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『Stardust Express』

【上演脚本】

『Stardust Express』
上演時間 約20分

男子1
男子2
女子1
女子2
青年
車掌
車掌子


 SE「警笛」
 ME「ガタンゴトン音」
 SE「発車サイン音」

車掌「ドアが閉まります。ご注意ください。」

 男子1と2、登場。
 電車に駆け込み乗車。
 SE「ドアが閉まる音→発車」

男1「あっ、空いてる。」
男2「ラッキー。」

 二人、着席。
 ME「ガタンゴトン音」

車掌「次は秋葉原、秋葉原。お出口は右側です。京浜東北線、総武線、地下鉄日比谷線、つくばエクスプレス線はお乗り換えです。」

 SE「警笛」

車掌「まもなく、秋葉原、秋葉原。アニメ家電家電アニメ。アイドルゲーム声優特撮。お降りの際は、足元にお気をつけくださいませ。いってらっしゃいませご主人様。」
男2「山手線って、アナウンスこんなに個性的だったっけ。」
男1「楽しいな。」

 SE「発車サイン音」

車掌「ドアが閉まります。ご注意ください。」

 SE「ドアが閉まる音→発車」
 ME「ガタンゴトン音」

車掌「次は、上野、上野。お出口は左側です。上野公園に西郷隆盛と犬。ワンワンワンワンワン!」
男1「びっくりした!」
車掌「次は鶯谷、鶯谷。お城のようなラブホt…ファッションホテル選び放題。駅前のコンビニには、メイク落としや旅行用の小さいシャンプー、替えの下着など、トラベルセットがずらりと。それからゴム製品。」
二人「………。」

 男子たち、興味津々な様子。

車掌「甘いのや薄いの、ツブツブがついたものなど、様々なヘアゴムがあります。」

 男子たちの興味が解ける。

車掌「次は、日暮里、日暮里。日暮里繊維街は南口です。お洋服を作りたい方、コスプレグッズをお探しの方、布が沢山ありますので現在何も着ていない方にもお勧めです。」
男2「何も着ていない方?」

 SE「警笛」

車掌「次は、田端、田端。特にありません。」
男1「酷いな!」
車掌「次は、巣鴨、巣鴨。都営三田線はお乗り換えです。」
男1「おばあちゃんの原宿だっけ?」
男2「おばあちゃんもタピオカ飲むのかな。」
男1「ヤバくね?」
男2「よく噛まないと。」
車掌「そんなものは飲みません。」

 男子たち、リアクション

車掌「次は池袋、池袋。」
男1「あっ、次だ。」
車掌「大人気!『池袋の水、全部抜いてみた。』サンシャイン水族館の主役は、いけふくろうです。」
男1「…抜かれたのか。」
男2「どうしよう。来週女の子と行くのに。」
車掌「まもなく、池袋、池袋。水は、ありません。」

 SE「停車音」
 男子たち、降車。

男1「魚どうなったんだろ。」
男2「ペンギンならギリ平気じゃね?」(とかなんとか話しながらハケる)

 男子1と2、下手から退場。
 入れ替わりで女子1と2、楽し気に登場。二人とも女子大生らしい恰好をしている。
 二人、着席。

車掌「ドアが閉まります。ご注意ください。」

 SE「ドアが閉まる音→発車」
 ME「ガタンゴトン音」

車掌「次は、目白、目白。お出口は右側です。」
女1「椿山荘でアフタヌーンティーした~い。」
女2「いいね!椿山荘だったらスパからのアフタヌーンティーがいいな~。」

