退屈の行方と歩幅

『退屈の行方と歩幅』



昨日も今日も、たぶん明日も同じような毎日だなと思う。今日も特に楽しいことは何も無かったな、と振り返りながら階段を下りる。


昼休みは、黒板の上の時計ばかり見ていた。
周りの友達は何か会話を続けている。けれど私は、時間を埋めるためだけに話が続いているような気がして、暇だ、と思いながら何となく相づちを打っていた。


学校を出て歩き始めると、傾き始めた太陽の光が顔に当たる。
歩いていて汗をかくほどの暑さではなく、風が吹けば何となく心地よく感じるくらいの気温だった。
そのまま家に帰る気にもなれず、学校と家を結ぶ直線からはみ出したいというような気分だったし、この退屈さを紛らわしたかった。


波のような人の交差を避けるように、人が少ない方へ何となく歩いていると、見たことのない通りに出た。


街灯に小さい旗のような布がかかっていて、場所の呼び名らしきものが書かれている。

渋谷の奥の方という意味か、と思いながら、駅とは反対方向に進んでいくことにする。



少し歩いたところに、レンガの建物で、一階がガラス張りのお店があることに気がつく。そこは本屋らしく、吸い寄せられるように店の中に入った。

窓際の近くの棚に並ぶ本たちは、主張するでもなく、でも確実に目が合うような感じがして、出来ることなら今すぐに全部読みたい、と思う。


でもお金はほとんど持ち合わせていなかったし、一冊選ぼうと迷っているうちにどんどん他の本も気になっていき、気づけば時間ばかりが経っていた。
名残惜しく感じながらも仕方なく、また学校の帰りに寄ろう、と思いながら店を出る。


この通りが、この街の奥でも手前でもどちらでも良かった。


私にとっては、退屈な今日が、良い日だったな、と少しだけ思える日になったことが嬉しかったし、自分の中で何かが動き始めた感触もあった。


日は沈みかけている。街が静かに夜へと向かっている空気を感じつつ、いつもより少し広い歩幅で駅に向かった。