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小説『たとえば君が売れたら』

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1968年に起きた、 東京、府中の三億円事件をご存知だろうか。 恐らく、事件のことは誰でも知っている。 だが、真犯人が実際は誰だったのかは、 本人しか知らないことだろう。 作品と…
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2021年4月の記事一覧

『たとえ君が売れたら』 3、中弛みの6巻と商店街

彼のこと、わたしのこと、その後もLINEや電話でたくさん話したし、今思えばお互いにとても盛り上がっていて、わたしたちはかなり頻繁に会っていた。
彼はミュージシャン仲間の男性とシェアハウスのような感じで、大阪に来てから生活していると話してくれた。
わたしは当時まだ実家暮らしだったので、彼の住む家に何度も行かせてもらった。
猫がいて、「にゃーさん」という名が付けられていた。
とてもおっとりしていて人懐

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『たとえば君が売れたら』2、指輪の王子様その②

何曲ずつ歌ったところだっただろうか。
彼が急にマイクを置いて、こちらを向いて正座した。
「夏妃さん」
わたしは何となく分かっていた。
「好きです」
やっぱり、来た。どうしよう。わたしも好きだ…
もう止められない。はぁずるい。
「はい」
わたしまで敬語に戻る。
「付き合ってもらえませんか」
彼は少し赤らんで言った。
わたしはそこでふと冷静になり、「え!彼女は!?」と聞くと彼は「広島にいたけど別れてき

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