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ランドマーク(101)

 詳細はグラスと合成音声によって説明された。そこに母の声が介入することはなかったし、合成音声のどこにもその面影はなかった。まるで、委員会が、わたしと母の間に流れる血縁を修正液で塗りつぶそうとしているみたいだ。
 これは意外にも穿った見方なのではないか。わたしの感覚は研ぎ澄まされている。
 戦闘機は旧式のもの。というか戦闘機ですらない。わたしが乗るのはT-38、ご丁寧なことに、宇宙飛行士達が操縦訓練をしていたとされる音速ジェットだ。無論わたしに操縦桿を握らせる気はないらしい。人員不足のあおりは機械系統の自動化を加速させた。万が一戦争にでも発展したとして、いかに貴重な資源である人命を消費せずに済むか。それが従来の戦闘機にオートパイロットを配備した理由の一つでもある。すべてはもう何年も前の話だが、わたしを空に連れていってくれるのはその技術の結晶といっていい。
 天上で繰り広げられるサーカス。唯一の観客は後部座席のわたし。マルチタスクなんか気にする必要はない。計器も操舵も天候も、わたしにはまったく関係がない。重力と気圧変化をこの身に受けて、ただ笑っていさえすればよいのだ。だから、笑った。わたしにできる準備はそれくらいしかなかった。

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