見出し画像

【マッチレビュー】2022 J3 第24節 FC岐阜vsAC長野パルセイロ

敗戦からのリバウンド勝利は叶わず

 9月10日、長良川スタジアムで行われた2022 J3 第24節 FC岐阜vsAC長野パルセイロの一戦は、1-1のドロー決着となった。
 ホームチームの岐阜としては、ホームゲーム3連戦の2試合目。前節のYS横浜戦に続いての連勝を目指した試合だったが、終盤で勝点1を拾う結果となった。長野→藤枝と上位との連戦になるため、より順位の近い長野に勝って勢いをつけたかったところだろう。ただ、内容としては岐阜にも十分に勝利する可能性があったと思う。前半から幾度となく長野ゴールにせまる場面を作り出したものの、クロスバーに阻まれたり、大内のセーブに阻まれたりとチャンスをものにすることはできなかった。終盤にビハインドを背負いながらも、PKを藤岡選手がしっかりと沈めてなんとか同点に。再現可能性が低い形とはいえ、1点ビハインドから再開するミッドウィークの藤枝戦に向けては良いイメージができたのではないだろうか。
 一方アウェイチームの長野としては、アウェイ2連戦を未勝利で終えることになった。ホームでの前回対戦に続き、試合終了間際に同点とされ、勝点2を手放す結果となってしまった。前節の敗戦からのリバウンドを期待しての一戦だったが、あと1歩ゴールが遠い時間帯が続いた。その間の岐阜の攻撃は守備陣を中心に先制を許さない集中ぶりで乗り切った。耐えて耐えて、新加入の乾が先制点を奪うところは最高にスカッとした場面だったが、疑惑の判定でPKを取られて失点。2試合連続でチームの雰囲気、メンタルに嫌な影響がないことを祈る試合の終わり方であった。

スタメン&ベンチメンバー

 ホームの岐阜は、前節からスタメン変更が1名。藤岡選手に代わって窪田選手が先発起用。そして、引き続き4-4-2のベーシックなシステムを採用。高さで優位性をもつ2CB、経験豊富な両SB、落ち着きを与えられるボランチ、フレッシュで鋭い突破のできる両SH、一発のあるCFと改めて見ても超J3級の面々が揃った。チーム内得点トップの藤岡選手がベンチからのスタートになり、ゲームチェンジャーとしての起用が推測された。また、ミッドウィークに行われる藤枝戦を見据えての温存だったかもしれない。
 アウェイの長野は、前節からスタメン変更は1名。前節の終了間際に退場処分となり出場停止となった杉井に代わり坪川がスタメン入りとなった。お馴染みになってきた5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムで、杉井のところにそのまま坪川が入った。また、藤森と佐藤の位置が八戸戦と同じ配置に戻った。この辺りの変更は、試合中にどのように作用したのだろうか。

一進一退の序盤

 この試合では序盤からお互いの狙いが見える攻防が繰り広げられた。

 岐阜が攻撃のスイッチ役としていたのは、おそらくLSHの村田選手。前節のYS横浜戦でも、得意なドリブルから鋭い攻撃の起点になっており、勢いのある若手に切り込み隊長を任命した形だろう。
 序盤はお互いに探り合いの時間帯であり、長いボールも飛び交った。その時間帯で長野のビルドアップをひっかけた岐阜は、すぐさまボランチを経由して左サイドのスペースに村田選手を走らせる。長野はビルドアップ時5バックから4バックに可変するシステムであり、4バックはPA幅程度に最小限の開きを作る。そのため、ネガティブトランジションになった時には、相手にサイドレーンを明け渡すことになる。ただ、サッカーは中央にゴールがあり、中央を厚くしながら守備をするのが定石である。その理屈から考えても、長野のビルドアップ時の4バックの配置は理にかなっている。それでも、岐阜のスイッチとなる村田選手は、その空いたスペースで本領を発揮できるプレーヤーである。スピードに乗ったドリブルから鋭い仕掛けで長野の守備を崩しにかかる。この一連の流れから岐阜はチャンスを作り、押し込んでいくようになる。

