短編小説 「カップの中に注ぐもの」
秋の終わり、一枚のポストカードが届いた。
消印はエアメイルだった。差出人の名前や住所は、インクでべたべた汚れていてよく読めない。ふと海外出張中の夫のことが頭をよぎるが、すぐに違うだろうなと茉莉は思った。朝から晩まで忙しくしている彼は、こんなものをよこすひとではまずない。
じっと目を凝らすと “stay”と書いてあるのがかろうじて読み取れた。stay home? まったく心当たりもないし、考える時間も惜しいので、キッチンテーブルの片隅の書類の山の上にそれを放り投げておいた。