「ソース」の重要性

大学の論文演習等で口酸っぱく言われ続けてきたことがある.

「レポート,論文の参考文献は体裁も整えてしっかりと書け.」

参考文献というのはどのような学会誌投稿論文を読んでも,フォーマットは多少違えど,ほぼ共通の形で論文の最尾部に掲載されている.教員が配布するレジュメにも大抵は最尾部に参考文献が掲載されている.掲載要項が決まっている学会誌はもちろん,そのような縛りのない授業用の簡単な文章ですら彼らは参考文献,レファレンスを書いている.これはアカデミックな分野に携わる人々の共通認識であり,マナーとなっている.

また,その参考文献の選択の中でもルールが存在している.

「題材となる分野の1次資料は用いなければならない.」

これはルールというより,1次資料が無ければそもそも論文を書くのが非常に難しい.対象となる事物を直接観察しなければその事物を語ることは不可能に違いない.そのため,例えば古代ローマ史を研究したい人はラテン語を学ばなければならないし,地理学を専攻する者は地形図を読図できなければならない.

話は変わるが,近年ネット社会の広がりにより,様々な情報が飛び込んでくる.公的機関が発表したもの、ひと目見ただけでフェイクニュースと分かるようなもの、体裁はいいが中身は出鱈目なものなどなど情報が溢れかえっている.そういった情報をある程度はフィルタリングした上でまとめて仕入れるにはマスメディアが非常に有用である.

・特定の分野の情報をいち早く手に入れられるが,有象無象のネット情報を掻い摘んだだけのキュレーションメディア,
・全般的な分野に対応し,速報性は高いが信頼性がやや劣る大手ネットニュース(Yahoo!ニュースなど),
・速報性は低いが,各種情報のうち比較的信頼性が高いものを入手できる旧来メディア(テレビ・新聞など)

このような形で多種多様なメディアサービスを自分の用途に合わせながら使い分けていくことができるのが,今までのネット社会であった.

しかし,2020年初頭から急速に全世界へ広がった某感染症関連の情報で今まで抱いていた各種メディアのイメージが大きく変化した.

SNS,ネット掲示板などには普段以上にデマ情報が蔓延し,普段からSNS,ネット掲示板の情報などをただ掻い摘んで書いているだけのキュレーションメディアはデマを媒介し、伝播させるものとなってしまった.
大手ネットニュースも,信頼性検証が不完全となり,デマや偏向した記事を掲載してしまうケースが増加したように思える.

旧来メディアも上記2つとは信頼性検証の面で優勢であるにもかかわらず,御多分に漏れず,そういったデマに踊らされることとなってしまった.旧来メディアは自らが事物の観察者となり,その出来事を取材報道する体制があるからこそ主たるマスメディアとしての地位を築いてきたにもかかわらずだ.
信頼性検証という情報配信だけではないメディアの根幹たる行為を忘れてしまったように感じる出来事(故意にも感じられる映像の誤配信など)も最近よく聞く上,YouTubeの動画を面白動画集などと題して放送したり,SNSからの情報ですなどと恥ずかしげもなく報道するといった事物の観察者として自ら取材する能力すら失われてしまいつつあるように感じることもある.

しかも,自身で取材していないにもかかわらず,どこでどのような形でその情報を手に入れたかを記載していないケースが多い.
自ら取材して手に入れた情報なら明示しないのもまだわかるが,2次的に手に入れた情報の出処を明示しないのは受け取る側,報道する側双方にとってデメリットとなるはずだ.いわゆる「偏向報道」のために改竄されていたと思われても,受け取る側がその参考資料を検索できないし,報道する側にとってもその情報の確からしさを第三者的に証明することができなくなってしまう.報道の捉え方は個人の政治的・宗教的理念などで変化するので言及しないが,それを検証する術はどのような理念を持とうと必要となる.

そこで,最初の話に戻るが,2つのルール「参考文献はきちんと掲載する」,「必ず1次資料も用いる」がメディアにも適応されるべきと自分は考える.学問分野ではないが,この2つは情報を取り扱う分野ならば適応されて然るべきと思う.学会誌ほどきちんとした体裁は取らなくてもよいが,誰が見てもわかりやすい形で,(自ら取材したのでないなら)どのようなところからその情報を誰がが仕入れたのか、そして、ネット情報を使うのであればその信頼性検証を普段以上に行うといったことを徹底すべきではないか.

ネット社会になってきたとはいえ,日本の人口の1/4以上を占める高齢者を中心とする「インターネット弱者」や,ネットではあまり報道を見ないという人も未だ多い.自分も飽和した情報を手っ取り早く手に入れられる手段として新聞は優れていると考えていて,購読はしていないがかなりの頻度で読んでいる.そういった人々にとって旧来メディアは重要な情報源であり続けている.
また,インターネットで手に入れられる情報はどうしても自分の興味・思想に左右され恣意的なものとなってしまう.Twitter,5chなどで見かける「ネットde真実くん」はいい被害例だ.(参考:ニコニコ大百科 https://dic.nicovideo.jp/t/a/%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88de%E7%9C%9F%E5%AE%9F )そのような恣意性を排除し,数多くの分野の情報を手に入れるには旧来メディアの方式のほうが優れているのは間違いない.

だからこそ,YouTubeの動画の垂れ流しではなく,独自のアドバンテージを活かして、自ら情報を手に入れ信頼性の高い報道をしていただきたい.

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