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詰め替え

お風呂に入るときに。不思議に思うことがある。シャンプーやリンス、ボディーソープも、やがては減ってきて、ボトルごと交換するか、中身を追加せねばならない。我が家の場合、そのタイミングが、絶妙に、私がお風呂に入っている時なのである。

お風呂は、だいたい、家族の中で、私が、最後に入る。今日は、家内に促されて、珍しく最初に入った。そして、ボディーソープと、シャンプーが、無かった。

ポンプを押して、カスッ、カスッ。と、なる。

心の中の、リトルkojuroが、呟いた。

いつも、絶妙だな。


しかし、思い起こすと、私も、悪いのである。

そろそろ、無くなることは、数日前から分かっていた。私が最後に入る意味は、シャンプーなどが無くなりそうならば、そっと、追加したり、交換したりすることが、自由にできるから、というのも、あるのだ。実は。

追加、交換を、怠っていた。

外に出て交換しようと思ったが、寒いので、いつもは、私が呼び出されている、呼び鈴で、家内を呼ぶことにした。

押した。

すぐ、来るだろう。

来ない。

あれ?

もう一度、押した。

来ない。

あれ?

3,4度押していると、扉のところで、怒り気味の家内の声がした。

はい。なーに?

シャンプーとボティソー.....。


まったく言い終わらないうちに、ドアがガチャリと開いて、

これ、補充しておくように。

新たなミッションが、女王陛下(注1)から、007ならぬ516(注2)に、与えられた。

脱衣場も寒いが、お風呂も、かなり寒い。

私が最後なので、だいたい、脱衣場も、お風呂も、前に入った人が暖めていて、温度が高いはずなのだが、私がいたずらに、きりがついてから入るものだから、既に冷え切っている。

家内は、暖房を入れるくらいならば、早く入りなさいと正論を言うのだが、真冬は、ヒートショックで危険もある。

むろん、これは、私が悪い。


寒い、湯船の外で、ちょっとかじかむ手で少し震えながら、シャンプーと、ボティソープを詰め替え用のパックから補充をする。

なんとか命あるあいだに、ミッションは、完了した。


確かに、私には、事前に補充するという役目がある。だが、ひとしく家族全員で、使っているのだ。気がついたら、気がついた者が、補充をしてくれないだろうか。そう思っていると、どこかから、声がした。

コジくん、いつも忘れるのよね。大事なお役目を。

それで、後になって呼び出したりするのよね。

どうも、家内と、次女が話しているのだ。

えっ?もう、きてるの?ボケが。

あんまり大きな声で言わないのよ。そういうこと。もしもそうだったら、可哀想じゃない。

リビングで話しているから、小さな声だ。だが、はっきりと、聞こえた。こっちが、パックを外に戻すために、お風呂のドアを開けていたから。


心の中の、リトルkojuroが、諦め声で呟いた。

コジ、状況が悪いぞ。やり切らないと、ボケだという哀れみで、家族が動くことになる。

つまらないプライドだけは、コジにも、あるよな。

私の心は決まった。516として、女王陛下のミッションをやり切って、墓に入ろう。それが、最低限の、私の役目なのだ。


私は、お風呂を上がった瞬間に、補充用のパックの数と量を、確かめた。次のハッピーデイで、シャンプーは、購入する必要がありそうだ。


着替えてリビングに入ると、家内と次女が、何事もなかったように、会話をしている。

だが、家内が言った。

いろいろあるけれど、コジくん、あんまり、無理しないでね。


私は、こういう、哀れみを受けるのが、いちばん堪えるのである。


今日は、布団の中で、人知れず、布団を噛みながら、息を殺して、泣くことになるだろう。

ぐすん。



(注1)他ならぬ家内が、我が家の女王陛下である。

(注2)ジェームズ・ボンドの、スパイとしてのコードネームは、007である。対して、私、kojuroは、今後、516という、コードネーム、ということにする。スパイ大作戦と、007が、どうも、混在しているような気もするが.....。


■追記■

ながた師範。またしても、無断で、記事の参照をしてしまいました。こんな、私を、どうぞお許しください。恐れ入ります。

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