 SE「警笛」

車掌「次は、新大久保、新大久保。チーズハットグを食べて、チーズをびよーんとさせている自分の画像に『#横顔ブス』というハッシュタグをつける女の子。安心してください、正面顔もブスです。」
女2「えっ何!?」
車掌「『かわいいよ』なんてコメントは待ってたって来ません。」
女1「何、このアナウンス。」
車掌「次は、若者の巣鴨。若者の巣鴨。」
女2「…原宿ってこと?」
車掌「この町では可愛くないと殺されます。」
女1「えーっ、うちらどうだろ~。」
車掌「大丈夫です。女の子は十人いたら八人は可愛いですから。お客様だって…残念!」
女2「ちょっと!」
女1「波多陽区みたいな言い方すんな!」
車掌「次は、渋谷、渋谷。…ワンワンワンワンワン!」
女1「犬?」
女2「もしかして…ハチ公?」
車掌「その通り。二匹目の犬です。さぁ一匹目を覚えている子はいるかな?『上野』よくできました。」
女1「クイズ出されたんだけど。」
車掌「次は渋谷、渋谷。可愛くないと殺されます。」
女2「また~?」
車掌「渋谷と言えばギャル!さてここで問題!あなたはいくつ分かる?平成のギャル語~!①パない②スミス③MK5④MM⑤チョベリグ」
女1「あんたアラサーでしょ。」
女2「アラサーでも使ってない。」
女1「アラフォーか。」
車掌「ちなみに『スミス』はルーズソックスのメーカーですよ。懐かしい!って思った人、いるでしょう?」
女1「なんで知ってるの?」

 SE「警笛」

車掌「次は、品川、品川。お出口は右側です。」
女2「あっ、次だ。」
女1「ね、結婚式を品川プリンスホテルで予約すると、水族館で挙式できるんだって。」
女2「何それ~!」
女1「初めての共同作業が、こうやってイルカのジャンプを一緒に合図するの。」
女2「素敵すぎる!」
女1「いいよね~!」
車掌「まもなく、品川、品川。」

 SE「停車音」
 女子1と2、きゃっきゃしながら退場。
 入れ替わりでスーツ姿の青年、登場。手には品川プリンスホテルの紙袋。
 虚ろな様子で着席する。
 SE「発車サイン音」

車掌「ドアが閉まります。ご注意ください。」

 SE「ドアが閉まる音→発車」
 ME「ガタンゴトン音」

車掌「次は、高輪ゲートウェイ!」
青年「………。」
車掌「この名前を聞くと、色々なことがどうでもよくなりますね。」
青年「………。」
車掌「(リズミカルに)次は、浜松町!浜松町!」
青年「………。」
車掌「(リズミカルに)次は、有楽町!有楽町!」
青年「………。」
車掌「次は、【Tokyo】お・も・て・な・し。オリンピック、楽しみですね。」
青年「………。」
車掌「次は、神田、神田。痛っ!噛んだ?こら今噛んだでしょ!ワンワンワンワンワン!」
青年「犬?」
車掌「この電車、犬がよく登場するんです。」
青年「…へぇ。」
車掌「お客さん。どうしました?元気、ないですね。」
青年「………。」
車掌「何かあったのですか?」
青年「…結婚式場をキャンセルしてきました。」
車掌「…どうしてまた。」
青年「彼女が亡くなりまして。」
車掌「………。」
青年「まだ一週間経っていません。」
車掌「…そうでしたか。」

 青年、悲しげな微笑。

青年「病院に行った方がいいって、ちゃんと言えばよかった。頭が痛いと言ってたんです。けどきっといつもの片頭痛だって言ってて。ある日、帰宅したら倒れていました。」
車掌「………。」
青年「救急車を呼んで、意識は取り戻したけど、身体は麻痺して動かなくなりました。脳の病気でした。…どうして彼女が…。」
車掌「………。」
青年「それでもリハビリを始めて。会話ができるようになった。身体も、少しずつ動くようになった!社会復帰出来るかもしれないと先生は仰って、彼女もそれを目標に頑張っていました。けどある日、容体が急変して。」
車掌「………。」
青年「二十六歳です。早すぎます。早すぎるし残酷すぎます。前の日まで普通に生活していたのに突然こんなことになってしまって。なんて不幸なんだ。彼女の未来は病にすべて奪われました。」
車掌「………。」
青年「彼女は不幸なまま亡くなってしまった。僕は何も出来なかった。」
車掌「…何も出来なかった。そうでしょうか。」

