけるデュエルでも優位性があったと感じる。後半に入って2列目が交代になってもインテンシティを落とすことなく、試合に入れていた。守備における奮闘あってこその複数得点だったのではないだろうか。
 また、この試合特に守備で輝いていたのは宮阪。守備時は5-1-3-1の中盤の底、攻撃時は4-2-3-1のダブルボランチの一角を担っている。プレーの特徴はなんと言っても正確無比なボール供給だ。攻撃面でフィーチャーされる分、守備ではスポットライトが当たることは少なかった。
 しかし、今節この男が中盤でのルーズボールを回収していなかったらもっと難しい試合になっていただろう。要所要所でやられたくないところを未然に防ぎ、ピンチを作らせなかった。正直、個人的には彼の攻撃性能が高い分、守備に多くを求めていなかった。それでも、33歳という年齢でありながら、戦いながら進化していることが伺える。ベテランすら成長を見せるOne Teamなのである。
 あれだけの素晴らしいプレーを見せられたら、今後の試合の中盤の底を更に支配することを期待してしまう。攻守において長野の舵を取るベテランの更なる進化が昇格のファクターになるかもしれない。

まとめ

 9月4試合目にしてようやく勝点3を手にした長野。これまで内容の積み上げは見られても、なかなか結果に繋がらなかった9月だった。しかし、約2ヶ月の時を越えて、複数得点を再びUスタで達成し、逆転勝利を掴み取った。
 また、長野の1失点目、沼津の2失点目はともにGK泣かせのイレギュラーが発生した。長野という土地柄か、夏冬芝の入れ替わりの難しさかDAZNでも芝の荒れ方が目立つほどになってきてしまった。今季のチームスタイルと芝の相性は非常に重要。レディースの試合、高校女子サッカー選手権なども合わさり、維持は非常に難しい。今こそ、厳しい環境を乗り越えるだけの雰囲気をスタジアム一体となって作り出したい。声出しがあろうが、なかろうが、やれることをやれる立場で全力で行い、後押しをしよう。
 次節は暫定2位につける鹿児島との対決。自力で上位の勝点を削る貴重なチャンスだ。今節逆転弾を決め、チームの柱となっている水谷が累積警告により出場停止となるが、これもOne Teamで乗り越えるしかない。一戦必勝で階段を登り、目の前の相手を上回る意識が非常に重要になる。最高のファミリー一丸となって、鹿児島を倒そう。まだまだ旅の途中。この旅の最後を決められるのは、今を戦うチーム・クラブ・サポーターだけ。共に熱く熱く闘おう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

この記事が参加している募集

サッカーを語ろう

よろしければサポートお願いします! アウェイ遠征費やスタグル購入費に使わせていただきます🦁