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ランドマーク(54)

 はなたば。いちめんのはなたば。そのすべては手折られたもの。わたしのために咲いたわけじゃないのに。みんながみんな、わたしに顔を向けて、笑っている。笑っている。わたしはわたしが笑っていることに気付く。幸せだ。なんてわかりやすい幸せの比喩。くだらないけれど、わたしはちゃんと幸せだった。ずっと続けばいい。ほんとうか? ほんとうってなんだ? どこからがわたしの感情なのかわからないな。デンドロビウム、バラ、クロユリ、ライラック、ちぐはぐなブーケを目の前にして、わたしは死について思う。花火は火の花。この花に火を付けたら花火になる? 火花? それだと別のになっちゃう。じゃあどうしよう。ドライフラワーってどうやって作るんだろう。子孫も残せずミイラになって、幸せなのかな。ドライフルーツ食べたい。最後の晩餐、なににしようかな。そうだ、もうすぐ。

 意識的に目を開けた。眠る前のまどろみから逃げ出すように、ベッドの中でからだをもぞもぞと動かす。羽毛の軽やかな重みが心地いい。でも、身を任せていいのか。おだやかな夜をおだやかだと感じるこのこころさえ、わたしは信用できない。
 今日も今日とて試験。何度目だったか、わたしはとっくに数えるのをやめていた。

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