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続・弁護士は事務機能を外注できないのか【ニッチすぎる法律解説】

「弁護士は事務機能を外注できないのか?」(2020/7/7)の記事を書いた後、永尾廣久「福岡県弁護士会における事務局法人問題のとりくみ」(自由と正義1995年10月号)に接しました。

やや古くなっているところはありますが、「事務局法人」に関する数少ない文献ですので、本稿でご紹介したいと思います。

論文のタイトルには「事務局法人問題」とあります。事務局法人に慎重なスタンスなのかな、という第一印象を持ったのですが、実際の内容は、全体として事務局法人の普及・活用に前向きな論調になっています。

事務局法人の普及に関する意見書

永尾論文では、まず、福岡県弁護士会の業務委員会が、同弁護士会の会長宛てに提出した意見書の内容が紹介されています。

この意見書では、「法務法人」が制度化することは前途多難である(※弁護士法人制度の導入は2002年)という前提のもと、「次善の策として」事務局法人の普及・活用を提言し、ガイドライン許可基準を定めよう、という提案をしています。

「許可基準」というのは、当時の弁護士法のもとでは、弁護士が株式会社の取締役になるには弁護士会の許可が必要だった(2004年改正前弁護士法30条3項。現行法では、届け出ればOKになっている)ことによるものです。

具体的な許可基準は、

事務局法人の定款上の目的が法律事務所を人的あるいは物的に充実・発展させるものに限定されいると認めるときは、許可する。

というようにしたそうです。
また、許可の条件として、「誓約書」を提出させることとし、その内容は、

① 事務局法人の従業員に対して、「弁護士倫理」(日弁連会則)第17条*に準じて指揮監督すること
② 事務局法人が複数の法律事務所にかかわり、かつ、従業員を派遣する場合には、その派遣先を1つの法律事務所に限定すること
③ 事務局法人が法的紛争の当事者となった場合には、当該法人の代理人に就任しないこと
④ 弁護士会が決算報告を求めた場合にはこれに従うこと

となっています。
(*)旧弁護士倫理第17条「弁護士は、その法律事務所の業務に関し、事務に従事する者が違法又は不当な行為に及ぶことのないように指導・監督しなければならない。」(現行弁護士職務基本規程19条に相当)

ちなみに、「ガイドライン」は未確定とのことで掲載されていませんでした。

何のための事務局法人か

意見書では、事務局法人の意義については、

弁護士集団の法律事務所が永続的に存続することによって、現代日本社会のニーズである専門的なリーガルサービスの供給をいま以上に可能にすることができる。つまり、国民がいま以上に利用しやすい法律事務所にしていこうとするものである。

とされており、これを受けて、永尾論文は、以下のように結ばれています。

社会の多様なニーズに弁護士の側がこたえていくためには、今より以上に集団事務所が増えていく必要があるのではないか。そのためにはどうしたらよいのかが、今、ようやく福岡で検討されはじめている。
福岡で事務局法人に関心が高まりつつあるのも、その一環だと考えている。

私なりに読み解くと、法律事務所で提供される法的サービスを、個々の弁護士の異動変動にかかわらず、安定的に依頼者に提供される永続性のあるものとするために、まずは、資産管理や雇用管理を弁護士から分離する。
そのために事務局法人を活用しよう、ということではないかと思います。

その後の司法制度改革(1999年~)と同一方向の議論です。

非弁提携については?

永尾論文の中では、事例として、弁護士が取締役に就任しないタイプの事務局法人が紹介されています。が、非弁護士との提携に関する記述は全くありません

上述したように、「事務局法人の従業員に対する指揮監督」については述べられていますが、紹介されている議論経過の中では、この点に突っ込んだ発言は見られません。おそらく、当たり前すぎて誰も何も言わなかったのではないかと推測します。

弁護士がちゃんと見るのは当然で、それができなくなるなんてことは念頭に置かれていなかったのでしょう。バランスとして、「弁護士よりも委託先法人の方が強い」ということがそもそも想定されてなかったように見えます。

今後の事務局法人のあり方は

いま、東京ミネルヴァ法律事務所の件をきっかけとして、法律事務所(弁護士)が事務機能を外部に出すにはどうするのがよいか、を考える時が来ていると思います。

東京ミネルヴァの件が実際にどうだったかはともかく、法律事務所が弁護士でない者に「乗っ取られる」事態は、非弁提携の温床となります。非弁護士との提携が禁じられている目的は、利用者である国民が食い物にされるのを防ぐということですから、これは弁護士だけの問題ではありません。

何をどこまで外部委託するのか。どのような委託先ならいいのか。委託先をどのように制御するのか。制御が利かなくなったときにどうするのか。個々の弁護士の倫理観に頼るばかりではなく、何らかの枠組みが必要ではないでしょうか。

これからも少しずつ考えていきたいと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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