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椅子のこと 2 (Angelo Mangiarotti)

この椅子は, イタリア建築界の巨匠Angelo Mangiarotti (アンジェロ・マンジャロッティ)がデザインした”junior”と呼ばれる組み立て家具シリーズのひとつです. 子どもの誕生祝いとして恩師からいただいたもので, とても思い入れのある椅子です.
生産中止になっていたのですが, 2019年に「構築のリアリティ」展がイタリア文化会館に巡回した折に, 期間限定で復刻されました.
一見すると, 相欠きされた積層合板を組み合わせるだけのシンプルなつくりに見えますが, 実際に組み立ててみると, 非常に高度な構造センスに裏打ちされたものだと分かります.
また, 金物を一切使わずに合板を隙間なくはめ込みながら全体を狂いがないよう組み上げていくことができる部材を作るためには, 高い技術を持ったファブでないと生産することができないものだと思うので, おいそれと簡単に復刻というわけにもいかないのでしょう.

恩師は若い頃, ミラノのマンジャロッティ事務所に勤務されていたことがあり, よくその当時のことを, それはもう楽しかった, と話してくれました. 恩師はじめ, マンジャロッティ事務所の日本人OBの方々の結束は何十年経った今でもすごく強いので, マンジャロッティはとても愛された方だったんだなあと想像します.
2004年頃に一度だけ来日したマンジャロッティに会うことができました. (会ったというか, 展覧会の講演の後に, 少しだけ質問する機会を得たというだけです,,)
その時に, これからのデザインはアノニマス(匿名的)なものになっていくだろうと言っていたことがとても印象に残っています. いわゆる作家個人ではなく, 連携や協業の中でデザインするということが大事になると. 10数年経った今になってみれば, Ensamble studioやRhizomatiksなど分野横断的な協業をする集団が増えてきつつあるように思います.
自身がマエストロと呼ばれるほどの強烈な個を持った作家でありながら, それとは違う未来が見えていたのだなあと, その頃は意味するところがよくわからなかったのですが..時代をみる眼というものの重要さを思い知りました.
とはいえ, マンジャロッティも石工職人やガラス職人とともに, “Eros”や”Giogali”をデザインしていたなあと. あれは職人との協業を通して素材自体に肉迫しないとできないものだから, よくよく考えてみれば, 誰よりもそうしたことを実践されてきた方だとも思います.

1950年代の若きマンジャロッティは, その頃すでに巨匠となっていたミースファンデルローエとアメリカで会うことがあったようです.
ミースの薫陶を受けたマンジャロッティがイタリアに帰国後 設計したバランザーテの教会は, 本当に素晴らしい建築です.
他にも名作を数多く残した方ですが, ミース→マンジャロッティのラインは建築史的な出来事だと思うし, 個人的にはバランザーテの教会だけをもってしてもマエストロと呼ばれるに相応しい方だなと思います.

そんなマンジャロッティが1960年代にデザインした”junior”シリーズですが, 現在は生産されていません.
誠に残念ですが, 海外のwebサイトでは時々ヴィンテージ品を見かけます.

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