見出し画像

わたしから見たスシュコフ

連珠世界チャンピオン経験者のなかで、私から見て異質なプレイヤーなのがスシュコフだ。というのも、他の人達は少なくとも連珠に関しては強烈な個性の塊で、それぞれの特徴を一言で説明するのが容易である。攻めのタイムラ、受けの曹冬、精度の中村など。ところがスシュコフに関してはこれといった特徴が見つけられなかった。どちらかといえば受け寄りだが、そんなに偏っているわけでもない。イージーミスも人並みに見受けられ、連珠を始めて結構経ってからも強さがよく分からなかった。正直自分でも勝てそうだと思った。
そうぼんやりと思いながら、初めて対局したのは三年前のことになる。ここで彼の強さにようやく気づく。棋譜を見ていたときと、実際に対局しているときで手から受ける印象がだいぶ違う。私は色々な人の棋譜をかなりの数に渡り並べてきたほうだと思っている。そのなかで、この手の感じだと自分ならこのくらい勝てそうだなとか、次はここに打ってきそうだとかをイメージする。多少の誤差はあっても、それが大きく外れたことはほとんどなかった。「この人はこんな連珠をする人だったか?というか強くなってない?」というのが第一印象だった。そのときの世界選手権では彼の強さを物語るエピソードがある。大会序盤で2敗してからの予選通過、予選決勝を通して戦い内容を大きく落とすことなく優勝という二点だ。棋譜だけを見ていた頃には分からなかった。この人はプレイヤーとしての全体的な完成度が非常に高いのだ。心技体どれをとっても極めて高水準で隙がない。また、このときの世界選手権は彼にとって2年のブランクを経てのものだった。その間に何があったのかは私には知る由もないが、何かが変わった、あるいはゆっくりとだが常に変わり続けているのだと思う。強い。私のそれまで戦ってきた強豪は、戦型の変遷はあっても基本的には各々の完成された何かをぶつけてくる印象が強かった。彼の連珠は、連珠自体の完成度とは別に、常に未完成感がある。連珠は30過ぎくらいが全盛と言われるらしい。スシュコフは40を超えているが、未だに進化を続けているのは本当にすごい。
その翌年、彼とは二局打った。そこでは長い手数を打ったので前回より伝わってきた。なんというか連珠というものに対して抱いている思想が近い気がする。私はよく「連珠は大自然みたいなものだから、それを思い通りにするのではなく身をゆだねることが大事」という系統の、他の人から見ると意味不明なことを口にしているが、相手の打ち回しからそれに近いようなものを感じる。このあたりは本人に訊いていないのでわからないが、いつか確認してみたい。
私の中でのあこがれはメリティーだった。いまも変わらない。しかし、一番尊敬するプレイヤーはと問われれば、いまはスシュコフだ。自分の目指す先なのだと感じる。彼のように進化を続けたいものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?