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彗星戦決勝観戦記~藤田麻衣子二段VS芝野龍之介初段~

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黒:藤田麻衣子二段 白:芝野龍之介初段 白6まで

白4、黒5、白6と打たれる。連珠の対局では必ずあるやりとり。この手順を見た時に緊張が走る。藤田二段とはよくお話をするのだが、いつだったか彼女が以下のようなことを言っていた。

「五珠の勉強は指南書でしているけれど、Aは必勝だし選ばれることがないと思っているから、いざやられてみるとパニックになった。」

厳密にどう言っていたのかはもう覚えてないのだが、大体上記のようなニュアンスだ。この黒5はまさにそのAーつまり黒必勝の手である。連珠に馴染みのない人からすれば、なんでいきなり必勝になるの?と思われるかもしれない。一つは単に知識的な問題がある。膨大な局面数のなかからこれらをピックアップして勉強するのはかなり労力がかかるのだ。もう一つ、連珠の必勝定石というのは非常に繊細な手順であることが多く、間違えれば即不利や必敗につながることも少なくない。相手があまり研究していないだろうと見て、あえて打たせるということが時折みられる。この場合は前者だろう。芝野初段は序盤から慎重に時間を使って手を吟味する姿が今大会では印象的だった。彼は囲碁のプロ棋士だが、囲碁でもそういう感じなのだろうか。さて、先の私の心配は、終わってから分かることではあるが全くの杞憂だった。藤田二段からは「Aも選ばれることがあるんだということが分かって心の準備をしていた。今回は冷静に打てたと思う」とのこと。あぁこれだなぁと思った。藤田二段、芝野初段共に別の競技でプロとしての活動歴がある。その色眼鏡で見てしまうと、やっぱりプロはボードゲーム適性が高いから何をやっても強くなるよねとなる。特に芝野初段に関しては幼少期に連珠をしたことがあると聞いた記憶があり、そういう情報も含めて判断すると、またやっぱりプロは違うとなる。確かにある程度正しいだろう。一定のボードゲーム適性を持ち合わせているのだと思う。ただ藤田二段に関して殊更に感じるのは、気づく力が高いことだ。自分が打ったり見た経験から、高い確率でなにがしかの収穫をもってきて検証し、取り入れる。強い人はみんなそうだろうと思われるかもしれないが、少なくとも私の見ている限りにおいては、強くてもこういったことができる人は少ない。全盛期は通常20台後半から30台前半とよく言われる。年齢遅くから始めて、果敢にチャレンジし試行錯誤する姿は本当に尊敬するし鼓舞される。

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白14まで

白8は自然な一着。対する黒9が厳密には疑問手で、白10の場所に先着するべきだった。そこを鋭く突く芝野初段の感性は凄い。続く白12はすぐには何もない手なのだが、攻防が収まったときに威力を発揮する類のものだ。芝野初段はこういう手が多い気がする。一時的に形勢を損ねることもあるが、決め手を与えない巧みな打ち回しでついていき、チャンスがきたところで一気に食いつく。私は上達が速いことそれ自体に「プロ性」をあまり感じない。その分こういうところ、勝負所を的確に掴んでガッといくところに猛烈にプロのそれを感じる。彼らは棋道のプロでもあるが、勝負のプロなのだと。白14は連珠プレイヤーとしては発想しにくいものかもしれない。これも先ほどと同じように後から効果を発揮する手だ。囲碁ではこういう手が重要になりやすいのだろうか。最近は将棋や囲碁、オセロなど他競技から連珠に入る人が増えてきた。それぞれが出身ゲームの個性を連珠の盤面で色濃く出していて、見ていて味わい深い。

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黒21にて白投了

白12、白14は一貫して「後から効果を発揮する手」を打ち続けている。それに機敏に反応したのが黒15。そういうのは許さない、私はここで勝ち切るという意志表示だ。ここまでの攻防で互いに手の意図をくみ取り合い、応えている。棋は対話なり。盤上で互いの意思をやりとりするのは対局における最大の喜びではないだろうか。美しい。藤田二段ははっきりとした意思表示のある手が多い印象だ。ここまで開局と相手に打たされた手以外で藤田二段が打っているのは黒7、9、11、13だがどれも「連を複数作る」「相手の連剣先を止める」「手番なので攻める」と具体的な意味合いがある。これは芝野初段とは対照的だ。藤田二段はさらに直線や細部の読みが強い。黒15は確かに打ちたくなる場所だが、白16という「連を止める+連剣先を作る」複数の役割を持った自然な対処が見えるだけに「うっ」となってしまう人も多いのではないだろうか。もうひとつ、盤面を眺めると上辺の攻めは盤端に近い。盤端が近いと五を作る余地が少ない分勝ちにくくなるので、黒15は決断の一手と言える。芝野初段としては白16でまだまだと思っていたかもしれない。続く黒17、18に黒19がいい手だった。これは左辺EFで四三と、右辺でAB20CDで四追い勝ちという二つの狙いがある。白20でやむなく右辺の四追いを止めたが黒21以下左辺の四三勝ちがあり、白の投了となった。藤田二段の踏み込みと読みの精度が光る収束で、両者の持ち味がよく出た好局だ。

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