見出し画像

ランドマーク(106)

 さほど経たないうちに、首筋がしっとりと濡れているのを感じた。汗というにはさらさらしているから、水蒸気だろう。もやもや、じめじめ、どんよりと空に切れ間はなく、それがわたしの閉塞感を加速させる。箱の中の箱、わたしはマトリョーシカ。低気圧のせいか、服装のせいか、気分のせいか、息苦しさの原因を探るには、さまざまな要素が絡み合いすぎている。わたしは誰にも吐露できない。飲み込んだ言葉は胃に滞留したのち、血中に溶け込んで酸素循環を阻害する。わたしに残された選択肢は、この練習機に乗り込むこと、ただそれだけしか残っていないように思われた。

 ヘルメットを被ってから、わたしはそれに乗り込もうと、おもむろに周囲を歩いた。ハッチは開いているが、乗り込み方が分からない。ちょうど脚立でもあればよかったんだけどな。足を掛ける場所も特に見当たらない。わたしは少し苛立ってきた。どうして指示がないんだ。訓練を提案したのはそっちなんだから、もっと干渉してくれよ。いくら心で悪態を吐いたところで、それは表面化しない。わたしは翼によじ登った。この湿気のせいでつるつると滑る。ラバーソールのスニーカーと鉄板、相性は最悪だ。わたしはパジャマが濡れることを承知の上で両膝をついた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?