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freeeデザインリサーチチームの現在地

※2022年7月追記:文中のデザインリサーチチームは、現在エクスペリエンスデザインチームになっております。

こんにちは、freeeのデザインリサーチチームでDesign Leadをしております、awa(@n_awamura)です。
最近は、始業前に公園で鳥を眺めつつコーヒーを飲むのが日課です。

池のほとりにいるカモの写真
どうも、カモです

はじめに

早いもので、前回の記事を書いたのは半年前になりました。

freeeに入社して1年経ったいま、「freeeデザインリサーチチームがいまどんな感じか」も、ほどほど自分のことばで語れる程度に掴めてきました。
そこで、主に以下のような方がfreeeのデザインリサーチチームについてよりイメージがつくようにすることを目的に、ふたたび記事を書いてみようと思います。

なお、文中でたびたびエスノグラフィと言うことについて、少しだけ背景の共有を。
僕は過去にPARC(パロアルト研究所)東京オフィスで「エスノグラフィを起点としたイノベーション」のクライアントワークをしていた時期が長く、その経験がfreeeにおける活動においても陰に陽にベースとなっています。PARCはその名の通りシリコンバレーに本社があり、PCやイーサネットなどの技術の発明で知られていますが、世界ではじめてエスノグラフィをビジネス文脈に応用した研究所でも知られています。
なので、話として出てきがち、というわけです。
エスノグラフィについて、教科書的な定義はいろいろあるとして、自分なりには、「ヒトの営みにおいて起こることを現場で見て聞いて感じて、なにごとかを考えて、それらを言語化・視覚化を通して伝える活動(ないしは生き方)」のことだと思っています。

あらすじ

  • freeeのデザインリサーチチームは、立ち上げから数年間に渡る実践を積み重ねてきており、独自の経験知を豊富に蓄積してきている

  • 現在のチームは、さまざまなアイデンティティや経験を持つメンバーにより構成されており、デザインリサーチという活動を行なう上でのスキルバランスがよい。また、PMのように動きがちである

  • 「分散型」のリサーチ体制を取っている。テーマは多岐にわたり、仮説検証はもちろん仮説探索にも力を入れている

  • 強力なResearchOpsにより、実践が支えられている

  • もちろん、実践上の課題もいろいろあるが、ひとつひとつ取り組んでいる

  • というわけなのですが、次の職場にfreeeはいかがでしょうか

チームのこれまでの歴史

チームのこれまでの歴史について、立ち上げメンバーであるmagiさん(伊原さんです)とkouさん(増田さんです)が、過去に紹介しています。

詳しくは上記を見ていただければ、ですが、自分なりにも要約してみます。

  • magiさん・kouさんの入社当初、freeeはプロダクトアウトに寄っていた。なので、ユーザー理解をより体系的にできるのでは、と考えた

  • そのため、まず、ユーザビリティテストを広め、受容性評価とかユーザーインタビューとかも広めた

  • 2〜3年程度経ち、仮説検証的なユーザーリサーチの環境は一定整った。また、プロダクトマネジメントにおいてリサーチって必須だよね、という共通認識もfreeeにおいて共有された。リサーチチームのみならず、PMやプロダクトデザイナーなどもリサーチを行なう「分散型」(後述)のリサーチ体制となった

  • その中で、プロダクトをまたがるような課題など、個々のプロダクトに関する仮説を検証していくだけでは足りない課題も見えてきた

  • そのため、新たな方向として、昨年より本格的に仮説探索などに着手している

です。
プロダクトを育てる系スタートアップのユーザーリサーチ体制は、おおむねこんな感じの発展をとげるのかなあ、というのが僕の想像です。
ただし、リサーチ組織を「分散型」にするかどうか、それが最適解かは、個社のプロダクト構成、フェイズ、置かれる環境などによると考えます。

