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【4】ミステリーの始め方 ~ミステリーの歩き方 前日譚~

【4】
僕が彼女を初めて見たのは、その時だった。
「分かるか、あの黒髪の美少女」
幸太郎が僕に耳打ちする。「あれがかの有名な『ミステリーサラブレッド』だ」
「ミステリーサラブレッド?」
「ああ。昨年、数々の難事件の考察をネットで発表し、女子高生探偵として話題になった、同い年の新入生だ。父親が警視総監だかなんだかのお偉いさんでな。娘である彼女も将来は警察官僚を目指していると聞く」
なるほど、それで『ミステリーサラブレッド』というわけか。
「だがそんなことはどーでもいい!」
耳元で叫ばれて僕は飛び上がる。
「ちょっと幸太郎、耳が・・・」
「見ろ、あの美貌を。見ているだけで癒されると思わないか?」
そう言われて、改めて黒髪の少女に視線を送る。
「・・・・彼女もミステリー研究会に応募するという話だ」
ん?
もしかして、幸太郎が応募する理由って・・・。
「なんだ、その目は。女子が目的で何が悪い。眼福、眼福。ほら、おまえも今のうちに南条アリスをその目に焼き付けておけ!」
「南条アリス?」
「ああ。ミステリーサラブレッド、南条アリス」
そう言って幸太郎はまた僕の耳にささやく。
「行ってみたくはないか? 不思議の国へ、アリスと一緒に」
アリス・・・。

僕がそうつぶやいた。その時だった。
「あ・・・?」
彼女の体から、紫のオーラが放たれたのだ。

紫のオーラ・・・。

「おい独歩、どうした?」
「幸太郎には、アレ、見える?」
今度は僕が南条アリスを指さす。
「アレって・・・ああ、南条アリスだろ?」
「俺、視力いいんで。どうだ、ルックス最強だろ?」
「・・・そうだな」

そう・・・僕にしか見えない、紫のオーラ。
これが僕の能力ちからなのだ。
それがなぜ今、彼女から放たれたのか、僕には分からない。
今、彼女の体に触れたら・・・?

そんなことを考えながらも、その時の僕は、全く別の思想に支配されつつあった。

その立ちのぼる紫のベールをまとう彼女は、なんというか・・・。

なんというか――。

美しかった。

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