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【人生をラクにする1冊】最近読んだ純文学を3冊紹介します

純文学を読んで”あたりまえ”を手放す。

純文学を読む。それだけで何も変わっていなくてもココロが少しだけ軽くなる。あたりまえだと思っていたことがあたりまえではなかった、それだけで人生がラクになる。そんな純文学、最近読んだ純文学を3冊紹介します。

純文学とは?エンタメ作品との違いは?に関しては次のnote記事を御覧ください。

【1冊目】「グレイスレス」(著:鈴木涼美)*再読

<あらすじ>
フランスの小説をモデルに建築家に作らせた「実家」とAVの撮影現場の「仕事場」を行き来きする主人公は化粧師として、一時間経たずに崩れ落ちるメイクを若い女優に施していく。崩れるほど男は喜び、ビデオ、女優は売れていく。

神の祝福を受けるという意味のグレイスな世界とグレイスレスな世界の中で、その間でどちらにも染まらないことに心地よさを感じる。

ひとりの女性として生きる母と祖母の生活を経済的に満たしているものと、生きるために男の欲望を満たすポルノ女優にはどれほどの違いがあるのだろう。祝福と復讐の違いぐらいか?

今年の1月は発表された第168回芥川賞のノミネート作品。
残念ながら芥川賞受賞とはならなかったですが、受賞作にも負けない1冊。

自分らしさ、ブレない自分というフィクションをいちいち他者に説明、示さないといけない謎の圧力がかかる現代で、どちらにも染まらない何者でもない自分でいることの心地よさを感じた。

白でもなく黒でもない、その間でグレーな心地よさを感じる"今っぽい"作品。それでもその心地よさをいつまでも感じることができなくなっていく。リアリティを感じる。

自分のことを全部自分で決めたくない!という気分の時に心地よさを感じたい時に読みたい1冊。

【2冊目】「改良」(著:遠野遥)

<あらすじ>
主人公は女装が趣味でただ美しくなりたいと願う。ブスは見下し美女は羨むが、容姿で劣る女友達とは性的な関係を狙う。立場が下だったはずのデリヘル嬢との関係性が変わると突然取り乱し、その果には男に女性の代替品として扱われる。彼はただ美しくなりたかっただけなのに。

誰とも共有できない物語、閉じた世界にある"辛さ"と"美しさ"は表裏一体。 例え物語を共有するつもりがなくても、それは他者には関係がない。

同じ物語を共有することが当たりまえの他者からは、その閉じた世界も同じ物語として消費される。だから辛くて、美しい。

狭くて暗い閉じた世界観。

その自閉された世界観を客観的に、そして不気味さと同時になぜか心地さ感じながら読めてしまうのがこの遠野遥という作家の魅力。

彼はただ美しくなりたい。それだけなのに。

現実で起きたことというのは、世界を閉ざしたいという欲求とその閉じることを許さない他者や社会からの圧力の摩擦の結果としてある、ただそれだけなのかもしれない。

それがデビュー作ということもあって生々しく荒々しく描かれている。

閉ざされた世界の中になぜ美しさを感じるのか?
それを見出したい人向けの1冊です。

【3冊目】「破局」(著:遠野遥)*再読

主人公陽介は慶應大学4年、公務員を目指し、 運動もできて毎日筋トレを欠かさず、政治家を目指す美人の彼女麻衣子もいる。スペックは完璧。ある時あかりという新入生と出会うと微妙な3角関係になっていく。

陽介の行動原理はマイルール。正しい思考から導き出された正しい答えで人間関係を卒なく処理する。そんなキカイのような?陽介が最後に迎えるのは、、、

思考があるから行動するのか?それとも自分の行動を自分に納得させるために思考があるのか?「思考➡行動」と「エゴ➡行動➡思考」の間で閉じた世界が揺れ動いて崩壊していく。

その遠野遥の2作目で芥川賞受賞作。

デビュー作「改良」に続き独特な閉ざされた世界観が魅力的な1冊。完璧なスペックとは裏腹に、主人公の閉ざされた世界観とそれを許さない他者からの圧力との摩擦の結果として、主人公が迎える結末とは?

この破局の前作となる改良を読んだのと、ちょうど文庫版が発売されたので再読。改良に比べると生々しさは抑えられていて比較的サラッと読める閉ざされた世界と、その崩壊ぶりが楽しめる1冊。

今回紹介した3冊も個別に書籍紹介記事を書いていきます。

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