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「情動はこうしてつくられる」の感想(と2020年以降のSNS)

熱心に脳科学を勉強しているわけではないけど、最近スマホのSNSにハックされてる気分になることが多く、その違和感の答え合わせになる本にめぐりあった。

情動とは

私たちの感情をあらわす喜怒哀楽で、無意識で体感する呼吸、心拍、発汗も含まれる。

「情動はこうしてつくられる」の著者リサ・フェルドマン・バレットは、心理学と神経科学から脳を研究しており、「構造主義的情動理論」として下記の三つの要素から考察している。

社会構成主義=文化と概念の重要性
心理構成主義=情動が中核システム
神経主義=経験により脳が配線される

人間の感情について、脳科学では本質主義の普遍性として「人間は理性的な生き物だから、コントロールから外れて情動が発露する」という前提を否定する。

文脈を欠いても本を読むかのごとく、これまで途方もない時間や労力や資金が注ぎ込まれていても、前提自体を問い直すべきとして、今受け入れられている普遍性が事実ではないと主張する。

これまで本質主義は、太古からの進化のメカニズムのなかで残っている動物の姿に、人間の脳は、理性的な知性という包装紙をしているわけではなく、常に環境で循環する情報を自分自身が構築しているというのがバレットの持論。

本自体は専門的な実験の話が多く分厚いものの、読みやすい語り口で、自分の生活と関連するものも多く出てくる。
・情動と病気の関係
・メディアと情動
・西洋とアフリカの部族の情動の捉え方の違い
・脳はどうやって情動をつくるのか
・自己の情動を手なづけるには
など

生活の中心であるスマホとSNS

スマホのデバイスは、拡張された脳ともいえ、手のひらから直に情報をたぐり、瞬時に情報が表示される空間。

これで、ソーシャルゲームなどは、顕著に射幸心をコントロールして、課金させる仕組みをつくったり、どのサービス提供者も使いやすいUIデザインやUXにしのぎを削り新しい経済圏を成長させてきた。

どこまで因果関係があるかわからないが、最近、ADHDを自称する人が増えている。
常にスマホの通知に反応してしまうことと、耳で聞くメディア体験が豊富になり、起きている時間は、ほぼずっと情報摂取する生活になってきた。

かと言って、全てのサービスを断つと社会と断絶されてしまう。


中国、韓国では寝食を忘れて熱中し急死する若者が増えてきているため、ゲームの年齢や時間規制を行っている。


過去にあった情動ハック

2016年のアメリカ大統領選挙は、情動のハックだった。
デジタルマーケティングの手法でFacebookにて、投票へ行くことへ積極的ではない層に向けて民主党のネガティブキャンペーン広告を出した。
詳しくはNetflixの「グレートハック」を。

「情動はこうしてつくられる」にもある通り、2003年からの大統領選挙でバーモント州知事ハワード・ディーンのネガティブキャンペーンがあり、演説中の映像を文脈を切り離して、ディーンが一見怒っているように見える顔だけが写ったビデオが流布され、競争から脱落したことがあった。

政治の世界では昔から行われていることで、ドキュメント「戦争広告代理店」で描かれているように、PR会社がボスニア・ヘルツェゴビナへのメディアの「無関心」を打破するためにフェイクニュースをプロバガンダとして活用していた。

SNSと情動

noteでは、より書き続けやすいサービスにするためたくさんいいねをもらえるとこんな表示が出る。
書く側としては、これからも書く意欲が湧くうれしい体験設計になっている。

一方で、多くのメディアはネットの広大な海でページビューを競うため、クリックされるためのタイトルとOGP画像を工夫しないといけなくなってきた。タイトルとOGP画像とは以下の通り。

視覚情報は、良くも悪くも多くのメッセージを脳に送る。

「情動はこうしてつくられる」のなかの実験でも出てくるが、表情のみから喜怒哀楽を判断させるテストで、人はスポーツ選手が得点を取った際の興奮した表情のみ切り取ると、文脈は抜け落ち、表情から攻撃性を感じ「怒」と認識してしまう。
文脈を欠いた、インパクト重視の画像にどうしても脳は反応する。

スマホのSNSの情報の見せ方はフロー型で、指先をすべらせて見えなくなっていくタイムラインのなかで視覚に入り、指を止め、タップさせるためにメディアの発信者はA/Bテストなどさまざまなことをしている。

つい最近あった話では、オーストラリアの大規模火災で、ショックを受けるような画像によるフェイクニュースが伝播した。
おそらく心優しいリアーナは、この悲しい画像をみて多数のフォロワーに共有したいと思ったらしいが、実際はNASAの衛星写真の加工画像だったことがわかった。

また、ディープフェイクといわれる機械学習などの技術で動画内の人物の顔をすげ替え、実際発言していない言葉を当てはめられる技術は、Facebookで規制されることになった。


情動とうまくつきあうには

世界で足並みそろえるべき気候変動対策と、米・中東の軍事のニュース、日本を舞台としたオリンピック・パラリンピック、日本の社会情勢にまつわるさまざまな情報が流れてくる。

気をつけるべき点は、社会が大きく動いている今、顔の間近でみるスマホに表示されるインパクトある言葉や、写真、動画を少し心の中で距離を置いてみた方が良い。

先程あげた例にとどまらず、さまざまな欲しくない情報があなたを取り巻くかもしれない。

前提条件として、有名な人や知人や友人のシェアだとしても真実だと思わないでおくのが、情動に振り回されないこつだと思う。

さらに「自己の情動の手なずけかた」について、バレットは自己啓発書を否定している。
情動とは心に焦点を絞って考えるものではなく、身体と心は固く結びつき、行動は内受容(心拍、胃腸など身体内部に対する感覚)によって駆り立てられ、文化は脳でイメージを配線するため、「考え方を変えれば感じ方も変わってくる」という心を中心とした考えではなく、身体予算を良好な状態に保つことを推奨している。

感情(快、不快、興奮、落ち着き)の源は身体なので、心拍、呼吸、血圧、体温、ホルモン、代謝など脳に影響する身体予算の管理が破綻していれば、いくらまじめに自己啓発書や、立派な思想書を読んで従っても情動のコントロールはできないという。

自己の身体予算の管理をした上で、外部環境としてある社会的現実(職業、住所、政府、法律、地位など)の中で、他者またはメディアからの「驚き」や「恐れ」や「怒り」を、即座に受け入れず、どう扱うか考えるには「情動の正体」を知ることが助けになる。


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