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【マッチレビュー】J3 第10節 AC長野パルセイロvsFC岐阜

 

『"得た"2点と"失った"2点』


 この試合を一言で表すとしたら、この言葉に尽きるかと思います。

 5月29日、5月とは思えない猛暑の中、J3第10節AC長野パルセイロvsFC岐阜が行われました。先週は天皇杯1回戦が各地で行われJ3リーグは休み週でした。パルセイロはTRM、FC岐阜は天皇杯をそれぞれ戦い、リーグ戦の 再開に向けて照準を合わせてきたはずです。
 アウェイ側ベンチに横山雄次監督、ホーム側ベンチにシュタルフ監督という昨季のオリンピック中断前最後の試合と対照的な配置になったことも感慨深い試合でした。

 開幕前の移籍市場でJ3生態系破壊級の補強を見せたFC岐阜でしたが、成績は想定を大きく下回る結果で早々に監督を交代し、監督交代から2試合連続無失点&複数得点勝利で下馬評通りの勢いを持つ集団に生まれ変わりつつあります。対するパルセイロは公式戦3試合連続無得点状態であり、ファイナルサードでの精彩を欠いた直近の成績となっていました。お互いに昇格圏のライバルチームに追いつくために、勝点3を勝ち取りたい中での激突となった第10節を振り返っていきましょう。

前半

 『今季最低』
 言葉を選ばなければこの評価が妥当だと思えるような前半の45分間だったかと思います。むしろ、この45分間を今季最低の飛び値としての教訓にしなければ、昇格争いはおろか最下位付近まで転落することも考えられるほどの内容だったかと思います。
 スコア上で0-1と臨まない数字が並んでいたこともそうですが、それ以上に何か決定的なものが欠けている、そう考えざるを得ない前半でした。今季0-1で前半を折り返す試合は、これまでに5試合(FC岐阜戦で6試合目)ありましたが、どの試合も「ビハインドは背負っているが追いつき、逆転することができる」そう期待してハーフタイムを迎えられていました。
 ただ、この試合ではピッチ内に熱を感じる時間が少なく、勝利にふさわしいチームからは程遠い姿でした。シュタルフ監督や選手の試合後インタビューでも語られているように、ピッチレベルでもサポーターと似たような感覚を持っていたことがはっきりしています。
 メンタル的な側面は本人たち以外分かりようのないことなので、ここからはピッチ上でどのような事象が起こっていたかを見ていきたいと思います。

【攻撃】

4-1-2-3vs3-4-2-1

 お互いのスタメンと基本配置は以上の通りです。パルセイロはこれまで全試合スタメン出場のキャプテン水谷が欠場するという予想外の事態は起こりましたが、それ以外は大きく変更はなく4-1-2-3という今季よく見る形でのスタートとなりました。対するFC岐阜は本田選手が直前でメンバーから外れ、ヘニキ選手がスタメンとなりベンチメンバーが1人少ない中での戦いになりました。

 パルセイロのビルドアップに対して、FC岐阜は5-2-3の形で守備組織を構築します。この対応に関しては、FC岐阜側がパルセイロのWGに対するケアを厚くする狙いが見えました。パルセイロのCBに対して3トップを正対させてCBからの運ぶドリブルを止めて前進経路を外回りにさせるというパルセイロが普段行なっている守備組織の狙いに類似した形で構えていました。

 ビルドアップに関しては失点に繋がるミスもありましたが、挑戦中ということを考えると十分に後方からボールをつなげていたかと思います。それにしても、普段の試合に比べると決定的なゾーンでのパスミスも多かったですが…。
 中でも、相手の間を取ろうとする坪川のポジショニングや秋山からの縦パスなど昨季と同じメンバーでも今季に入ってビルドアップの精度が向上しているように感じる場面も増えてきました。まさにチーム全体で挑戦中といったところで、まだまだシュタルフ監督の求める精度には達していないと思いますが、こうした1つ1つのプレーの積み上げが昇格争いへの参加と昇格決定に導いてくれるはずです。

