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2022 J3 第3節 AC長野パルセイロvsカマタマーレ讃岐 マッチレビュー

 第3節にしてついに迎えたホーム開幕戦、因縁のカマタマーレ讃岐を相手に3得点を奪っての勝利となりました。戦術浸透に時間がかかると見られていたシュタルフ新体制でしたが、そんな不安を感じさせない試合運びだったかと思います。ただ、点差ほどの圧倒感がある内容に思えたかというと100%Yesとも答えられないかもしれません。開幕から3試合負けなしの出来の良さ+あと一歩感の正体まで分析を通じて迫っていきたいと思います!

①試合結果

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 ほとんどの方がご存じだと思いますが、試合結果は3-1でパルセイロの勝利でした。パルセイロのビルドアップが引っかかりヒヤヒヤする場面もありましたが、1本目のCKを獲得すると、宮阪が速く低いボールを供給しゴール前の密集で坪川が押し込んでの先制点でした。前半6分とかなり早い時間帯での先制だったことと、カマタマーレ讃岐側からすると浮き彫りになっていた弱点を突かれたことが重なり難しい立ち上がりになってしまったかと思います。
 その後は、パルセイロが5-3-2のブロックを緻密に設計し、隙を作らない守備で試合を落ち着かせました。そして、再び訪れたセットプレーのチャンスでこぼれ球に池ヶ谷が詰めて追加点を奪います。試合内容として膠着しかけていたところでのセットプレーからの得点は両チームの明暗を分ける時間帯に生まれたとも言えます。反撃する暇を与えずダメ押しの得点を奪ったのは宮本でした。自身のJリーグ通算100試合出場に花を添える得点は試合の行方を決定づける一撃となりました。後半中盤あたりから押し込まれる展開も増え1失点することになりましたが、終始試合をコントロールできた試合巧者感のある90分間でした。

②相手の武器を奪う

 シュタルフ監督体制になってまだ3試合しか観戦していませんが、どの試合でも感じる点として「相手の長所を消す」というゲームプランが見られます。このことは開幕から3試合全て異なる基本システムからスタートしていることからも伺うことができます。

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 上図がお互いの基本システムになります。前節契約の関係で欠場となった宮本が先発復帰できるということで開幕戦と同様の4-3-3を予想していましたが、蓋を開けてみるとまだ見たことのないシステムを採用して試合開始ということになりました。開幕戦で見せた4-3-3でもなく、前節見せた4-3-1-2でもない背景には、相手の長所を消す狙いがありました。
 今節の対戦相手であるカマタマーレ讃岐の特長はWBから供給される正確なクロスにフィジカルの強力な2トップが飛び込むというところでしょう。そうなると、この長所を消すために2つの方法が考えられます。
 ①WBを機能不全に陥らせる
 ②2トップを機能不全に陥らせる
今回シュタルフ監督は上記2点を同時に達成し、後者の対応に重点をおいたシステムとして5-3-2のブロックを形成させたと考えます。試合後のコメントでも『高さのあるFWへのボールを跳ね返す』『4バックがスライドした時の隙間を狙われないように』といった趣旨のコメントがありました。

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 『高さのあるFWへのボールを跳ね返す』ための規制ポイントは上図の楕円で示した3点になります。まずは森川-宮本のラインでアンカーへのパスコースを封殺します。これは、前節までの試合でも見られたように宮阪の前に空いているスペースを使わせないための制限になります。アンカーを通じて前進されるということはピッチの中央からどこへでもパス供給ができる状況を作られているということになります。相手のボールホルダーに対して制限をかけられないとボールの奪いどころを作りづらく、押し込まれる展開が増えるので、開幕から3試合通してここは徹底してFWの守備タスクとして要求しているところになっています。
 次にパルセイロのCBとカマタマーレ讃岐の2トップのところになりますが、常に2vs1を作り出す配置の工夫があったかと思います。3-3-2-2のミラーゲームでは中盤の枚数が同数であるために、数的差が生まれるのはFWvsDFというところになります。基本的に空中戦で勝負してくるとわかれば、人基準でポジションを取りマッチアップすることで対応することができます。なぜなら、クロス対応や空中戦でDFが競り負ける要因の1つに「守る対象の迷い」が挙げられるからです。