「分散型」のリサーチ体制

freeeは、企画に関わるPM、デザイナー、biz、Engなどが、また聞きではない一次情報を元に企画や意思決定をすることを、社として重視しています。
よって、デザインリサーチチームも、リサーチプロジェクトはもちろん、そのかたわら、PMなどさまざまな職種のメンバーが活用できるリサーチ資源を整えたり、サロン(相談会)を実施することにより、メンバーがそれぞれに行なうリサーチの後押しをすることが大きな任務です。
これを「分散型」と呼んでいます。

実際には、下記のような分担となります。

表頭 リサーチをリードする人 リサーチ内容 表内 PMやカスタマーサクセスなどの企画系職種 目的:プロダクトやサービスの仮説検証 手法:ユーザーインタビューや受容性評価 プロダクトデザイナー   目的:UIの妥当性検証 手法:ユーザビリティテスト デザインリサーチャー 上記のうち、難易度が高く、全社的に重要度が高いプロジェクト 業務観察による仮説探索のような、社にとって新規性の高いプロジェクト
「分散型」リサーチ体制のあらまし

上の表の職種は単純化したものであり、そのほかの職種から相談を受けることも日常的にあります(ほんとによくリサーチする会社です、freee)。
また、職種やリサーチ内容を便宜的に分けて書きましたが、現実には、仮説検証にデザイナーも参加しているし、ユーザビリティテストにPMも参加していることのほうが多いです。
協働して、ひたむきに一次情報に向かっていく、ということです。

freeeのデザインリサーチチームとその仕事

freeeのデザインリサーチチームとその仕事について、僕から見た特徴のようなものや、過去の記事からの「差分」を軸に書いてみます。

現在のチーム構成

現在のfreeeのデザインリサーチチームには、デザイナー、マーケター、エスノグラファといった、様々なアイデンティティを持ったメンバーが在籍しています。

全員、たとえば「UXリサーチの道具箱」に載っているような、インタビューとかアンケートなどの「デザインリサーチをする上ではまあ最低限できないといけないですよね」ということは、そこそこできます。
(最低限といいつつ、すべて奥深く、探究に終わりがないですが・・)

その上で、それぞれのアイデンティティや経験を持ち寄り、それぞれのスタイルを尊重しながら、freeeなりのデザインリサーチという活動を形作っています。
経験やスキルのバランスもかなりよいと思われ、機会領域発見、マーケティングリサーチ、UXリサーチに連携して対応ができます。

これからも、加わってくれるメンバーに応じて在り方を変えていくでしょうし、そうでありたいと思います。

結果、PMっぽい動きをとりがち

freeeのデザインリサーチチームは、上記のメンバー紹介から類推される通り、「リサーチするからには企画や設計に入り込むぞ」という当事者意識が非常に強い集団です。

とくに事業会社におけるリサーチャーというロールは、相談されたリサーチをして結果のレポーティングをするに留まるのではいま一つもったいないかと考えています。
むしろ、そのリサーチが必要とされる文脈を理解した上で目的を協同して設計したり、状況の変化やその方向感を早期に察知してモメンタムを捉えた提案をしたり、レポーティング後の企画・設計に入っていったりすることにこそ醍醐味があります。
このような、「事業会社ならではのリサーチ」への思いやコミットメントが、PMっぽい動きとなって表れるのでしょう。

クライアントワーク並のプロジェクトの多様性

一般的に「インハウスだと仕事の幅ってそんなにないんでしょ?」と思われがちですが、クライアントワークを経てfreeeで実際に働いてみて言えることとして、freeeのデザインリサーチにはクライアントワーク並のプロジェクトの多様性があります。
事業会社に行くと領域が限定されるのでは?という懸念は、freeeには当てはまりません。

まず、関わる業種・規模が多様です。
というのは、会計や人事労務に代表されるバックオフィス業務はどの組織にも存在し、したがって、飲食業の個人事業主から、社員数百名のIT企業まで、どの業種・規模の人にも関わる可能性があるのです。

