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アレキシサイミア的に胸熱のハピシュガ

『ハッピーシュガーライフ』という、サイコホラーGL/百合作品がある。
最近アニメを観て、原作漫画を読んだが、それぞれ良い構成・展開だったし、話の筋も結構気に入ってしまった。ややグロいけどそこまでホラーか?と疑問に思いつつ、自己の感情認識が苦手なアレキシサイミア傾向である(あった)自分的には結構胸が熱くなるところがあったので、感想をメモしておく。

*全編ネタバレ注意*


さとうの感情発見

主人公「さとう」は、たった一つの愛を探して男をとっかえひっかえしていたところ、捨てられていた「しお」に出会ったことで愛を見つけ、二人の愛の城で生活していく。

アレキシサイミア傾向があった私にとっての第一の見所は、さとうが感情を発見していく過程である。
しおと一緒にいるときのポジティブな感情は「甘い」、しおへの愛と逆ベクトルのネガティブな感情は「苦い」と表現されている。さとうはしおと出会う前にそんな感情を抱いたことはなかったのではないだろうか。

漫画だとわかりやすいが、さとうが自らの内に湧いてきた感情をラベリングする場面が何度もはっきりと描かれている。

「私わかったの」「この感情の名前をなんて言うか」(1巻冒頭)

「この感情は何?(中略)今まで感じたどの感情とも違う」「嫉妬」「私の初めての感情」(2巻)

恐怖———私の初めての感情」(3巻)

「この感情は これが 絶望・・・?」(6巻)

人間ってのはそうやって感情に名前をつけて同定していけばいいのね、と結構参考になる。

さとうの成長

そして、さとうは自分の感情(しおへの愛)に正直に誠実に生きるために何でもする。確かに殺人は倫理的に問題だ。しかし、ルールや秩序に縛られまくりでやりたいこともわからない私のような現代人からしたら、彼女の振る舞いは格好いい。フィクションではそのくらいやって然るべき。

ただし、当初さとうが大事にしていたのはしおの感情ではなく、さとう自身の感情であった。しおがそれについて反発したことで、二人が双方の主体性を認め合うようになる。さとうは、自分に感情があるようにしおにも感情があり、それを尊重し合おうとし始めた、ってことかな。成長ですな。

一方で、彼女のことを呪縛し続けたおばさんとの訣別もよかった。母娘関係というのはそれ以外の組み合わせよりもこじれやすいものらしく、母が死んでも娘にかかった呪いはとけなかったりするという。さとうのインナーチャイルドがおばさんから解放される場面は清々しい(9巻)。

合理性よりも感情を大事に

私にはダントツで好きな場面がある。それは、海外逃亡のために空港に向かう道で、さとうがマンションに指輪を忘れたことに気づくシーンだ(9巻)。

さとうは取りに行くべきでない合理的な理由を並べる。しおと交換した大事な指輪だとはいえ、歩き回ると誰かに目撃されるかもしれず、二人の将来を損なうリスクが考えられるというわけだ。しかし、しおは「さとちゃんはどうしたいの」と訊き、さとうは目を見開いたあと、切羽詰まった表情で「とりに行きたい」と答えを出し、二人は危険を承知でマンションに戻ることにした。

これが文字通り致命的な選択となるのだが、それは「命あっての物種」的発想に過ぎない(この時点では)。さとうは指輪を諦められない自分の気持ちを認識していたし、しおはさとうのやりたいことを一緒にしたかったのだ。

重要な局面で、愛する人に自分の気持ちを正直に話せて、しかも客観的な損得よりもそれを優先してもらえるなんて、さとうは世界一の幸せ者じゃないか…!
これがわたし的クライマックスでした。

エンドの謎〜さとうの配色

心中っていうのは、離れ離れになるくらいなら最高潮の今ここで一緒に死のうとする、純愛物語の結末だろう。が、さとうはしおを生かした、というか生まれ変わらせた。さとうが伝えたかった感情は何だったのか。愛される幸せ、だったりするのかな…。「ごめんね」は、まだ幼いしおを自分のワガママに付き合わせたことについての言葉なのか。

ところで、最後さとうが「本当の〇〇」に気づいた瞬間、真っ裸のさとうに閃きが降りてきたような描写がされている。これは制服の配色の謎と繋がっているように思えなくもない。

キャラの配色的を見ると、しおは水色系でまとまっているのに対し、さとうはちぐはぐだ。髪色や目はピンク系なのに、制服は青と黄のブレザー、茶色のベスト、夏服は水色のベスト、緑のスカート、赤のリボン(これは合ってる)で、色彩・濃度などに全然一体感がなくてものすごく違和感がある(アニメ版『銀魂』の華陀も配色が麻雀色?で面白い違和感があったが、さとうはそれを軽く超えてきた)。
この制服はさとうが、規範に合わない/規範を押し付けられた存在であることを象徴しているのかな。それが最後の最後に取り払われたのは・・・解放? 作者の意図は別として。

おわりに

さとう大好きかよって感じの書きぶりになってしまったが、あの中ではさとうのおばさんが結構好き。
ラストについて自分はうまく解釈できていないけど、ふと、あれはこういう意味だったのかとわかる日が来ることを期待しておく。

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