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【マッチレビュー】2022 J3 第33節 FC今治vsAC長野パルセイロ

執念で止めた連敗

 11月13日、ありがとうサービス夢スタジアムで行われた 2022 J3 第33節 FC今治vsAC長野パルセイロの一戦は、打ち合いの様相を呈し、結果として3-3のドロー決着となった。

 ホームの今治としては、DFラインの中軸である安藤選手を累積警告で欠き、難しい状況だった。しかし、持ち前の運動量と前線からの連動性のあるプレスによって、ショートカウンターから先制点を奪った。得点までの時間帯は長野が押し込む時間が多かった中で、少ないチャンスを得点につなげた。前半のうちに逆転される苦しい展開だったが、後半に入って鋭いカウンターから決定機を演出。1つ1つの決定機を得点につなげて、見事に再逆転した。しかし、後半アディショナルタイムに長野が追いついてドロー決着。連勝中だっただけに、昇格の可能性が消えようとも勝ち続けることができなかったのは、悔しさが残る結果になっただろう。

 アウェイの長野としては、前節、鳥取をホームに迎えて逆転負けを喫したばかり。今季初連敗で残る試合は、昇格の可能性を残す今治&藤枝と難敵が待ち構えていた。今節の今治とは、決着がつかない対戦カードとして特徴があるが、今回の対戦でもそのジンクスが崩れることがなかった。長野の特徴であるビルドアップからミスが生まれ、失点。試合の流れ的に精度さえ伴えば、逆転はできると確信していたため、個人的に焦りはなかった。しかし、後半で再逆転された時は、かなり厳しい状態だと感じた。乾と水谷が負傷交代を強いられ、普段見ないポジションで出場する選手もいたからである。それでも、終盤に1得点をもぎ取り、勝点0から1にしたことは非常に大きい。次節の最終戦に向けて、悪くないパスになったのではないだろうか。

基本システム&スタメン

 ホームの今治は、前節から先発を1名変更。累積警告によって出場停止となった安藤選手のところに飯泉選手が抜擢された形。ベンチメンバーも藤枝戦と全く同じで、好調の継続が伺えるメンバー選考になった。
 一方アウェイの長野も、前節から先発を1名変更。前節累積警告による出場停止となっていた佐藤が先発に戻ってきた。これまでと同様にRWB/RSBの位置に入るかと思われたが、実際はアンカー起用。代わって坪川がベンチスタートとなった。また、長野はベンチの組み合わせも変化があった。信州ダービーから起用の増えた川田が再びベンチ外。ゲームチェンジャーであるデューク、アンカーの控えである住永、トップ下の控えである東がベンチ外に。坪川以外のFPは2列目より前が主戦場という攻撃的な布陣で挑んだ。

長所と隙

 長野は例によって、5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムを採用。攻撃時は上図のよう5バックが左肩上がりにスライド。守備時にLWBに入る水谷が佐藤の脇に入り、ダブルボランチを形成する。
 このビルドアップに対して今治は真っ向からプレッシングで対抗する。4バックに対して、2CF&2SHが1vs1の構図で睨みを効かせることに加え、楠美選手と三門選手を縦関係に配置。ボールサイドの長野ボランチを捕まえることを試みていた。

 ただ、長野も今治が前に出てくることは当然予測済み。自慢であるビルドアップを中心に守備の網をすり抜けることを試みる。

 今治のプレッシングの形からして、隙が生まれやすいのが後方に控えるボランチの選手の脇スペース。GK+4バック+ボランチでボールを動かしながら、このスペースに人やボールを出入りさせることを狙っていた。

 人基準でタイトな寄せを見せる今治に対して、ボランチがスペースに抜けることで、後方の時間と空間を確保することもあった。水谷や佐藤が持ち前の運動量を生かし、相手のボランチをロックしながら、進んでいく場面が見られた。個人のドリブルや思いつきではなく、グループで意図を共有することによる攻撃の捕まえづらさを今治の守備は感じていたのではないだろうか。

 ただ、当然J3のクオリティを踏まえるとミスも発生するのが、長野の選択している戦い方。先制点を献上してしまった場面では特に顕著だった。失点場面より前のビルドアップの段階で、シュタルフ監督から山中に次のようなコーチングがされた。
 「レオ、その場面でもビルドアップに繋がろう」
 正直、側から見ていれば、引っかかったわけでもなく、ピンチを招いたわけでもなかった。しかし、1つのボールに対して、ピッチ上の11人全員がとるべきアクションやポジションを選択・実行しないと成り立たないのである。
 
 失点場面を振り返ると、相手の守備網をすり抜ける一歩手前だった。長野の右サイドにプレスを集中させ、中央を経由して回避する過程。佐藤からのパスに山中の反応が遅れ、半歩先に三門選手がカットした。あの一瞬のズレが命取りになるのもどうなんだ、という意見もごもっとも。ただ、1シーズン通して怪我人を抱えながら磨き上げたスタイルはこの形。J3で後方から丁寧にビルドアップして、個の質を組織の質で上回るために、編み出したスタイルなのである。
 そして、長野のあの程度のミスを確実に得点につなげられる今治も素晴らしい。中川選手とインディオ選手のクオリティがあってこそだろう。