また、向き合う課題の種類も多様です。
募集要項をベースに、表にしてみましょう。

表頭 プロダクト テーマ 表内 既存プロダクト   新規機能の仮説検証のためのリサーチ 製品の利用開始時の課題を解決し利用開始率を向上するためのリサーチ 製品のユーザーサクセスの課題を解決し継続利用率を向上するためのリサーチ 特定プロダクトの新たな中長期ロードマップを策定するためのリサーチ 新規プロダクト    新規プロダクト領域の発見のための探索的リサーチ 新規プロダクトコンセプトの受容性調査 新規プロダクトのプライシングを検討するためのリサーチ プロダクト横断   プロダクト間の連携の最適解を見出すためのリサーチ freeeプロダクト全体における今後のデザイン戦略を検討するためのリサーチ
リサーチのテーマの広がり

「業種」×「規模」×「プロダクト(まだないプロダクトも含む)」×「課題の種類」をかけ合わせると、結局、あー・・全部ですねー、となりますよね。

独自の経験知の蓄積

リサーチを進めるための知識ベースも充実しています。

まず、magiさん・kouさんの記事にも出ている通り、デザインリサーチkitと呼ばれる資料集が存在します。
これは、デザインリサーチチームが、過去の学習や実践から学んできたことをベースに書いたもので、たとえばユーザビリティテストやユーザーインタビューなどが内容としてカバーされています。
主目的はPMなど他職種が自走してリサーチをできるようにすることですが、デザインリサーチチームが自分たちで使えるものともなっています。

加えて、この半年で、magiさんが、過去数年に行なったプロジェクトや受けた相談などを元に取りまとめたFAQのドキュメントが社内共有されました。

いちデザインリサーチ従事者として、これを同じ環境で読んで体感できるだけでも、キャリアの一時期をfreeeで過ごす価値があると思っています。
ある組織で数年間継続した生きたデザインリサーチの実践がベースになっており、成功も失敗も織り込まれていて、さらに走り書きのメモではなく整った読み物、というのは、レアだと思います。
また、そういった読み物の執筆を結果として可能とするほど、社としてもデザインリサーチにコミットしてきたという証左でもあります。
いろんな条件が揃わないと書かれ得なかったものと言えるのです。

本格的に探索的アプローチが求められている

freeeは、既存プロダクトの改善とともに、プロダクト間の統合性や新規プロダクトの機会発見にも注力するフェイズに入っています。
そのため、特定プロダクトに関わる仮説検証ばかりではなく、新たな何かを生むための仮説探索も重視されています。

新たな何かを生むにはいろいろなアプローチがありますが、その中の1つとして、エスノグラフィを起点にしたアプローチがあります。
freeeではもともと、聞くことばかりでなく、現場を見ること・体験することの大切さが意識されてきており、たとえばカスタマーサクセス留学や経理留学などが行なわれていました。
現在、それをさらに体系的に押し進めようとしています。
具体的には、エスノグラフィを応用した「業務観察」というプログラムの構築と推進を僕がリードしていて、少しずつ成果も出始めています(頃合いを見てケーススタディを書ければと)。

もし、プロダクトマネジメントにおける探索的アプローチやエスノグラフィ応用というテーマに取り組みたい方がいらっしゃれば、たくさんの機会が得られる環境かと思います。

強力なResearchOps

以上は、強力なResearchOps(リサーチの「間接業務」の担当)に支えられています。
freeeのResearchOpsは、リクルーティングのオペレーションが中心で、たとえば参加者のアポを取ったり、参加者リストを管理したり、謝礼を送付したり、予算消化状況の管理をしたり、といったことが含まれます。
さらに、その膨大なケースを元に、よりリクルーティングにおいて返答をいただきやすくする、ユーザーの方々とのコミュニケーションを円滑にする、などの体験向上に関する経験知を社内に共有してくれます。

