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革命前夜、木曜日のノート

1月の深夜に、テレビを消して、ココアを飲む。

ココアは甘く苦くて、23時を過ぎると毒性が強くなる。そのせいか眠気は波にさらわれるように消え去り、夜は、いっそう寂しくなる。

その夜は、いろんな種類の寂しさが訪れる。群青色、ルリ色、紺色。のっぺりとした海のような、何色ともつかない不透明色。珍しい種類のバラのような薄花色。

しんとした部屋は、私の手元の灯りからはじまって、四隅の、つやのない黒で終わる。そのもっと向こう、一歩外に出たなら、黒がどこまでも続く迷路の街だ、と私は思う。

エアコンの風がゆったりと部屋を巡る。なにか音楽を聞こうとしてiPhoneをいじってみるけれど、プレイリストがもう一年くらい変わっていないことに気づいてしまう。最高に完璧で、最高に退屈なプレイリストを、私は聞くのをあきらめる。

マグカップの底がテーブルにぶつかるコトリという音が、しんとした部屋に響く。

夜は、人の物語が作られていく。過去を材料に。すこし未来を継ぎ足して。

寂しいブルーが集まる今宵は、今日あった出来事や感じたことが、ざらざらとした、疲れた言葉になって湧き出してくる。それらは部屋のすみの古い堆積の上にふりかかり、一瞬ポーと光って、そのまま闇の中でうずくまる。

それはつまり私の物語の、いちばん新しいページだ。

「保存しますか?」

パソコンの画面がYes/Noを私に問いかける。
私はゆっくりと時間をかけて、丁寧に、ココアをもう一杯煎れる。

輸入食品のお店で買ってきたそれは、ティースプーン3杯ほどにミルクを注ぐと、オレンジのフレーバーの混ざった、異国風の贅沢な飲み物になる。作りたてのココアから、指先に温もりが伝わる。

「保存しますか?」

「いいえ」

私は決意する——— 今日あったいやなことは、今日に閉じ込めて置いて行こう。今日あった良いことは、文章にして明日へ持って行く。

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夜遊びに出かける女の子のように、黒い服を身にまとい、大きなイヤリングをつけて、少し顎をあげた私は、鏡の中では、すこしかっこよく見える。

大丈夫、夜の魔法は、まだ効いている。

最後に底にたまったドロッと濃いのを飲みほすと、いよいよ奮い立つような気持ちになって、なんだか革命家にでもなったような気がした。

夜明けはありったけのブルーをかき混ぜた色で始まる。

黒がどこまでも続く迷路の街にも、やがて朝の光がじわじわと溶け出し、その色を明るく薄めながら、あたりをゆっくり浸していく。

2020/1/30-1/31.

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