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ランドマーク(30)

 光を目指して泳いでいる。どこか深いところにいる。押しつぶされそうに感じる。こころのせいかと思ったけど、そうでもないらしい。骨がきしきしと痛む。なにか大きなものが、鉄格子を歪めている。そんな姿が浮かんだ。大きなものは、わたしの内側にある大切なものをうばっていく。光のもとへ向かっているのか、なにかから逃げているのか、よくわからなかった。それでも身体は動きをやめない。そうだ。わたしは、止まってはいけない。止まれば死んでしまう。息を、呼吸を。

ざぶん。

耳がうるさい。目があかるい。海のにおい。息ができる。情報量の多さに驚いた。あまりの変化に、処理が追いつかない。

「回収に入ります」

 そのうちに上の方から声がした。わたしは自分が水に浮かんでいることに気付く。がたん、と音がしたかと思うと、身体が宙に浮いた。背中にはワイヤーが取り付けられていて、それが巻き上げられているようだった。甲板へ降ろされると、まわりにはわらわらと人が集まっていた。研究員らしい。ああ、これは試験だった。夢見心地から覚めていく。とたんに猛烈な倦怠感に包まれた。身体に力が入らず、わたしは数人に抱えられてベッドへ運ばれた。なにか声をかけられているのは分かるが、聞きとることができない。わたしのからだは、わたしのものじゃないみたいだった。

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