 一方の長野も、ある程度プラン通りの攻撃はできていた。最近の長野のビルドアップの特徴である、最小限の幅を使った4バックのビルドアップ。4バック+GKの5人で細かく繋ぎながら、相手のスライドのズレや隙を伺う。このボールの動かしに対して、ボランチの宮阪と水谷がボールを引き出すタイミングを見計らってパスを受ける。
 4-4-2の基本的なプレスに対しても有効的であることは前節のいわき戦でも証明済。各ギャップに対して、適切なタイミングと位置でボランチが関わることで相手の1st守備ラインを超えることができる。この試合でも、宮阪・水谷がボールを引き出して前進すると、全体としてボールサイドへ近いサポート距離を作っていく。山本が相手DFラインを縦に引っ張り、表のスペースを2列目に与える。ここに流動的な2列目が近い距離でコンビネーションを交えながらスピーディーに2nd守備ラインの突破を図る。序盤の宮阪のミドルシュートもこのビルドアップの流れからであった。

利き足問題

 前半の途中で坪川と水谷が入れ替わった時間帯があった。4バック時のLSBに水谷が入り、宮阪の相方を坪川が務めるという形。当初の並びからは変わったが、出場時間の長いポジションに当てはめると、むしろ適切なポジションになったと言える並びだ。ただ、自慢のビルドアップの精度が落ちる可能性を多分に含んだ並びに見えてしまった。
 まず大きな問題は利き足問題。今節は4バック時のRSBを藤森に戻したことにより、水谷がLSBの位置に入ると両SBが利き足を内側に持つ配置になる。パスの出し手に対して利き足が近い配置になるため、SB個人の局面で見た時は、相手から遠い足でボールを扱うことができる。そのため、狭いコンビネーションを活用したりする場面では有効性を発揮できる。その一方で、パスアングルが減ることも考慮しなくてはならない。

 もちろん、利き足じゃない方で捌けばよいという考えもあるが、無意識に利き足でのコントロールは多くなってしまうもの。プレッシャー下では、さらに顕著に。この現象が起こると、相手DF(この場面では岐阜SH)に迷いが生まれなくなる。なぜなら、身体の向きから考えて外側に出る確率は少なく、守備の方向を限定できるからである。仮に、少しプレスが遅れて距離ができてしまっても、内側の足で外側の味方にパスを通そうとすると相手DFの近くを通ってしまう。

 本当に僅かな差だが、この50cm〜1mの差がビルドアップの安定感に繋がっていくことは明らかだ。更に、マッチアップしているSHが迷いを感じないということは、その後方でインターセプトを狙う2ndDFは尚更狙いを絞ることができる。嫌な位置でショートカウンターから決定機を作り出されることも考えられる。言及したような影響もあってか、この立ち位置ではビルドアップはスムーズに行かず…。2,3回のビルドアップを終えて元に戻ることになった。
 とにかく配置が重要ということを推したいのではなく、それだけこだわりを感じるビルドアップであるだけにあと一歩詰められるところは突き詰めて進化してほしいと感じる。また、前半の岐阜や前節のいわきのようにファウル覚悟で球際に厳しくチェックするチームに対して、回避しチャンスを作っていくためにも大きな武器を更に磨いていく必要がある。

ギアチェンジのデュエル

 この試合で長野が思うように前進できなかった原因として、長野の2列目に対する岐阜の鋭いチェックが挙げられる。長野のビルドアップは、先述したようなGK+4バック+ボランチで相手の隙を伺いながらボールを動かす局面と2列目より前に楔のパスをつけてスピードアップする局面が存在する。岐阜は長野の前進を食い止めるために、後者の対策を徹底していたように思う。
 長野のビルドアップに対して、ボールを動かす局面で奪えないと判断すると、スピードアップの鍵となる楔のパスが入るプレーヤーに対して厳しくチェック。後ろ向きで受けようとする状態に対して、絶対に自由な時間は作らせないという守備をしてきた。山本がキープする前に潰されたり、森川や佐藤がボールロストする原因はここにあったと思う。
 長野がビルドアップからスムーズに相手ゴール前に襲い掛かる時は、スピードアップがうまくいっている時。そのスイッチを入れる瞬間を潰すことで、1st守備ラインの突破は許してもその後ろはやらせないという岐阜の決意が伝わる守備だった。そして、ファウルになっても直接的なピンチを招くセットプレーにはならない位置であったことも強度を高める一因になった。相手を誘い出すビルドアップである以上、ここに目をつけられるのは時間の問題だった。ただ、潰されない形での突破も見せており、この精度やコンビネーションの多彩さを磨けていけるかが今後の課題になっていくだろう。