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 ロングボールやクロス対応の時DFはスペースとマーカーを同時かつ瞬間的に確認する必要があり、どちらかに偏ったポジションをとりFWに逆を取られると後手を踏んでしまいます。しかし、今回は2枚のFWに対し3DFがいることでスペースは余っているDFがケアして、マーカーのいるDFはFWとの競り合いに集中させることができます。松本選手と小山選手が素晴らしい選手だとしても、池ヶ谷-秋山-喜岡の3ユニットで組織となったら負けない、そんな選手への信頼がこの戦術から見て取れました。

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 それでは『4バックがスライドした時の隙間を狙われないように』とはどういうことなのか確認していきましょう。
 上図が開幕戦で見せた4バックでの守備を例にした配置になります。3トップが中央を封鎖し、サイドにボールを誘導することでボールサイドに密集を作り、サイドでボール奪取を狙うというコンセプトになります。ただ、5人でピッチの横幅68mを守る時よりも1人あたりが担当する幅が広くなります。

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 仮に密集地帯でボール奪取が完結せずにボールが逆サイドにいったとすると、4人の移動距離は長くなりそれに伴ってDF同士の間(ギャップ)も大きく開けることになります。このギャップに2列目の選手やFWが走り込むとDFやMFは自陣ゴール方向を向いて守備しなくてはいけないので、クリアが難しかったり、最悪の場合オウンゴールということにもなりやすくなります。

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 その点5バックで横幅68mを守ればスライドする時、個々人の移動距離が短くなり選手間のギャップも狭くなります。また、移動時間が減少する代わりにマーカーの確認などする余裕が生まれクロスに対応しやすくなります。
 セットプレーという相手の弱点を突いての複数得点も狙い通りで素晴らしく、5-3-2で堅実に先制したチームの優位性を担保した上での試合運びは申し分ない完成度だと考えます。

③3バックの不慣れ感

 物足りなさと言いますか、発展途上感の残る理由は3バック時のビルドアップにおける戦術浸透の薄さだと考えます。ここは、新監督を招聘して前年とシステムが変更になったところで仕方ないところなので、シーズンを通して成長していけば、昇格争いをリードするようなシーズンになるかもしれません。

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 宮本の試合後コメント+DAZNの映像での分析からビルドアップ時は5-3-2のブロックから右肩上がりに可変して4-3-3で攻撃を組み立てようとしていたかと思います。そうなると普段CBの役割を務めることの多い喜岡が一時的にRSBの役割を担うことになります。しかし、普段やり慣れていないポジションの位置どりをいきなり完璧にしていくのはかなり難しいことです。可変していく中で、擬似RWGである船橋とRIHの佐藤とのトライアングルの距離感をどう形成していくかをここから煮詰めていくことになるでしょう。Y.S.C.C.横浜時代からコンビを組みシュタルフ監督の戦術を熟知する佐藤&船橋のコンビネーションに即座に対応はハードなタスクになるので、喜岡のビルドアップにおける要求は多くなっているのかなと感じました。
 相手の長所を消し、自分達の長所を生かすために守備時3バック→攻撃時4バック可変を採用していくのであれば、右サイドのユニット構築は必要になってくるでしょう。