このResearchOpsは、組織としてリサーチに本腰を入れる場合には必須の機能で、freeeはそれをいち早く構築してきました。
個人的には、ResearchOpsがいるかいないか(少なくとも本気で構築しようとしているか)は、今後、プロダクト系職種の職選びの軸になりうると本気で思っています。

改善に向けた検討

いいことばかりではなく、改善すべきことも多々あります。
それらは、kouさんからの紹介時点(2021年9月)から本質的に変わっているわけではありませんが、現在の視点から改めて書いてみます。

リサーチ共有会、Salesforceを用いたリサーチ資産化

各所でリサーチが盛んに行なわれています。
また、デザインリサーチチームとしても、日々のプロジェクト実施とリサーチ相談、ツールの作成をどうしても優先せざるを得ません。
結果として、個々のリサーチの結果を事後にかんたんに参照・再利用できるような形で組織化することは後回しになってこざるを得なかったという現実があります。

この状況からの脱却のトライをしています。
1つはリサーチ共有会です。
これは、各プロダクトのリサーチ内容を順に持ち回りで発表していくもので、Qに1〜2回の頻度で開催されています。

もう1つは、予算およびその消化状況の管理とリサーチのアウトプットの集約を合わせてSalesforce上で行なう仕組みの運用です。
このような仕組みを内製できるところが、またfreeeの強みだとも言えそうです。

リサーチプロセスの効率化のためのさまざまなツールの検討

上記のSalesforceによる取り組みのほかにも、リサーチプロセスの効率化のためにさまざまなツールを検討しています。

たとえば、リクルーティングについては、プロダクト上での新たなリクルーティング方法の検討、予定調整のためのアポツールの導入などがあげられます。
また、これまで主に利用してきたGoogle Formsでは実現できない設問分岐設定を行なえるアンケートツールの導入、文字起こしの自動化のトライなども行なっています。

各時点のリサーチプロセスのいまの形にこだわることなく、ツールの力でさらに良くしていければと考えています。

おわりに

freeeのデザインリサーチチームの現在地について、いろいろと書いてきました。

ヒトにより一層向き合ったプロダクト開発をしたいなあ、と思って転職してはや1年。
その期待は十分にかなえられています。

freeeのデザイン組織は、客観的に見て、各領域になかなか経験豊富なタレントが揃っており、切磋琢磨するには事欠かない環境かと思います。
それをもってしても、freeeというプロダクトのUXはまだまだ発展途上で、ユーザーの方々にご不便をかけてしまっているところがあります。
それほどまでにバックオフィス領域は奥が深いのだと・・ただ精進あるのみです。

楽しいことも歯ごたえのあることもいろいろあります。
ただ、個人的には、デザインリサーチを実践したい人、とりわけそれをプロダクトマネジメントのダイナミズムの中でしてみたい人には、自信を持っておすすめできる職場かと思っています。

もし一緒に働くことに興味を持っていただける方がいらっしゃれば、MeetyやTwitterなど、お気軽にご連絡くださいませ。

いまのデザイン組織のメンバーは、人間中心と呼ばれる流儀を得意とします。
まずはそれを強化してくださる人に加わっていただけると嬉しいのですが、個人的な所感をあえて書くと、いわゆる「意味のイノベーション」をスタイルの中心とする方が入ってきてくださるのは嬉しいです。あとは、ワークショップデザインを多めにしてきた方や、リサーチツールギークな方(ニッチだ)が来てくださるといいなあ、などと思ったりもしています。

いずれにせよ、まさにいまがデザインリサーチ実践者にとって面白いフェイズだと僕は思っております。

また、そういうデザインリサーチチームがいる組織に関心をいただけるPM、プロダクトデザイナー、カスタマーサクセス、マーケティング、データサイエンティスト・・などなどの皆さまもぜひぜひfreeeまで。

それでは、また。

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