 ME「歌詞・メロディー共に優しい曲」

青年「………。」
車掌「彼女は幸せだったのではないかな。最期まで愛する人と居られた。」
青年「みんなそう言って慰めてくれます。二人共頑張ったねとか。冗談じゃない。僕は何も頑張っちゃいません。」
車掌「けど、傍に居てあげたじゃないか。」
青年「傍に居ただけです。もちろん僕に出来ることは何でもするつもりでした。けど実際は、何も出来なかったんです。弱った彼女の横で僕のしたことは、荷物を運んだり、諸々の書類にサインをしたくらい。あとは、寝たきりで、点滴に繋がれて、お風呂に入れずタオルで身体を拭かれる彼女を見るだけ。僕は無力でした。」
車掌「………。」
青年「何で私だけこんなに不幸なのって、思っていたに決まってる。僕だって彼女を失って、心にぽっかり穴が空いてしまいました。最愛の彼女と結婚して幸せの絶頂で、毎日家に帰るのが楽しみでした。…今はもう、帰っても誰もいません。僕は一人になってしまったし、家に居ても想い出ばかりが押し寄せる。もうあの家には帰れない。このままどこか遠くへ行ってしまいたい。」

 車掌と車掌子、電車ごっこで登場。
 二人でMEの続きを歌う。(上演時は「be for you,be for me」を使用)
 歌いながら、滑稽な動きをする。

車掌「♪どこにいたって何をしてたって~あなたのことを考えている~」
車子「♪今日のこの青い空切り取って~二人の記念日の色にしよう~」
車掌「♪声にならない祈り~このままいつまでもいたいと~」
車子「♪深く愛するほどに~人は強くなる~切なくなる~why」
二人「♪ここにあなたがいる~」

 ME C,O(青年の台詞が始まったら)

青年「待て!変だろ!振り付けおかしいだろ!歌詞めちゃくちゃいいのに!っていうか(車掌に)おまえさっきまで変なアナウンスしてたやつだろ。」
車掌「車掌です。」
青年「車掌!?あんたは?」
車子「車掌子です。」
青年「車掌子!?ふざけた名前しやがって。女のキャラクター何でも『子』つけりゃいいってもんじゃねーぞ!」

 車掌子、怯えた様子。
 車掌、トランシーバーを構える。

車掌「こちら四号車。お客様トラブル発生です。」
青年「おい!」
車子「ねぇ、遅延の理由が『お客様トラブル』って痴漢って意味なの?」
車掌「そうとは限らない。痴漢かどうかは警察が決めるからね、こちらはとりあえずトラブルと言っているよ。」
車子「へぇ…。」

 車掌子、青年を見つめる。

青年「…違うよ?」
車掌「次は、銀河ステーション、銀河ステーション。」
青年「えっ。」

 SE「なんかきらきらした音」
 照明青、ぶわーっと光が舞う。
 今までの乗客が全員登場。全員白い服を着ている。

車掌「銀河ステーション、銀河ステーション。まもなく発車します。」
女1「早く早く!」

 SE「発車サイン音」
 駆け込み乗車をし、全員車内へ。

車掌「ドアが閉まります。ご注意ください。」

 SE「汽笛」

車掌「出発進行!」

 SE「シュッシュッポッポッ」

車掌「本日は銀河鉄道をご利用頂き、誠にありがとうございます。先ほどの駅は始発、銀河ステーション。次は、街のホットステーション、ホットステーション。」
青年「ローソン?」
車子「意義あり!うち、街じゃなくて村です。」
車掌「じゃあ村のホットステーション。」
青年「どっちでもいいわ!」
女2「はい!鳥をあげる!」
青年「鳥?…あっそれチョコレートでしょ。『銀河鉄道の夜』で読んだよ。いただきます。(食べる)…からあげ!」
男2「街のホットステーションで買ったんだ。」
青年「からあげ君じゃん!」
女1「はい!これもあげる。」
青年「りんご?」
男1「愛のかたちだよ。」
青年「(微笑みながら)何それ~。」
女1「あっ、でも食べちゃダメよ。」
青年「ダメなの?美味しそうなのに。」
女2「りんごは禁断の果実だから。」
青年「アダムとイヴの話?」
男2「天国へのパスポートだよ。なんちゃって。」

