始発
時々、始発に乗る。それが最近、また、多くなってきている。
彼の流行病がはびこる前の、一昔前は、毎日始発出勤だった。だが、会社の上司から、それを否定され始発出勤を諦めざるを得なかった。
そして時は流れ。再び、時々、始発出勤をしている。不思議なものだ。
ひょっとしたらまた、朝早いのを指摘され、諦めるのかも知れないが。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
なんだか不条理な気がするな。
世の中、そんなことばかりだ。とにかく、自分の思うようにばかりはできない。
始発電車に乗ると、ときどき、思ってもみないシーンに出くわす。
ある日のこと。目の前に、骨伝導イアホンをしているおじさんがいた。そして、そのとなりにも、おじさんが座っていて。
始発となると、だいたいの人は寝ている。少しでも短い睡眠を補うためだろう。
イアホンのおじさんの隣のおじさんが、イアホンのおじさんに、穏やかに話しかけた。
「聞こえているんですけど。外に」
骨伝導イアホンをしているおじさんは、その隣のおじさんに、こう、言い放った。
「だって、電車がうるさくて、音量上げないと聞こえないから」
イアホンのおじさんは、自分のことだけを考え、自分の聞きたいものは聞くが、隣のおじさんの穏やかな訴えのことは全く聞く耳を持たないようだった。
何度かそのやりとりを蹴り返したが、埒が開かない。
隣のおじさんは、凄く困った顔をしつつ、諦めて、眉間に皺を寄せつつ、目を瞑った。
心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、呟いた。
我を通すって、これほど迷惑でみっともないんだね。外から見ると。
なんのはなしですか。
そんなこんなを家内に語ろうとしてソファーをみると、家内が脚を指さして笑って言った。
コジくんも、老害って思われないようにしてね。そのケがあるから。
なんのはなしですか。
マッサージをすると、家内は上機嫌である。
家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。
だから。
これで、いいのだ。