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彼女の「アバズレ」以外の側面 -福井夏ちゃん- <前編>

9月15日(土)夜、私は高田馬場に向かっていた。劇団「しあわせ学級崩壊」の公演「ロミオとジュリエット」を観るためである。
キャストの一人は、セミファイナリスト福井夏ちゃん。彼女のツイッターやnoteで、嫌いな女への恨み、彼氏への愛(強い執着)、かつてYARIMANだった頃のエピソード、ミスiDイベントへの率直な感想などを読み、強烈だなー舞台ではどんな感じなんだろ、と思ったので観に行くことにした。

良い意味で裏切られる

私は一重瞼なのだが、彼女が以前noteで「一重のブスが嫌い」と書いているのを読み、一重だと二重の子よりヴィジュアルチェックが厳しくなるのか! と戦慄した。そのため、当日は普段使いのペンシルアイライナーに加えてリキッドアイライナーも使い、通常より若干盛った状態で家を出た…何この頑張り…。
(自分に自信がない10代の頃だったら「わざわざ行って『一重のブス来たなー』って思われたくない」という心理で行かなかった可能性はある。今は成長して神経が図太くなったので、どう思われても行きたければ行くんですけど。)

会場は劇場ではなく、音楽スタジオ。座席はなく、スタンディング形式での観劇だという。劇は劇場でしか見たことがなかったので、どんな感じなのか想像がつかない。
スタジオの入口に立っていた女性の案内に従って会場の部屋へと向かうと、ドアの前に福井夏ちゃんがいた。セミファイナリスト一覧だと変顔をした瞬間の写真が出ているが、実際は小柄で目や表情の動きが活発な、小動物系の可愛い子だった。

ミスiD経由で知って来たんですけど、と言うと「え、〇〇〇さんですか?」と下の名前で呼ばれた。チケット予約時に「ミスiDで見ました」と書いておいたから存在は認識されてるかなと思っていたが、名前を覚えてくれたことに驚く。
小さい差し入れを渡したら「え、これ、夏に? ありがとうございます、こんなところまで来てくださって…」と言われ、手を握られた。私の目の大きさなどは特に気にしていない模様。
え、こういう人? 神対応? SNSの印象と違いすぎじゃない? 混乱しつつスタジオに入る。

衝撃! 踊れるロミジュリ

青っぽいライトがところどころ点いているだけの薄暗い室内には、4つ打ちのEDMが大音量で流れていた。既に10人ほど先客がいる。受付の女性と「お名前伺ってよろしいですか!」「〇〇です!」と大声でやり取りし、チケット代を払う。
役者らしき男性が、前の方でリズムを取りながら歩いている。右奥にはEDMを演奏している男性。機械のボタン(キー?)が押される度に赤や青やピンクなどの様々な色に光り、シェイクスピア臭はどこにもない。
やがて開始時間になり、役者の1人から説明が行われた。四隅に置いてある椅子の上に役者が立って演じるので、皆さんは中央のスペースで、リズムを取るなり台詞を静かに聴くなりしつつ観てください、フロアに役者が降りたらちょっと避けてください、とのこと。四隅に役者って…すごいスタイルの劇だ。

説明が終わるとライトが消え、黒い服に身を包んだ役者たちは全員、黒い3Dメガネのようなものを装着して持ち場につく。POLYSICSのようだ。4つ打ちの音が大きくなり、劇が始まった。
「なぜ浮かない顔をしている?」「一体誰に恋してるんだ?」――椅子の上に立った男性の役者二人が、デッサンに使うような木製の人間の模型を片手に持って、4つ打ちの音に合わせて台詞をラップし始めた。想像すると無理があるように感じるかもしれないが、意外にもハマっている。福田恆存が訳した脚本の言葉のリズムが、電子音のリズムで不思議といい感じに際立つ。
劇場で上演されるノーマルなスタイルの劇だと、役者の動きや衣装やセットなどの要素があるだけに、台詞自体のリズムを味わうことからは遠ざかってしまうのかも、と気付かされる。
――ロミジュリと、EDMは、合う! 餃子と、ストロングゼロ同様、合う!

役者4人は、それぞれが1つの役を担当するのではなく、同性の役の台詞を持ち回りで言う。台詞によっては、何度か繰り返される「サビ」のような位置づけのものもあるし、1人が言った台詞を別の人がもう一度言うこともある。このような脚本の輪郭がブレるような演出によって、呪われた恋の世界の不気味さが増幅されている感じがした。演奏している男性がトランス状態になっているのも、異界っぽい雰囲気が出ていて良かった。

「ああロミオ、ロミオ様、どうしてあなたはロミオなの?」
「どうかその名を捨てておくれ、どうかその名を変えておくれ!」
福井夏ちゃんのジュリエットパートは、彼女の声が高いこともあり、エネルギッシュでひたむきな感じだった。大田彩寧さんのジュリエットパートは控えめだけど芯のある感じで、劇中で役を入れ替えるとそれぞれの個性が分かって面白いなーと思った。

最後、スタジオから役者が少しずつ去ってゆき、最後の1人が床で悶えながら、二人の運命を嘆く神父の台詞を叫ぶ。不穏なEDMと相まって、スタジオ内に呪われた運命の空気が充満しているのを感じた。
斬新な演劇体験。シェイクスピアや福田恆存が、こんな風に身近に感じられることが驚きだった。ラッパーがリズムを取りながらリリックを考えるように、福田恆存もリズムよく言葉を並べようと頑張っていたんだろうな。

<後編に続きます。9/18アップ予定。>

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