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強いメッセージとイキりについて

アクティビズムは特別な行動ではなく、SNSでハッシュタグを使って態度表明したり、購買することで実行できる消費者アクティビズムなど身近なものになった。
社会に一石を投じるメッセージが溢れていて、強い言葉でなければ目立たなくなってきたのかもしれない。

ファッションの祭典メットガラ2021

今年のメットガラはテーマが「In America: A Lexicon of Fashion」。メッセージ性が強いファッションが目立ったがSNSでの批判も多かった。

コロナ禍でBlack Lives Matter運動が広がり、格差に対しての言及が増えている中で、ラグジュアリーな会場ではマスクを付けずに撮影に応じるセレブリティたちが政治的メッセージをファッションに取り込んで披露し、その会場の外ではBLMの抗議運動が行われ逮捕者も出ていた。


AOC
特に物議を醸したのが、「AOC」の名で知られるアレグザンドリア・オカシオ・コルテス議員の「TAX THE RICH(富裕層に課税せよ)」とメッセージの書かれたドレス。
デザインしたのは活動家でファッションデザイナーのオーロラ・ジェームズ。招待制で35,000ドル(約380万円)のチケットを支払って、さらに20~30万ドルのテーブル予約が必要なイベントに参加しておきながら、富裕層批判するメッセージが上滑りしていると批判されMEME化が加速。
マーク・フィッシャーの『資本主義リアリズム』のwikiのスクリーンショットと重ねたものが特にバズった。(反資本主義はもはや資本主義へのアンチテーゼとしては機能せず、むしろ資本主義を強化する云々)

数々のメディアでも批判の声も含めて取り上げていた。


カーラ・デルヴィーニュ
貴族の家系のモデルのカーラ・デルヴィーニは「Peg the Patriarchy(家父長制を磔にしろ)」のメッセージが書かれたファッションはディオールのもの。

このメッセージ入りのアパレルは、すでに有色人種でプラスサイズのクィアな女性が2018年に商標登録していたため、マイノリティの問題提起を特権を持つ立場が剽窃し商品化する「ホワイトフェミニズム」ではないかと批判されている。


キャロライン・マロニー
キャロライン・マロニー下院議員(民主党・ニューヨーク州)は「Equal Rights for Women(女性に平等の権利を)」と書かれたドレスをまとい、合衆国憲法に男女平等憲法修正条項を追加することに賛同する意味である「ERA YES」と書かれたバッグを持っている。
ベイルート生まれのデザイナーが手がけるAntonios Coutureのドレス。

キャロライン・マロニー下院議員は2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件(911)の後、アメリカによるアフガニスタン侵攻時にブルカを着てブッシュ政権を称賛していた動画が掘り起こされた。以前も政治的なコスプレをしていたという批判的なニュアンスで発信されている。


スローガンTシャツ

政治的なメッセージをファッションに込める方法は歴史がある。
どのような人種/民族、階級、ジェンダーでも手に入れやすいTシャツにメッセージが描かれることは政治的な行動の民主化につながり意義があった。

1984年にデザイナーのキャサリン・ハムネットが、イギリスの首相官邸イベントで原発反対を意味する「58%DO N'T WANT PERSHING」と書かれたTシャツをコートの下に着込んでサッチャー首相との対面時にあらわにした写真は多くの注目を集めた

フェミニストの活動家たちは70年代以降、レズビアンの権利を訴えたりフェミニズムへのバックラッシュに対抗するスローガンを書いたTシャツを身につけて闘争してきた。
「LAVENDER MENACE」Tシャツは1969年、全米女性同盟 (NOW)のリーダーが、レズビアンの主張はフェミニズム運動の脅威であると揶揄する意味で使った「LAVENDER MENACE(ラベンダーの脅威)」を逆手にとってレズビアンのフェミニストがグループを結成しスローガンTシャツを着用した。
他にも「LAVENDER MENACE」から派生したトランスジェンダーの権利を守るためのグループの「The Transexual Menace」Tシャツや、アメリカを分断している中絶をめぐるタブーを打ち破るために作られた「I had an abortion(私は中絶しました)」Tシャツなどさまざまなものがある。


パフォーマンスすることの矛盾

アクティビストも自身の宣伝を行うセルフマーケティング(自分という『商品』の価値をアピールする)技術が必要なスキルになってきた。
人々の関心・注目を惹くにはアテンション・エコノミーに飛び込むことになり、高潔さを自ら主張する自己演出に手を出してしまうこともある。

グレタ・トゥーンベリは、マドリードでの第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)に参加し、スウェーデンへの帰路で列車の通路に座り込む写真を投稿したが、実際には一等車の席が用意されていたことをドイツ鉄道が指摘している


CBSの活動家が出てくるリアリティ番組「The Activist」が放送前なのに叩かれてる。
健康、教育、環境のために活動している人々が、ローマでのサミットに向けて資金あつめする内容で、アクティビズムの商品化と批判されてる。放送前で実際の番組を観ていないにも関わらず警戒されている。


フェミニズムのスローガンTシャツなどのフェミニストファッションは、過去の活動の積み重ねもあってフェミニズムはメインストリームに向かっていき、2010年代半ばからディオールのようなブランドが710ドルで販売し、高級ブランドが扱う「憧れ」の対象となった。
Metooムーブメントもあって大衆化し、ファストファッションで大量生産されて世界に行き渡ったが同時に脱政治化もしていった。

ファストファッション業界の労働力は低賃金で働く女性が多くを占め、人権問題として批判されている
ブランド側がフェミニズム運動支援していると主張できるのは、サプライチェーン全体で労働者の女性たちに適切な待遇を与えていると透明性をもって証明できる場合のみ。
消費する側は安易に買わずに調べる努力が必要。

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日本でも起きているウォッシュ問題

メットガラの件は、日本でも批判対象となる実態の伴わない企業広告のウォッシュ問題と似ているかもしれない。
「Woke Capitalism」と言われる社会正義を掲げる企業活動は、有言実行でなければ単にダサいだけでなく社会にとって有害な存在になる。表明するメッセージが実態が伴っているか、単なるイキりかどうかを今はメディアではなく消費する側もしっかりと見ている。

アクティビストでも企業でも主張を裏付ける証拠がなければ、支持することで裏切られ、SNSなどで支持を表明した自分自身の価値観が疑われてしまう。伝える側は透明性を、受け取る側は調べて見極める努力が必要。
溢れかえる社会正義に目覚めたメッセージには「型」ができてしまい、メッセージのないメッセージが溢れてしまっている。


捕捉
『反逆の神話』はカウンターカルチャーの精神が商売に取り込まれていく矛盾や欺瞞を批判しており、今直面している課題を考えるのにおすすめ。


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