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人間がコンピューター(2020年現在)に計算で勝てる、唯一の方法は「計算をしない」ことだと思ったお話

よく、人間とコンピューターの計算能力を比較するのに、チェスや将棋で勝負するという方法がありますね。

そして、最近ではコンピューターが人間のプロ棋士に勝つことは珍しいことではなくなってきました。

人間の計算能力がコンピューターに劣る。それはすなわち、人間がコンピューターよりも知能や判断能力が劣っているように感じます。

しかし、本当に人間の計算能力はコンピューターより早くなることはないのでしょうか。

少し話が変わりますが、先日、アラン・チューリングという数学者の映画をみました。

チューリングという言葉を聞くと、人工知能の分野に興味がある人は聞き覚えのある「チューリングテスト」がありますね。チューリングテストのチューリングは、このアラン・チューリングから取られています。

さて、この方はどんなことをした人かというと、第二次世界大戦中、ドイツが使用していた暗号、その名もエニグマを解読するという大仕事をやってのけ、その影響は戦争終了を2年早めたとも言われています。

映画の中で、チューリングは、他の同僚がひたすらエニグマを自分たちの頭で解析している隣で、エニグマの設定を解析する機械の開発を進めます。これは現在のコンピューターの発明にも大きく貢献しており、人間の計算速度では何年もかかってしまう処理を機械に行わせるという発想です。

紆余曲折の末、チューリングはようやく、エニグマの設定を解析する機械を完成させます。

しかし、問題が一つありました。それは、この機械を使ったとしても、エニグマの解析には非常に長い時間がかかってしまうことでした。

ドイツはエニグマの設定を定期的に変えており、設定が変えられる前にその設定の解析をしないと、それまでの処理は振り出しに戻ってしまいます。

チューリングが作った機械は、完成後も成果が出せず、痺れを切らしたイギリス軍も、チューリングを研究室から追い出す動きに出ます。

万事急須というところで、チューリングは、エニグマ解析の処理の中に、しなくてもいい処理があることを突き止めます。

その処理をしないように、設定を変えれば、処理速度が上がるのではないか。そう考えたチューリングはすぐに実行に移します。

そしてチューリングの読み通り、エニグマの解析処理のスピードが上がり、見事、ドイツがエニグマの設定を変える前に、その設定を突き止めることに成功しました。

アラン・チューリングの話が長くなってしまいましたが、最後にもう一つお話があります。

藤井聡太 という将棋のプロ棋士がおられます。

若くして将棋が強く、メディアでもよく取り上げられている方ですが、この方のとある一手が、界隈で話題になっているそうです。

「棋聖戦31銀」と調べると YouTube などで、解説している動画が見れるのですが、この一手というのが、コンピューターでシミュレーションすると、約6億局面を行ってようやく価値のある手だと判定されたそうです。

つまり、極端な話ですが、藤井聡太 というプロ棋士は一手打つ時間の中で、コンピューターであれば6億局面のシミュレーションが必要な処理を、頭の中で行っていたということになります。

そんなことは可能なのでしょうか。

チューリングの話を思い出してみましょう。彼は、機械の計算速度を早めるために、処理の一部を除きました。

これと同じことを、藤井聡太 というプロ棋士は、行っていたのではないでしょうか。

正直、6億局面ものシミュレーションを将棋の一手を打つ時間で行うというのは到底考えられません。

しかし、6億局面全てを考えるのではなく、あまり意味のない手、逆に価値のある手、それらを考える、いわゆるスジの良い手を考えるということが、この驚異の処理速度を出したのではないかと思います(もちろんそうであったとしても、藤井聡太さんの処理速度はずば抜けています)。

まとめに入りますが、この、処理の取捨選択を行える。というのが、人間の最も優れた能力であり、まだコンピューターも行うことが難しい行為だと思います。

コンピューターの計算処理というのは確かに早いです。しかし、それは、速度が早いだけなのです。

逆に人間は速度は出せませんが、予測を立て、ピンポイントで求めている解に近くことができます。

このピンポイントに答えを導きだせる出せる力こそ、人間が伸ばすべき能力であり、またコンピューターが代わりに行うことができない貴重な能力なのだと思います。

2020年、今のところは。

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