就職エージェントの面談をドタキャンした話

20代後半のフリーター。一度も正社員として働いたことはない。いわゆる職歴なしというやつ。何か成し遂げたい夢や目標があったわけではない。働けない事情や致し方ない理由があるわけでもない。ただ、ひたすらに怠惰をむさぼり、少しの困難さえ避けて逃げてきた10年。

そんなヤツが今さらなぜ?もちろん明確な理由はない。お得意のなんとなくってやつだ。「さすがに30代に入ると相当しんどくなるぞ」とは風のうわさ=ネットの海で見聞きしていた。だからといって今ならまだ間に合うと楽観的になれるほど前向き人間でもないけどね。

職務経歴書?ほーう。それ食べれんの?そんなものは書いたことはもちろんない。アルバイトの履歴書すらここ最近は久しく書いていない。小さな嘘が積み重なってもうほとんど嘘なんじゃないかと思う。それでもしょせんバイトだから通る。親子、いや孫とジジ・ババほど年の離れた人たちと同じ場所で同じ時給で働いてきた。

どうやら僕は面談予約したエージェントは職務経歴書なんていう堅苦しいものはいらないらしい。それに近いものは事前に登録してそれをもとに面談を進めていくみたい。ドタキャンかましたわけですからそれ以降の詳細は一切わかりません。おそらく面談というからにはそれなりに会話らしきことも往々にしてあるのでしょう。現代人よろしく、口コミなどをググってみると1〜2時間ぐらい面談という名の人生相談になったというお話も。そこまでは別にいい。当方、長らく会話というものから遠ざかっていますからぶっちゃけ怖いっす。もう10年近くまともな言葉のキャッチボールをしていません。バイト先のジジイとの同じ話を何度でもループを曖昧な相づちと巧妙な合いの手でしのぐのが精一杯。もしくはスーパーでの箸はいるか?会員カードは持っているか?のレスポンスのみをこなしてきた。

面談当日。起床直後から憂鬱な気分。これはある意味いつも通り。午後の遅い時間を予約したので慌てることはない。昨日のうちに適当なアルバイト歴はでっち上げて登録を済ませている。朝昼兼用の炭水化物×炭水化物をテレビを流し見ながら食べる。そろそろ家を出る時間が近づいてきた。性格的になんでも時間に遅れることが嫌いな性分なので早く出過ぎてしまうのをなんとかこらえる。別にマジメなわけではなく、どちらかというとビビリゆえの行動。聞き慣れない入ったこともない高層ビルディングの上の方が面談場所。中間地点でエレベーターを乗り換える奇妙な動作を経て目的階に到着。予約時間を1分過ぎていた。

実はこの前に、案の定早く最寄り駅まで着いてしまった。ぶらぶらウィンドーショッピングかましてビルの入り口へ。間違ったビルへ。なんとなくおかしいと思ったがとりあえずエレベーターでそれっぽい階まで上がってみる。うん。やっぱりない。どうやら間違ったみたいだ。時間的にこれはどうやら無理みたい。遅れるなこれ。天命か。行かなくてよいというお告げか。この時点で気持ち折れかけた。どうやら歩いて数分のところにあるビルだったみたい。一応行くか。まだ遅れると決まったわけでもないし。スマホで時間を確認するとあと3分。いかにも働いてますという人たちに囲まれてエレベーターに乗り込む。全面ガラスから都会を見下ろす。「たぶん行かねーなこれは」何の脈略もなく驚かれたことでしょう。でもこういうとこなんです。10年もまともに働きもせずダラダラしていた人間が急に変われるはずもなく。結局、3分ぐらい遅れたけど到着。受付らしきところに受付嬢らしき人が見える。「よし、帰ろう!」

往復の交通費と何かを失っていたのか、はたまたすでに失っていたのを確認したのか。帰宅後の激しい自己嫌悪と通帳の残高。今日も働けなかった。その後の電話とメールを無視し、クズがクズたる所以を示した。就職エージェントさん、誠に申し訳ございませんでした。

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