見出し画像

はじめて一人でくらしたこの部屋

2020/03/17 18:00 [GMT]

新型コロナウイルスの影響で、留学先から一時帰国することになり、たったいま荷造りを終えた。戻れない可能性が高いことを考慮し、ほとんどの荷物を引き揚げることに。

モノのなくなったすっきりした部屋を見て、到着したばかりのことを思い出した。昨年の9月、見知らぬ土地の知らない部屋で、レトルトのご飯を食べていたあのとき。ものすごい寂しさと、ほんの少しの高揚感を感じていたことを覚えている。朝目覚めたときには、実家ではないところにいることに驚いた。部屋からは知らない香りがして、まったく違う場所に来たことを思い知らされていた。

今では、目覚めたとき、自分が正しい場所にいることを感じる。部屋や布団から漂う香りは、すっかり慣れ親しんだ落ち着くものになっていた。朝のルーティンもできた。まずは窓を開けて、換気をする。ついでに、窓際の植物に水をやる。顔を洗い、コップの水を飲み、朝ごはんの支度をする。別に毎日ていねいな暮らしができていたわけでもなんでもないのだが、基本的な生活を自分自身でコントロールしているという事実が、自信や安心を与えてくれた。

わたしがこの部屋に来たとき、誰の痕跡も残っていなかったように、この部屋も、次の夏には色を失って、特徴のない空き部屋に戻ってしまうのだろう。自分の痕跡が残ったこの部屋を、まだ離れたくない。せっかく居心地がよくなったのに。窓から太陽が差し込み、木漏れ日が壁に映る、あの午後がすでになつかしい。自分の香りがする布団をだきしめて、ぬくぬくすごした冬の日がなつかしい。この部屋で春も迎えたかった。もちろん、何度も日本が恋しくなったし、眠れない夜もたくさんあった。でも、はじめての部屋との別れ、こんなにさみしいものとは思わなかった。自分で離れると決めたわけではないから、なおさらだ。

2020/03/22 17:30 [GMT +09:00]

日本についたら、空気のにおいが違った。空も高い。雲が空の高いところにうっすらと広がっている。ロンドンでよく見た、触れそうなくらい近くにある、はっきりと形を持った雲はまだ見えない。実家もまた、違うかおりだった。というか、実家のあちこちから今まで感じたことのないいろんなにおいがして驚いた。季節をたった2つ跨いだだけでも、わたしの感覚ははっきりと変わってしまったみたいだった。家族との関係も、変わらないようで、やはり違う気がする。良い方向に向いているといいのだけど。

また帰ってこよう。今年の夏は帰ってこられるかわからないけど、来年、もしくは再来年には。それまで頑張って勉強して、生活も楽しんで、アップデートした姿で戻ってきます。



最後まで読んでいただきありがとうございます!励みになります...