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my手帖

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エッセイ
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広島県立美術館にて

広島県立美術館で開催中の「ターナーからモネへ」(英国ウェールズ国立美術館所蔵)。十九世紀から二十世紀の初頭にかけてイギリスとフランスで活躍した画家たちによる、作品七十点余の作品が展示されている。美術館と隣接している縮景園、桜の見どころは過ぎただろうか。広島市内に用事ができたので、足を延ばすことにした。 写実主義や印象派、印象派以降の作品を、順を追って観ていく。と、知ったかぶりをして館内を歩く私は、実はアートについてほとんど知識がありません(ごめんなさい)。音声ガイドの丁寧な

人の働く姿が 教えてくれること

二乗してマイナスになると仮定される数がある。 √-1 そんな記号に気づいて、私は思わず夫の本に見入った。高校生のとき「虚数」として学んで以来だ。なつかしい。なんとなく得意な英語の道にすすむのだろうと英語の本ばかり読んでいた私にとって、それは本当に本当に悩ましい謎だった。 和英辞書をひくと虚数はimaginary numberとあった。imaginaryは「想像上の、架空の」という意味で、もちろん実在しないもののことを指す。ありもしない数字を学ぶことが社会のどの部分で役立

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やっぱり、旅が必要

 日常をはずれて時々へんなことをしたがるのは、ほんのささいな毒のせいかもしれない。あるいはそれを人間らしさと呼ぶのかもしれないけど――ちいさなテントを和室に張り、カンテラを灯した。だって仕方ない、キャンプに行けなかったのだから。  雨に閉じ込められる週末だった。耳を澄ませば、潮騒の音に聞こえる(ということにする)。本棚から一冊を選べず、あれもこれもつまみ読みする。バスチアン少年は自分だけの本に出会って、『はてしない物語』を旅した。これは私のことだと感じる本は、大人になるとふ

にやけながら 眠りにつく幸せ

 眠りに落ちる瞬間、フワッと体が軽くなって、疲れがどこかへ吸い込まれていくようなあの感覚は大好きなのだけれど、最近は気がつけば朝だったなんて日ばかりで、慌ててベッドから起きだすことがほとんど。 「おやすみなさい、良い夢を」  眠たくてどうしようもなくて、好きな人へのメールさえ、ありきたりの言葉で結んでしまったり。  夕方、ショッピングモールを歩いていた時、手をつないだ親子とすれちがった。子どもがおかあさんに聞いている。 「それって、よる、寝たあと?」 「そうよ」  二人

いまの上を わたっていく

「次の仕事は、目の前にある仕事にしかつながっていないと思ってる。だからその時その時に全力を注いでいくしかない。『いつかきっと』なんて存在しない。『いま』があるだけ」 ふと付けたテレビのインタビューで、こんなことが語られていた。こんな星の下に生まれついたらさぞかし人生は楽しいだろうな、と誰もがうらやむような、かっこいい有名人。そんな人でも、こんなふうに考えているものなんだ――すこし意外な気がした。 会社員であることを辞め、ささやかに「書く」という仕事を初めて一年生の私は、い

いつだって海に行ける

ここ数か月、いろいろな書き手さんと関わりを持つ中で、美しい姿勢をお持ちだなあ、としみじみ感じる方々は、へんに自分を飾ったりしないのだと気づいた。 がんばってる私、負けない私、出会う人すべてに恵まれている私。私の世界はつねに美しくてキラキラしている、そんなつぶやきは本心でない限り人の心をスーッと冷めさせてしまうということを、おそらくきちんと想像できているのだと思った。みんな、地を這って見てきたものをちゃんと信じて前を向いていて、そこには真実しかないから、嘘なんてすぐにばれてし

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Time is money.

本屋とコーヒーショップが一緒になったお店の奥に、期間限定の古本市があった。ふらふらと立ち寄り、なにげなく眺めていると一冊の辞書が目に留まった。 ぱっと開いたページには「ghost」の説明があった。「テレビの画像が二重、三重にぼやけること」と書いてある。 ghostは、幽霊じゃないの、と思って表紙をよく見ると『広告英語辞典』とあった。「広告、マーケティング、グラフィックアート、POP、写真、編集、印刷、製版、製本、用紙」…なるほど、専門用語の辞書なんだ。発行日は、昭和47年

アイスクリームなら ラムレーズン

このエッセイは、リトルプレス『アイスクリームならラムレーズン』(しおまち書房)に収録されています。

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太陽とエナジードリンク・ガール

このエッセイは、リトルプレス『アイスクリームならラムレーズン』(しおまち書房)に収録されています。

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「いのちのたび博物館」を訪れる

毎日、ほわほわと文章を書いていることが好きな私は、ジュラ紀、アンモナイト、恐竜の化石標本、などと聞くとハリウッドの恐竜映画のイメージばかりが浮かんでくる。でも、それらを収めるのが「いのちのたび博物館」という素敵な名前の博物館であるとなると、そこにあるであろう壮大な物語を、決してそのままにはしておけないという気持ちになる。 学校の先生は大切なことを教えてくれなかったし、本部長は理想を語るのが上手なだけじゃないかと、社会人になりたてのころはいろいろなことを誤解していた。しかし、

さようなら リトルブラック・ドレスの夏

腹立ちも悲しみも、たいてい過去のろくでもない記憶につながっている。現実のなにかがうまくいっていない時、それはいつも低い場所から這い上がってくる。何も今そんな低いところに行かなくてもいいよな、と、いさぎよく手を離せたらその日は、よく頑張った一日。 十代、二十代の頃はそこまで下りて行って手をつないで、ふしあわせと友だちになれるなら自分は特別な存在なんだと思っていた。やがてそのうち、ふしあわせはみんなにもあるのだと知って、安心もしたけれどがっかりもした。そうか、私たちはこの寂しい

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旅のあとに

このエッセイは、リトルプレス『アイスクリームならラムレーズン』(しおまち書房)に収録されています。

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鉄は 熱いうちに打て

「TOEICをちょっとやってみようと思うので教えて」と友人から連絡が入った。勤めている会社がTOEIC IPを実施することになり、勢いで申し込んだ!とのこと。おまかせあれ。 というのも、去年まで私はグローバルコミュニケーションをメイン事業とする会社に勤めていて、公教育の他に、企業の語学研修にも携わっていた。かつて自分もみっちりと取り組んだことがあるTOEICは、英語学習の中でも得意分野です。(の、はず)

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言われたことがある ありふれた言葉

このエッセイは、リトルプレス『アイスクリームならラムレーズン』(しおまち書房)に収録されています。

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