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詩と短歌「おくり日」

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日常を切り取った詩や短歌です。
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記事一覧

人間と武器

人間と武器

引き金ひとつで命を奪えるような
押すだけで何十もの命を奪えるような
武器を
作ってしまったのですか

生まれて、歩きを覚えて言葉を学んで
頑張って悩みながら大きくなった
その体を
一瞬で壊してしまう武器

国なんかにしたがって
武器を持って戦場へ
自分だけは大丈夫と
考える頭を吹き飛ばされ

獣でも災害でもなく
同じ人間に向けられる
銃口を
見つめて

当たっても、くすぐったいような
何一つ傷つけ

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仕事に殺されないように

仕事に殺されないように

仕事で失敗して
迷惑かけて
叱られて
逃げたくなった時

失言したり
笑われたり
ないがしろにされて
恥ずかしくなった時

全部が嫌になって
お腹が痛くなって
自分を責めて
時間を戻したくて

死にたくなったとしても
止めることはできないけれど
それでも
仕事はあなたではない

仕事に傅くことなく
ただ傍らに置き
あなたが仕事をするのであって
仕事があなたを動かすのではない

使命感
やりがい

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詩「バイバイ、ばあちゃん」

詩「バイバイ、ばあちゃん」

ばあちゃんが九十五歳で旅立った
思い出だけになってしまった

八十過ぎての葬式は
十分に生きましたね、と
神妙そうに
言ってもらえる

百点満点の試験のように
長く生きると良いようだ

長生きしたいが
何歳までと聞かれたら、
そうではないなと
庭の木を見る

自分の外の人生は
あっという間の人生で

でも、ばあちゃんも
生まれたときは赤ちゃんで
勉強して、青春して、働いて、
頑張って、頑張って、頑

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詩「黒猫」

詩「黒猫」

夏の夕暮れ、国道歩く
車道からの黒い線
茂みに続く黒い線
おそらく先に
血を流した猫

傷ついた獣は静かだ
痛みを受け入れ
為すべきを為す
為すべき事が
身を還すことだとしても

もし同じ傷を負ったなら
どれだけ苦しみを表現し
叫び声を上げ
のたうち回るだろうか
独りだったら

世界にただ独りだったら
受け入れて
静かに死へ向かえるだろうか
いつか来るが
今来たとして

詩「私は君を救えない」

詩「私は君を救えない」

公園であったこと
すべて君の胸の内
笑顔の奥は見えなくて
私は君と喜べない

学校であったこと
電話だけでは伝わらず
涙涙を誘えども
私は君を救えない

躊躇いながら抱きしめて
どれだけ君を想っても
皮一枚を越えられない
心には触れられない

辛い思いはしてないか
悪意の人は近くに無いか
眠れぬ夜は来てないか
生きる喜び少しでも

君の傘になりたいと
側に居たいと思っても
私は君を救えない
私は君

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短歌「炬燵」

短歌「炬燵」

中狭し

足は熱くて

背な寒く

ただ寄せあえる

それがいい冬

在る事

在る事

庭の柿を鳥食べる
花の周りを蝶が飛ぶ
日差しに揺れて草伸びる
窓から眺めて人想う

柿はうまいか幸せか
>幸せなんて考えない
空の旅は楽しいか
>楽しさなどは持ちえない

生きる姿が眩しくて
人の営みまぼろげに
自身の肉を思い出し
まずは足を前に出す

詩「配られた時間」

詩「配られた時間」

三年間を暗闇で
七日間は青空に
腹いっぱいで鳴くことは
どれほどの幸せですか

百年間を地上で過ごし
幸せを選んだあとに
幸せを探し続けることが
私たちの生き様です

寿命が千年あったとて
単位が変わっただけであり
長生きを求めても
すでに持って生れ出づ

河原に一日積み上げて
一週間で一山だ
一年間で更地にし
石の置き方だけ学び

終わりを知って
夏に鳴き
落ちゆく君に
妬け沈む

短歌「夏忘れじ」

短歌「夏忘れじ」

蝉の声

熱波にまざりて

郷愁を

六歳の夏、

今も感じて

詩「Automatic」

詩「Automatic」

今日も牛は、肉になる
鶏も豚も、肉になる
大切に育てられて
肉になる

黒い眼は何を見る
繰り返す日に何を見る
旅立つ仲間に何を見る
トラックに乗って何を見る

向き合う強さを持たぬため
私達は工程を分け、
機械を作り、建物で覆い、
一口大に小分けする

世界に厳しく
自分に甘く
眼を閉じて
百年生きる、そのために

詩「限り輝き」

詩「限り輝き」

ちょうちょがいたよ
ボールなげるのじょうずでしょ
はなまるつけて
君の世界は輝いて

ののちゃんとあそぶんだ
せんせいやさしかったよ
かけっこはやいでしょ
十全に今日を楽しんで

君の目を通したら
道路は荒野で
庭はジャングル
お風呂はプール

君の一日は一週間
見ること聞くこと鮮やかに
心からのその笑顔
君に幸あれ、君に幸あれ

詩「微睡み」

詩「微睡み」

庭の蝶を見るたびに
人の生の長さを憂う
庭の木々を眺めつつ
言の葉なき生、理解できず

いつの間にか生きていて
いつの間にか働いて
何とはなしに家庭を作り
何とはなしに大人をしている

どうしたら真摯な人生を
流されずに足ついて
一秒を見れる目を持って
真面目な心でいられるのか

社会との繋がりも
勤労奉仕の働きも
一日一善、全てなくとも
生きていてもよいのでしょうか

短歌「まだあるはず」

短歌「まだあるはず」

ただ笑って

まっすぐ世界を

生きれていた

皮剥き探す

キャベツの新芽

短歌「いつの間にか人生」

短歌「いつの間にか人生」

1日で

1ミリ進む

世界には

ひと耐えきれず

小さく叫ぶ

(側詩)
気づけば世界は見違えて
ただ自分は子供のまま
道には関所も見えぬのに
いつもの窓から町を見る

ネットの向こうは戦争が
ゲームの中では魔法飛び交い
本を開けば恋話、転生
消費に埋没、干支が過ぐ

八十億の軍隊が
一日一歩
足を出す
その掻痒に耐えきれず

何かを傷つけ何かを壊し
何かを愛して何かを買う
時間を覚えて今を失

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