 個人的に少し気になったのはSBの初期配置の高さです。相手の3トップが中央封鎖を狙いにするような配置だったため、迂回経路となるSBの立ち位置をもう少し高い位置まで押し上げてSBから攻撃の起点を作るかと思いましたが、SBの高さは相手の3トップの守備ラインと同じくらいに設定されていたかと思います。SBに高い位置をとらせすぎないことでしっかり後方でボールを握ることができていたか側面もありますが、自陣低い位置からのビルドアップの場面で配置の固定化から守備の網にかかってしまう場面もありました。特に武器である左サイドのビルドアップで目立っていたかと思うので、ここは水谷と杉井の利き足の都合でいつもと違ったビルドアップの策を考えていた可能性もあるかと感じました。
 4-1-2-3と5-2-3の噛み合わせで自然とサイドに2vs1を作りやすい噛み合わせだと認識していたため、SBがWGと少し遠いところからの攻撃スタートになっていた点には驚かされました。個人的には暑さも考えて、低い位置から無理にスピードアップすることを防ぐことが狙いではないかと考えています。

【守備】

 パルセイロはいつもと同じように3トップをピッチ中央に門のように置く4-3-3の守備組織を構築します。対するFC岐阜はWBが幅を担保する形の3-4-2-1でビルドアップを図ります。パルセイロの狙い通り外側を経由させて前進させることに成功させますが、FC岐阜も最初から外側経由でビルドアップすることを前提とするような形でした。普段であれば、DFラインから出てきたボールに対してIHの坪川や佐藤が強く寄せるのですが、この前半に限ってはあまり寄せ切ることができませんでした。相手の中盤のライン4枚に対して3枚でスライドして対応するわけですから、普段よりタイムラグが発生するのはある程度我慢しなくてはいけない点でした。サイドCBから配球される場面ではIHの対応に問題はありませんでしたが、中央のCBからWBに出されるとやはり厳しい場面も出てきます。3バック+WBの5枚による1つ飛ばしのパスに対してIHが揺さぶられ、アンカーの脇をFC岐阜の選手に使われる場面だとパルセイロとしても若干後手を踏まざるを得ない状況になっていました。しかし、DAZNで観戦してみると構えた状態から決定的な場面を作られた数は少なかったかと思います。
 それよりも、前半の守備で問題だったのはネガティブトランジションの遅さだったかと思います。失点の場面以外にも中盤でミスによるボールロストの後足が止まるような場面も見られました。暑さによるものなのか、ミスの質によるものなのかは不明ですが、この『Run Fast』のところは今季のパルセイロで重要にしているところだと思うので、前半の締まりのない雰囲気はこの辺りから発せられたものかと推測します。

後半

 『生き返った獅子たち』
 試合後のコメントを見ても、ハーフタイムにチーム全体で「このままではまずい」という共有があったのは確実でしょう。誰かを入れ替えるわけでもなく、メンバーはそのままで戦うことをもう一度思い出させたシュタルフ監督、自らを鼓舞し再び戦う集団に変化することができたチーム、どちらも素晴らしい姿勢だったと思います。足りなかったのは勝点2だけだったのではないでしょうか。

【攻撃】

 前半に比べてミスも少なくなり、目指すべきゴールに向かったプレーが増えた印象を受けました。

 前半に比べてゴールを目指す意識が強くなったせいか、後半からはやや左偏重のパルセイロが得意な形が増えていきます。杉井→森川のパス数は前半に比べると明らかに上昇し、杉井が相手のWBやダブルボランチの一方を吊り出すような位置と攻撃姿勢を見せたことで、相手の守備陣形に隙を生み出していきました。
 後半立ち上がりからFC岐阜陣内深くをとることも増加し、CKの数も増えていきました。やればできるというか、本来のパルセイロの目指すべきゴールに向かった迫力や勢いを取り戻したことでチーム全体が1つの生命体のように連動して2ndボールやルーズボールに対する反応も一段階ギアが上がりました。
 得点シーンで見せた佐藤の巧みなターンからサイドの森川へのパスコースに逃げずに中央の宮本につけたパスは前半ではなかなか見られなかった縦への推進力を象徴するような場面だったかと思います。また、森川がクロスを上げる位置もこれまでの試合よりもハーフレーン(より中央)側になったことで、相手のDFからすると目線の移動幅が大きくなり対応がむずかしくなったのではないかと思います。

