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ランドマーク(25)

「海良」

 放課後、いつものように屋上へ向かおうとすると、教室に小野里先生がやってきた。

「授業サボるなよ」

 自分の担当教科じゃないのに、なんでさっきはわたしを捕まえにきたんだ。

「すいません」
「ぼくがいやなわけじゃなくてさ、大丈夫なのか?」
「まあ」大丈夫じゃないことくらい分かっている。

「座って」小野里先生はそういうと、舘林の席に腰掛けた。二者面談でも始めるつもりか。

「何ですか」
「この前さ、〈塔〉に興味あるって言ってただろう」
「はい」
「今日、流れ星、見られるらしいぞ」
「流れ星ですか」
「そう、デブリのやつ」

 先生はそう言いながら、ずいっと顔をわたしに寄せてきた。少し気持ち悪い。整然と並べられた机と椅子のなかで、たった二脚だけが仲間はずれ。わたしは先生から離れるように教室を見渡して

「このまま晴れれば見られそうですね」

 夏至はとうに過ぎたが、いまだ日は長い。エアコンのない教室にはどんよりとした熱気が立ちこめている。この空気と一緒に、時間は停滞してしまった。幾層にも重なった息苦しさがわたしのあたまを締めつける。唐突に叫びたくなる。でもそんなこと、できないって分かってる。そのかわり、奥歯を強く噛み締めた。何かが壊れてしまえばいい。そう思いながら、わたしはウルトラマリンの空を見つめていた。

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