 主導権を握りながらもミスから先制点を奪われる試合運びになってしまった。ただ、失点しても自分達の武器で殴り勝つのが今季の長野のスタイル。失点した後も主導権は渡さなかった。

 そして、今治は絶対的な守備の柱である安藤選手不在の影響が少なくなかった。長野の同点弾に限らず、長野がサイド深くまで進入していく時のきっかけはRSBの裏。

 今治のRSHに入るインディオ選手は比較的本能的に守備に奔走するタイプ。直接的に表現すると"守備はサボることもある"ということ。人とボールを動かし続け、時間と空間を作り出す長野のビルドアップを止める上で、一瞬の怠慢は命取りになる。
 長野の攻撃のスイッチである杉井にプレッシャーがかからない場面があり、得意の左足でのフィードを許してしまう。

 今治の攻撃局面で、インディオ選手はサイドレーン、駒野選手はハーフレーンにポジショニングすることが多く、トランジションで杉井のフィードを捕まえきれないと、森川のスペースを広大に空けることになる。厚みのある攻撃とSBの裏のスペース管理は表裏一体の問題だが、ここで安藤選手の不在が響く。
 代役として起用された飯泉選手は対人の意識が強く、目の前のスペースに降りる山本や山中に必要以上に食いついてしまう。その影響もあり、本来カバーに入るべきタイミングが遅れ、今治の右サイドで長野が押し込む展開が増えた。

 ただ、長野としてもアタッキングサードに入った後のクオリティは、よくも悪くもやはり平常運転。クロスの精度が低かったり、ボックス内で受けた時のファーストタッチがおぼつかなかったりで、得点する前に失点してしまった。
 ようやく中央に走り込む味方が触れるようなクロスが上がり、今治DFがクリアミス。こぼれ球に詰めた山本が同点弾を叩き込んだ。

 同点弾の直後に再び山本がネットを揺らして長野が逆転に成功する。この場面で、山本の動き出しが秀逸なのは間違いない。一方で、今治DFラインの落ち着かなさも見られた。山本に2CBの間に入られ、オフサイドトラップをかける間も無く、ラインブレイクされて失点した。それだけ、安藤選手の今季の貢献度の高さが伺える場面でもあった。

時間と空間を奪う守備

 長野は、プレッシングにおいて今治と殴り合うことを選択した。

 今治のビルドアップはベーシックな4-4-2でのビルドアップ。両SBが高い位置をとり、場合に応じてCB-SB間を繋ぐようにボランチが関わる。また、大きな展開を使わないという特徴もあったように感じた。基本的に、パスは各駅停車で丁寧に前に運んでいく。ボランチが低い位置で受けて、CFに差し込むパスを供給する場面はあったが、CBからは基本的に近場の選手にパスがでる。
 長野はここに対して、強い圧力をかけてボールの前進を阻むことに成功した。山本が第一のプレスの方向付けとして、ワンサイドに追い込んでいく。この動きに合わせるように2列目の山中・三田・森川もボールサイドに密集を作る。そして、高い位置をとるSBに対しては、長野のWBが対応して前を向かせることを阻害する。今治としては、苦しいパスになったり、ロングボールに逃げざるを得ない場面が多発し、前進するのに苦労したのではないだろうか。

 そこで、今治は2CFの一角に入る中川選手が、1列下がってボールを動かすことに参加することで、プレスに捕まることを減らしていった。その一方で、長野は後方の数的優位が確保され、より自信を持って前に出ることができていたのではないだろうか。
 結果として、後方からの繋ぎで手数が多くなった今治は、高い位置をとったSBが受けた後、手詰まりになる場面が多くなった。長野も自信を持って、今治の自由を奪えているという自覚から、プレス強度が高くなり、後ろ向きになった瞬間に囲みにいく守備を実行していた。

 前半を通して、失点につながった場面以外では終始主導権を握っていた長野がリードして前半を折り返す。

長野を襲うアクシデント

 後半になっても試合の大勢は変わらず。今治としては、駒野選手の裏のスペースのカバーやインディオ選手の守備の仕方の修正など若干テコ入れしてきた印象だった。それでも、長野のビルドアップの流れを断つことは、なかなかできずにいた。

 そんな中で長野DFの乾が、不調を訴え交代を余儀なくされる。個人的には何が原因で受傷したかわからなかったが、焦点が定まらないようなジェスチャーに見えたので、次節に復帰できるかは不透明。ベンチにDF登録の選手がいない長野は、坪川を乾の位置で起用する。
 この交代が直接的に失点場面を招いたとは言い切れないが、またしても選手交代から時間を空けずして失点してしまった。前半の失点と原因はほとんど同じ。あと1本パスがつながれば、守備網のすり抜けが達成できる段階で、インターセプトされ、被ショートカウンター。