【守備】

 公式戦3試合無得点を解消したことからも攻撃面に注目が集まりがちですが、守備の勢いも後半から本来の形に戻ったことを忘れてはいけません。

 パルセイロの同点弾後、FC岐阜はヘニキ選手に代えて小山選手を投入し、システムを4-4-2に変更します。この変更はおそらく後半に入ってパルセイロの攻撃の起点になりつつあった杉井のプレースペースを奪うためのもので、この変更により初期配置のサイドの枚数は2vs2の数的同数になりました。ただ、この4-4-2への変更はパルセイロの守備的側面からすると好都合ととれるものでした。パルセイロは前半から相手の前進を思うようにはさせていなかったものの、3バック+WBの横方向の揺さぶりを捕まえきれず、奪いどころをはっきりさせられない場面もありました。しかし、4-4-2でSBとSHがサイドレーンに張るタイプのチームに対して、パルセイロの4-3-3ブロックはより強固な守備組織に変貌します。
 外側経由に相手のビルドアップを誘導し、SBやSHに強烈な圧力をかけることで一瞬にして自由を奪い、ボール奪取を狙います。この時アンカー脇に相手選手がいると逃げ道として使われてしまうこともあるのですが、4-4-2のシステムではそこに人を置くのは難しいことです。相手の変更により奪いどころが更に明確になったパルセイロは守備→攻撃の勢いから相手ゴールを強襲する流れを掴みました。

 81分に佐野を投入し、5-3-2のブロックを形成し試合終了までのプランを明確にしました。猛暑の中でも相手SH&SBにパルセイロのIH&WBが食らいつき、FC岐阜としては難しいクロスを上げることに終始していました。中央に構える3枚はパルセイロの中でも圧倒的な空中戦の強さを誇る3人であり、悉くFC岐阜の攻撃を跳ね返していきます。
 しかし、そんなパルセイロの牙城も暑さが一因で隙を作ってしまいました。杉井が終了間際に足を攣るとWBは小西とデュークの2枚になりました。それぞれ元々WGの選手ということもあり、大外の守備力が若干下がった隙をFC岐阜は見逃しません。小西が1vs1で内側にかわされるとインスイングのクロスがファーサイドへ。デュークの背後から走り込んできた窪田選手に同点弾を許します。
 勝利まであと一歩のところだったため、小西に対するカバーDFの距離は適切だったか、最終ライン+GKから1stDFに対して声はかかっていたのか、その前の押し込んだ場面での時間の使い方は適切だったかなど“たられば”が出てきますが、失点は失点。取り返せない形で勝点2を失いました。

まとめ

 4月29日以来の逆転勝利を見られる寸前だったので、負けた雰囲気すら漂う引き分けだったかと思います。ただ、リーグ戦はトーナメントではなく1シーズン通して強かったチームが優勝し、昇格を掴み取ります。今季は上位勢の取りこぼしが少なく、すでに昇格圏内とは勝点差5、首位とは勝点差7と1試合でひっくり返せない差に開いてしまいました。しかし、昇格圏への機会が消滅したわけではありません。
 チーム全体で成長が見えるビルドアップ、ニューヒーローによるアシスト&得点、逆転まで持っていく勢いと底力など今季のチームは絶え間なく進化しています。もちろん、前半の戦いぶりは後退もよぎりましたが、1試合の中で雰囲気を変えられる強さをもっていることは間違いありません。上位陣とは少し差がありますが、パルセイロと勝点差3以内の順位は4位〜12位と混戦の中位グループに入りました。上位との直接対決がない分、混戦の注意グループから抜け出すために引き分けも後退を意味する戦いに身を投じていかなければなりません。しかし、このチームならやってくれるはず。

 今からアウェイ、テゲバジャーロ宮崎戦が楽しみで仕方がありません。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

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