前髪を切った。

何年かぶりに前髪を切った。

ドラッグストアで買ってきた
髪切り用のハサミを使って
慎重に切り揃えた。

心境の変化があったとかでは
全くないのだけど、
なんとなく前髪が欲しくって
なんとなく切ってみた。

鏡に向かって
ハサミを動かしていたとき、
ふと幼い頃の記憶が蘇ってきた。

あれは幼稚園の頃だったと思う。

工作の時間に、
私は友達と部屋の片隅で
ハサミを握りしめていた。

きっかけは忘れてしまったが、
友達と２人で
自分の前髪を切ろうとしていた。

「どれくらいがいいかな」
なんて前髪を引っ張りながら、
鏡じゃなくて
自分の視界に見えている部分を
ジョキジョキと切りはじめた。

…というところで
先生が慌てて飛んできて、
「２人とも、ハサミを置いて！」と
手に持っているハサミを没収された。

「怪我はしてない？」と
オロオロする先生と、
騒ぎに気づいて教室に入ってきた
園長先生に囲まれ、
私と友達はキョトンとしていた。

その日のお迎えは、
先生が母にめちゃくちゃ謝っていたのを
今でも覚えている。

何と言っていたかは
聞こえなかったが、
何度も何度も頭を下げていた。

大人になって
先生の立場を考えてみたら、
それは生きた心地がしなかったと思う。

しかし本人はというと、
「お母さん、みてみて！
　なっちゃん自分で切ったよ！」
と誇らしげに報告してきたらしい。

母は、私のガタガタな、
そしてオンザマユゲを通り越して
短くなった前髪を見て、
本当は危ないことをしたことを
咎めるべきたと思ったが
思わず笑ってしまったそうだ。

流石に今の私は
鏡を見てちゃんと切っているので
切りすぎることはなかったが、
思い出に浸りすぎたのか
ちょっと短くしすぎてしまった。

まぁ、あの頃と比べたら
全然問題ない範囲だが。

久しぶりに
額の隠れた自分の顔を見たら、
何だか少し幼くなってしまったが、
しばらくは前髪のある生活を
楽しもうと思う。

先日にょろさんにも紹介していただいた
「うちの犬」のエッセイ。
「動物のいるしあわせ」10選に
入れていただきました！

ひな姫さんからの賞金として
サポート＆オススメもいただきました。

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