 直前のプレーでアンカーの佐藤が右サイドに流れており、RSBの位置から内側に入ってきた原田の場所でロスト。インターセプトから1本のパスでDFライン前のフィルターを通過され、苦しい形でカウンターを受けることになった。最終局面で池ヶ谷と三田が重なってしまったことも不運だったが、今治の前線の個人の質が勝り、同点弾を許した。
 奪われ方はもちろん手放しで「仕方ない」と片付けられないが、今治のクオリティも素晴らしかった。長野が同じ局面でシュートまで運んで決められたかと問われれば、自信を持って首を縦には振れない。
 喜岡が夏に完全移籍で退団して以降、CBにスピードの分がない状況が続いているだけに、来季以降、DF個人の質で補うのか、組織として危険な奪われ方をしない質にこだわるのかは重要なファクターになる。

 そして、水谷も前半の接触の影響からか、自ら交代を要求。原田を水谷の代役として配置を変え、原田の場所には小西が起用された。キャプテンである水谷の交代は、徐々に組織として苦しさにつながり、徐々にセカンドボールの回収ができなくなっていった。攻撃でも単発に終わることが増え、守備移っては、3失点目のように相手の攻撃を受け続ける事象が発生していた。

執念の同点劇

 お互いに試合の終盤でシステム変更を行い、それぞれの狙いを鋭くする動きがあった。

 先に動いたのは長野。79分に一気に3枚替えを敢行。2/5の交代カードは、アクシデントとして使用せざるを得ず、監督の意向を含んだ交代は最初で最後だった。この交代のメッセージは明らかに「得点を奪ってこい」ということ。

 佐藤・山中・原田に代えて、藤森・山口・宮本を投入。システムは5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムから固定的な4-1-3-2に変更。前線に高さのある宮本を加え、両SBはドリブルで運べる2人を配置。攻撃にさらなる圧力を加えることが目的だろう。

 攻撃時はSBが比較的高い位置と幅をとるようになり、保持はGK+2CB+アンカーに任せる形。今治の4-4-2プレスの間を突くように山口がビルドアップに参加。今治のボランチに捕まらない位置まで降りて、ボールを引き出す場面が見られた。
 可変システム時の4バックビルドアップと異なり、SBがSHをピン留めする位置が高くなったため、後方にはある程度時間と空間が生まれた。しかし、SBにパスが供給された次の動かし方が定まらない。小西も藤森も空間と時間がある時に持ち味であるドリブルを発揮する選手。組織としてのプレス回避のスピードと個人としてのスピードアップが噛み合わず、窮屈なビルドアップに陥ることも少なくなかった。
 また、トップ下に入る山口が低い位置まで降りてビルドアップに参加することによって、実質的に4-4-2vs4-4-2のミラーの構図になることも多く、局面局面のクオリティ勝負が発生するようになった。

 残りはアディショナルタイムを残すのみとなったところで、今治は逃げ切り策を敢行。中川選手に代えて冨田選手を投入することで、4-4-2から5-4-1に変更した。今治の重心が後方に傾いたことで、長野はさらに攻撃の圧力を高めることになる。
 2CBに対して、限定するCFが1人になったため、長野CBの自由度が増加。前方に空いたスペースに持ち運べるようになった。

 CBの持ち上がりに対して、中央を警戒する今治ボランチは山口や山本・宮本のスペースを消す。結果として、押し出される今治SH。ただ、このプレスはリアクション的動きだしであり、長野のCBに対して制限はかかっていない。今治SHが出てきたことによって空いたスペースを長野SBが利用。藤森・小西の特徴が最大限生かせる状況が作られる。
 元々、ボールを握れていた長野はより高い位置で攻撃の起点を生み出せるようになり、今治のゴールに迫っていった。アタッキングサードの精度は、まだまだ改善が必要だが、推進力のあるサイド攻撃と中央からのミドルシュートによって、CKを獲得。同点弾のきっかけを生み出した。

まとめ

 結果として、3-3という打ち合いの末、またしても決着がつかなかった今治vs長野のカードとなった。しかし、これまでの5試合で複数得点が生まれなかった同対戦カードで、ここまでの乱打戦になることは予想できなかった。
 今治は来季から新スタジアムである、里山スタジアムをホームゲーム開催地とする。そのため、駒野選手の夢スタラストマッチであり、夢スタ自体のラストマッチでもあった。決着こそつかなかったものの、ラストマッチにふさわしいゲーム内容であった。

 長野は次節、昇格濃厚となった藤枝をホームに迎えて最終節を戦う。十中八九、目の前で"J3オリジナル12"のライバルの初昇格を目撃することになるだろう。
 個人的には、悔しくてたまらない。JFLや地域リーグ時代を知らないが、J3創設時期の長野は、間違いなくJ2昇格に近いクラブであった。来季で10シーズン目を迎えるJ3。J2経験のないJ3オリジナル12は、福島・YS横浜・長野を残すのみとなりそうだ。創設期に下位に沈んでいたクラブやJFLからの参入クラブに何度も追い越された。どうしたら昇格できるかは分からない。また、正解なんてないのかもしれない。

 しかし、最終節は餞別の勝点3を与えるつもりはない。是が非でも長野一体となって、勝点3を掴み、悲願達成に向けたターニングポイントにしたい。来季昇格を決めた時に、「あの悔しい光景が一層長野を強くした」と語れるように絶対勝利しよう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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