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【上田】滞在レポート by 和田ながら _ 生きることとアートの呼吸〜Breathe New Life

長野に行ってみたかった

 京都で演出家として活動している和田ながらと言います。近年は、上演活動と並行して、地図にまつわるリサーチプロジェクト「わたしたちのフリーハンドなアトラス」の主宰、ひろく関西を対象にリサーチを行うKYOTO EXPERIMENT「Kansai Studies」への参加など、作品としてのアウトプットを必ずしも第一義とはしないリサーチプロジェクトへの関わりも増えてきました。また、木屋町三条の多角的アートスペース・UrBANGUILDでブッキングスタッフとして仕事をし、京都舞台芸術協会という現代演劇の実演家が集まる小さなNPO法人の理事長もやっています。

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 わたしがこのプログラムに参加した動機や関心は、上述のざっくりプロフィールをなぞりなおすようなものですが、まず、長野で作品を上演してみたい、もしくは、長野でリサーチしてみたい。長野のインディペンデントなスペースはどこでどんなふうに営まれているのか見たい。長野のアーティストたちはどのようにつながりあっているのか知りたい。
 とまあ、言い方はいろいろですが、あっさりまとめてしまえば、とにかくこれまでほとんど訪れたことのない長野という場所に行ってみたかった。
 そして、たぶん、京都で暮らし京都で活動する人間として長野を旅して長野を存分に見聞きしながら、京都のことを考えたかったのです。

滞在日程
2021年10月26日(火)~29日(金)
訪問先
善光寺
長野県立美術館
ネオンホール
犀の角
茶房 読書の森
ブルーベリーガーデン黒岩
天空の芸術祭[海野宿エリア]
別所神社
常楽寺
Yショップニシ
北アルプス芸術祭[市街地エリア][仁科三湖エリア][東山エリア]
上土劇場
木曽ペインティングス
義仲館
信濃追分文化磁場 油や

 スタッフのみなさんの豊かなネットワークと手厚いコーディネートによって、たったの3泊4日とは思えない濃度の時間を過ごすことができました。京都に戻ってきてしばらく経つのにまだ少しくらくらしているぐらいです。
 出会った人や触れた作品ひとつひとつにいくらでも言葉が注げそうではあるのですが、キーワードをふたつに絞って振り返ります。

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DIY

 この旅ではDo It Yourselfなスピリットを何度も感じました。
 長野で出会ったさまざまな人たちが口々に大事な場所だと名前を挙げたネオンホールは、大学の仲間同士で運営されはじめた場所だとのこと。いまは楽屋として使われている部屋に最初期は運営メンバーが住んでいたとか。
 もともと映画館だった空間を舞台芸術の劇場仕様に作り変えている上土劇場で話を聞けば、近隣で閉館した公共ホールからバトン(照明等を吊る器具)の昇降装置を譲ってもらって手運びで搬入し、閉館した映画館からスクリーンを譲ってもらって仕込み直して、大道具で使っていた冷蔵庫を楽屋で稼働させている。
 そして今回私が出会ったDIYスピリットの最たるものは、ブルーベリーガーデン黒岩でした。機材的にもっとも整っている屋内のスペースではまだ上演が行われたことがないというのに、大粒のブルーベリーがたくさんなるという畑と、ホームセンターで買える資材で拡張された半屋外のエリアで公演が行われているというのは驚き。劇場といえば「原状復帰(=使う前の状態に戻す)」が当たり前ですが、ここでは「原状」そのものが変容を繰り返している。
 変わりつづけることを恐れない。むしろ、変わりつづけるからこそ保たれうるものによって、常に現在形でありうる。なにより、変わりつづけることを楽しむこと。そう、ネオンホールも上土劇場もブルーベリーガーデン黒岩も、とても空気が軽やかでした。

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街道

 今年3月、「Kansai Studies」のリサーチの一環で滋賀の大津から京都の三条大橋まで東海道をえっちらおっちら歩いてからというもの、街道が少し気になりはじめていたわたしは、犀の角の荒井さんから、劇場をやってみようという決断を促した要素のひとつに「街道沿い」という立地があったと教えていただいて、なるほど街道はやっぱりアツいのだ、と勝手に盛り上がりました。
 それから巡った天空の芸術祭の海野宿エリアも、木曽ペインティングスの木祖村藪原エリアも、街道の宿場町。信濃追分文化磁場 油やはその名にもあるようにまさしく「追分(=街道の分岐点)」に位置しています。
 油やの斎藤祐子さんに、街道は、山にトンネルを掘って力技で通す高速道路のような道ではなく、人の力で無理なくつくられている道で、誰か/どこかに必ず続いているのだ、という話をしていただいた。もしわたしが終電を逃してしまっても、ここからなら街道を進んでいけば京都に帰れるね、と冗談めかして笑いあった時、そうか、ここは京都から身体ひとつでたどり着けるところなのだと、今さらながらに気が付きました。
 多くの旅人が、そして牛馬が、歩き、すれ違い、ひととき休み、そしてまた歩いた街道には、特別の風が流れているように感じます。その風の力をあまさず活かそうとするさまざまな人たちによって、今もなお、風は旅人をいざなう。わたしもまた、その風に運ばれてきて、そして帰っていく。

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長野にまた来たい

 さて、わたしのミッションとしては、京都のDIYスピリットについて、京都の街道について、これから考えなくてはいけません。いや、このふたつ以外にも、「自然と表現」「義仲館の戦略」「大学つながり」「ディスカバー・ふるさと」「未分業」など、まとめきれないぐらい盛りだくさんなトピックを、あらためて京都でおさらいしなければなりません。
 そして今思うことは、これだけ濃密であったにもかかわらず、三泊四日ではちっとも足りなかった、ということ。では、(延期前に予定していた)一週間あればじゅうぶんだったかといえば、おそらくそうではなく、要するに、ふたたび訪れなければいけないのです。いちど自分の拠点に戻って、この旅を消化して、それからまた長野にやってきて、そうしてようやくわかる(かもしれない)こと、のために。
 なので、また行きます。行きたい。そう思えるぐらい、長野の空気は軽やかで、心地の良い風が吹いていて、気持ちの良い呼吸をたくさんしました。

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 そして、UrBANGUILDやKYOTO EXPERIMENTTHEATRE E9 KYOTO京都芸術センターに、みなさんをお連れしたいと思いました。長野にまた来たいということと同じくらい、京都を案内したくなりました。お恥ずかしながらわたくし車は運転できませんので、すみませんが、自転車で。


和田 ながら(演出家・したため主宰)
2011年に自身のユニット「したため」を立ち上げ、京都を拠点に演出家として活動を始める。美術家や写真家など異なる領域のアーティストとも共同作業を行う。2015年、創作コンペティション「一つの戯曲からの創作をとおして語ろう」vol.5最優秀作品賞受賞。2018年、こまばアゴラ演出家コンクール観客賞受賞。2018年より多角的アートスペースUrBANGUILDのブッキングスタッフ。2021年度セゾン文化財団セゾン・フェローI。NPO法人京都舞台芸術協会理事長。

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