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ランドマーク(111)

 花火のことを考えた。昔はあったらしい。たくさん空に打ち上げて、それをみんなで眺めるやつ。なんじゃそりゃ。下から見るとシンメトリーの花みたいに、綺麗に見える。映像は何度か閲覧した。よっぽど精神的に余裕があったんだろうな。大規模にそんなイベントを開催できるなんて、この国の現状からはとても想像できない。でも確かにあったのだ。ほんの半世紀、わたしの両親が生まれる前までは。

 でもわたしは気楽に遊覧飛行。この高さから見たら、花火はどんな形だろう。どれだけの轟音がわたしの耳を通り過ぎていったって、わたしは夢想することをやめない。わたしは安らぐことをやめない。凪いでいる。いままでとは違う。抑えきれないざわめきを薄膜で覆い隠していた、いままでとは。わたしはわたしがどこにいようとも、ここではないどこかを夢見るであろうということを、知っている。こんなに特別な場所にいたって、わたしはそれをなんとも思わない。通り過ぎた景色が記憶から消えていくように、到達してしまえばそこはわたしにとって過去の存在となる。次はどこへ行くのだろう。飽き性なわたしは、わたしの内に構築された世界を冒険する。想像力だけで空が飛べたなら、いまのわたしは火星にだって行けるのに!

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