④トドメの5-2-3

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 61分に船橋→デューク、佐藤→三田の交代を行い5-3-2ブロックから5-2-3ブロックに変更する場面がありました。おそらく、この変更の意図は「より低リスクに相手ゴールに迫る」といったところでしょう。守備時の5バックは変えずに中盤をダブルボランチに変更し3トップとしました。この直後、運動量の求められるダブルボランチには宮阪→住永の交代がありました。3バックに対して3トップで制限をかけ、後方で回収したボールを前線3枚が手数少なくゴール前に運ぶといったところだったでしょう。
 ただ、この変更にカマタマーレ讃岐の後藤選手がいち早く対応します。中盤に3枚いた守備ブロックが2枚になったため、必然的にWボランチの脇スペースが広くなります。このスペースに後藤選手が降りてきて3バックからボールを引き出すことで、中盤の数的有利を活用できていました。パルセイロからすると簡潔に相手ゴールに迫るシステム変更だったはずですが、反対に中盤を掌握されて押し込まれる展開も増えるようになりました。しかし、東と佐野を投入することでカウンターの鋭さを磨くような変更にも一定の成果を出せていたかと思います。
 いずれにしても、試合中のスムーズな可変に対応できているパルセイロの選手たちを見ると、キャンプで鬼のような指導があったことが想像に難くないです。まだ新チームが始動して序盤なので、荒削りなところも散見されますが、それを上回るほどのシュタルフ監督を中心とした『One Team』の団結力はこれからの成長を期待させます。

⑤個人的MVP

 今節の個人的MVPは森川です!昨季終盤はリーグ戦で負った骨折の影響で試合から離れていましたが、今季に入ってもチームを牽引する切れ味は健在です。特にこの試合は古巣のカマタマーレ讃岐が対戦相手であったこともあってか、いつも以上にドリブルとポストプレーに闘志を感じました。左サイドでボールを持ち、自分の得意な間合いに持ち込んで勝負する。そして、引っかかっても即時奪回を1人で完遂し、クロスorシュートまで持ち込みます。第1節にヘディングゴールを記録していますが、彼の得意とする左サイドの仕掛けからアシストと得点を量産してくれること間違いなしです。
 また、昨季の横山監督体制下でも試みていた『森川SB補完計画』はある種の完成形が見られたかなと思います。攻撃とハードワークに特長のある選手なので、完全にSBとして守備専任にするよりも、今節のようなWBで持ち上がるスペースを与えた方が特性を生かせている起用に見えます。現在川田が離脱中ということもあり、今節のように船橋がイエローカードをもらった時の代役としての可能性も十分に見せつけてくれました。

まとめ

 第3節までで2022シーズンJ3の3月中の試合は終了となりました。第3節終了時点で負けなしのクラブは福島ユナイテッドFC、AC長野パルセイロ、鹿児島ユナイテッドFC、いわきFCの4つになりました。当然開幕から3試合負けなしだから昇格争いに加われるかというと、昨季のパルセイロが身を持って厳しさを示してくれています。しかし、新監督となってチームの基盤作りが難しいと思われたシーズン序盤で、TRMを含めて勝ち癖がついている状態は非常に良いことだと思います。
 今後の日程を見ると、カマタマーレ讃岐は藤枝MYFC、福島ユナイテッドFC、ヴァンラーレ八戸との試合です。藤枝MYFCはパルセイロも経験したように攻撃力のあるチームですし、その藤枝MYFCを無得点に抑えシーズン初勝利を掴んだヴァンラーレ八戸も強敵と言えるでしょう。またこの3試合で唯一のホームゲームでは開幕3連勝の福島ユナイテッドFCとの対戦になります。次節パルセイロが福島ユナイテッドFCの勢いを止められるか否かはカマタマーレ讃岐にとっても重要な点かもしれません。
 一方、パルセイロは鬼の4月日程に突入します。4月の対戦相手は福島ユナイテッドFC、いわきFC、Y.S.C.C.横浜、鹿児島ユナイテッドFCとなります。なんとシーズン序盤にして開幕3戦負けなしクラブの全てと対戦します。また、Y.S.C.C.横浜もFC岐阜、松本山雅FC、福島ユナイテッドFCと難敵相手に素晴らしい試合内容を見せていますし、何と言ってもシュタルフ監督、池ヶ谷、船橋、佐藤には是が非でも勝ちたいと思って闘志を剥き出しにしてくるでしょう。この4月日程をどんな勝点で乗り換えられるかが、5月のダービーにも影響してくるでしょう...。

それでは、次節の対戦相手福島ユナイテッドFCの第3節試合分析でお会いしましょう!

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