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ランドマーク(104)

 あいにくの曇り空に、わたしは沈んだ気持ちを隠しきれなかった。周りを気にすることもなく、大きくため息を吐く。長い廊下はありえないほどに白く、人の気配はない。

 意図的に消されているんだろうな、とすぐに気付いた。この壁だって、覆い隠すためのものに過ぎない。いくらわたしを落ち着かせようとしたって、そのたくらみは上手くいかないだろう。初めての世界に触れるたび、わたしの心はそわそわと浮き足立つ。わたしの感情を、どこまで彼らが制御できているのか、感知できているのか、わたしには知る由もないことだ。

 でも、もういいや。仕方のないことだ。作りものの心に思いを寄せようとすると、頭がどうにかなってしまいそうだ。だから、あまり考えない。わたしがこれから出会う感情が、これまでに生まれた感情が、誰かにプレゼントされたものだったとしても。もういい。知らない。妥協ではあったが、わたしなりの反抗でもある。どれだけの偽物が流れ込んでこようとも、わたしはそのすべてを余すところなく愛そう。そう決めた。わたしの中にあるのならば、それはもう、わたしだから。

 ぺたり、ぺたり、と、振り返ればわたしの足跡が残っている。身体から発せられた水分によるものだろう。わたしは足を止めたまま、わたしが残したそれらを見つめた。再び前を向くまで、それらは消えることなく、軌跡としてそこにあった。

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