CRISPR-Cas9: (8)CRISPR-Cas9のメリットデメリット

仕組みを理解したところで、じゃあCRISPR-Cas9がなぜすごいのか?この技術は完全無欠なのか?を書いていきたい。

(メリット)誰でも簡単に安価でできる技術

これがメリットです。CRISPR-Cas9はターゲットの遺伝子に結合する任意のRNAとCas9タンパク質(酵素)を用意し、細胞に注入するだけで遺伝子編集ができてしまう。

ZFNなどの過去の遺伝子編集技術は人工的にタンパク質を作り出すもので、専門的な技術と時間とお金がかかるようです。
対して、CRISPR-Cas9は自然に存在するタンパク質を使用しており、それに比べて簡単に作れるRNAを人工的に作るというアプローチを取っています。

確かに、タンパク質は大量のアミノ酸が組み合わさってできているので、RNAを作る方が簡単なのは理解できます。仮に30塩基のRNAを作っても、アミノ酸は10個しか作れないので、人工的にタンパク質を作るのには途方もない作業が必要そうですね。

ちなみに、古典的な遺伝子組み換えの方法はもっと力技です。
たくさんの細胞に放射線をあててDNAにランダムに傷をつけることで、強制的に遺伝子変異を起こします。
この遺伝子変異の中から自分たちの欲しい変異が起きている細胞を取り出して培養する方法です。(この方法だとDNAの対象箇所以外にも傷がついて別の変異も起きている可能性ありです。)
通常通り育てながら変異が起きたものを取り出すという、もっともっと根気強い方法もあります。

この古典的な方法は想定された変異がうまく起きているとしても、その細胞の他のDNAにも傷がついており、思わぬ変異がもれなくついてきてしまう可能性があります。

(デメリット)オフターゲットが怖い

最大のデメリットが、オフターゲットです。
オフターゲットとは、想定していたのと違う場所のDNA配列を編集してしまうということです。
本来必要な遺伝子の情報が消されたり、書き換えられてしまうのは恐ろしいですね。

CRISPR-Cas9はこのオフターゲットが起こる割合が他の遺伝子編集技術より高いようで、この改善がCRISPR-Cas9を実用化する鍵になります。

CRISPR-Cas9のアップデート

オフターゲットのデメリットがなくなれば、CRISPR-Cas9は無敵の技術だと思います。なので、2012年にCRISPR-Cas9の論文が発表されてから7年の間にCRISPR-Cas9のアップデートverが研究され始めています。
例えば、Cas9で遺伝子情報の大元のDNAを編集していたが、Cas13でコピー先のRNAを編集するといった研究です。

今後、最適解が見つかり、遺伝子編集技術を用いて病気の治療ができることを心待ちにしています。

以上、CRISPR-Cas9の理解について書いて行きました。

これまで仕組みについて書いていきましたが、遺伝子編集を考える際には倫理も考える必要があります。
人間の遺伝子を編集していいのか、優れた遺伝子を持つ人間が生まれると差別につながらないか、遺伝子編集した食材は安心なのか?今後受け入れられていくのか、など私たちが考えていかなければいけないことは山ほどあります。

個人的には、こういったトピックを考えるにあたり中心となっている技術や状況を理解することは非常に重要だと考えています。遺伝子編集の仕組みや背景を知らずしてその是非を話し合うことは誤った結論を導いてしまう恐れがあります。

その意味でも今回DNAって何という状態から遺伝子編集の仕組みが大枠として理解できたのはよかったです。


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