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ランドマーク(24)

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 星めぐりの歌。県にゆかりのある作家について学ぶ教育事業の一環らしい。童謡に類する、星座を覚えるための歌だ。いまさら童謡なんて、稚拙じゃないか? 先生だってあくびしてるし。やっぱり。

「みんなで音読してみましょう」

「隣の席の人と二人組で、一行交代です」

 生徒たちは拒否する理由もないからか、座ったまま互いに向き合い始めた。嫌なんだよな、こういうの。まあでも、なんとなく、以外のやらない理由はわたしにだってない。

「どっから読めばいいって、言ったっけ」
「最初からだよ」
「海良っていっつもどこ行ってんの」
「屋上だよ」
「屋上って開いてんの」
「読もうよ」
「読むけど」

 クラス替えしてから、何回話したっけ。ARグラスを制服の胸ポケットに向けると、舘林という文字が浮き出た。一年の時から同じクラスで、同じ文化祭の実行委員だった。そのときは何度か事務的なやりとりをしたけど、それっきり。他にはなにも知らない。興味があるとかないとか、そういうのを判断できるほど、関わってはいなかった。

「屋上行きてー」
「いいじゃん」
「これ読んだら星見たくなっちゃった」

 対照的ではなく対称的。わたしが舘林のことを知らないのと同じくらい、舘林はわたしのことを知らない。希薄で何が悪いんだろう。

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