途中出場メンバーの活躍

 今季の長野の特徴でもある交代選手の活躍。この試合でも十分に確認することができた。
 最初に投入された宮本は前線に高さをもたらし、山本の負担を軽減。また、単純に高さの面でもプラスになり、セットプレーの守備でも活躍。次に交代出場したのは、デューク&山中コンビ。5-1-3-1→4-2-3-1の可変システムにおいて、相手へのプレス・WGとしての仕掛け・狭い中でのコンビネーションと自由度が高い分、タスクの多い運動量が求められる位置を変更。デュークの破壊力と前回対戦で逆転弾を決められた山中の同時投入ということで、岐阜としても嫌な印象はあったはず。山中は投入早々中央から鋭い仕掛けを見せて脅威となり、デュークはお馴染みの仕掛けで左サイドを押し込む活躍。先制点のきっかけとなったFKも彼の仕掛けから生まれた。
 そして、乾と小西の同時投入。小西はLSB(?)として出場した。デュークがサイドレーンに張って仕掛けるところに対して、ハーフスペースなどに入り込んで積極的にサポート。ドリブルが得意な2人が並ぶ左サイドは岐阜にとっても脅威となったはず。そしてそして、何と言っても仕事人乾。加入していきなり挨拶がわりの先制点を叩き込む。攻守において体を投げ出せる冷静な選手で、経験豊富なベテランということもあり、長野にとって大きなプラスになるだろう。
 長野は今季J3の中でも1試合あたりの交代人数がリーグトップクラスに多いチームだが、更に他のチームとは違うところがある。それは、1人の選手がこなせるポジションの多さ。もちろん、それぞれの選手にスペシャリティを発揮できるポジションはあるにせよ、シュタルフ監督になり、以前からいる選手もプレーの幅が明らかに広がった。大内、池ヶ谷、宮阪、宮本という柱になれるスペシャリストとポリバレントな選手の個性を掛け合わせて、最高のチームとして機能する。チーム全体としてここまで興味深い仕上がりになっているのは、私が知る限り初めてだ。

まとめ

 岐阜は今節の結果を持って連勝達成とはならず。夏場以降、厳しい戦いを強いられているが、やはり個々のクオリティはリーグトップクラス。瞬間的なアイデアや技術はさすがといえるものがある。また、経験豊富なベテランに加えて、若い選手が出場時間を伸ばして成長していっているのも良い傾向だろう。今季の対戦は終了となるが、来季以降横山監督が継続就任し、同じカテゴリーで戦うとしたら非常に厄介な相手になる。
 そして、完全に長野サポーター目線になるが、ミッドウィークに控える藤枝戦には是非とも勝ってほしい。雨天中断の1点ビハインド状態から始まり、藤谷選手も出場停止と難しい状況ではあるが、覆すだけの力は間違いなくある。チャンスクリエイトはできているだけに同点弾が入る時間帯によっては、大差での逆転勝利もあるだろう。
 一方の長野は、前節のいわき戦に続いてのアウェイゲームで、勝点3を得ることはできなかった。順位や勝点差を考慮すると、いわきでとれなかった勝点3は岐阜で…と思えた分、厳しい同点決着になったと感じる。"厳しい"というのも内容云々ではなく、勝点の逃し方からくるメンタル面への影響。監督がモチベーターとして担う役割が大きく見えるからこそ、嫌な落ち込み方はしてほしくない。
 まだまだ昇格への可能性は残されており、このチームなら一見不可能に見えることも成し遂げられると信じることができる。このアウェイ2連戦は、チームにとっても、サポーターにとっても非常に苦しいものだった。しかし、その分2週連続でのホームゲームが待っている。過ぎてしまった試合の結果は、あくまでも結果。終わった試合から課題を吸い上げて"Grow Everyday"するしかない。非常に悔しく、苦しいメンタル状態であることは想像に難くない。だからこそ、ピッチで戦うチームをサポーター全体で支え、戦い続けなくてはならない。絶対に燃え尽き症候群的な試合はしてほしくない。まだまだ旅の途中。全員で今一度"One Team"となって福島戦に備えよう。

獅子よ、千尋の谷を駆け上がれ。

よろしければサポートお願いします! アウェイ遠征費やスタグル購入費に使わせていただきます🦁