 乗客たち、和気あいあい。
 りんごを手に自撮りを始める。

女1「おにいさんも入って!」

 青年、満更でもなさそうに輪に入る。

女2「おにいさん、めっちゃいい笑顔!」
青年「そう?ありがとう。」
車掌「次は、サウザンクロス、サウザンクロス。お降りの方はご準備ください。」
男1「南十字星だ!降りてみる?」

 各々、降車の準備をする。

車掌「まもなく、サウザンクロス、サウザンクロス。」

 男子女子四名と車掌、下手へ退場。

青年「俺も…。」

 青年、皆の後へ続いて退場しようとする。
 車掌子、青年の前に立ちはだかる。

車子「あなたはダメ。」
青年「何で?俺もここで降りたい。」
車子「ここじゃないわ。」
青年「何だよそれ。」
車子「あなたが降りる場所はここじゃないの。」
青年「どういうこと?」
車子「ほら、戻りましょう。」
青年「戻ったってもう誰も乗ってないじゃん。俺もみんなと一緒に降ろしてよ。」
車子「ダメよ。」
青年「何だよおまえ。頼むよ、ねぇもう一人になりたくないんだよ。」
車子「………。」
青年「…何だよ。何なんだよ!じゃあ俺はいつ降りれるんだ。いつ、どこで!」
車子「あなたが降りる場所は、自分のおうちよ。」
青年「おうち?何言ってんだよ、誰もいない家に戻るなんて嫌だ。」
車子「大丈夫。」
青年「何が『大丈夫』だ!おまえに何が分かる無責任なこと言うな。」
車子「分かるわ。」
青年「はあ!?」
車子「どれだけ安心したと思う?」
青年「えっ。」

 ME「なんか優しい音楽」

車子「傍にいてくれて、どれだけ心強かったと思う?」
青年「………。」
車子「前の日まで普通に生活していたのにね。急に何も出来なくなって。入院して看護師さんに最初に聞かれたのは『介護は誰になりますか?』って。もう絶望しかなかった。」
青年「…きみは…?」
車子「それでも頑張るしかなかった。生きるにはそれしか選択肢がないの。結局自分のことは自分しか助けられないんだね。また元の生活に戻れるって信じて、頑張るしかなかった。」
青年「………。」
車子「でも、頑張ろうって決意しても、そんなもの簡単に砕け散った。未来に不安しかないの。ずっとこのまんまなんじゃないかなとか。何でこうなっちゃったんだろとか。このままずっと誰かの手を借りないと生きられないなら、死んじゃった方がよかったんじゃないかなとか。一人になったらそんなことばかり考えちゃう。」
青年「………。」
車子「だからね、傍にいてくれると本当に心強いの。それが大切な人だったら、尚更。」

 照明再び光が舞う。
 青年、力の抜けたように座席へ着席。
 車掌子、青年の隣に座る。

車子「頑張る力をくれて、ありがとう。」
青年「不幸じゃなかった?」
車子「つらかった。つらかったけど、全然不幸じゃなかったよ。」
青年「どうして?」
車子「優しくしてくれたこと、傍にいてくれたこと、少しでも長く生きられたこと、何度も幸せを感じたよ。」
青年「………。」
車子「病気になったのに幸せって、なんか変だけどね。」
青年「俺、役に立ったのかな。力になれたのかな。」
車子「感謝しかないわ。」

 車掌子、青年を抱きしめる。

車子「あなたの生きる未来がどうか、優しい世界でありますように。」

 照明・音響F,O
 暗転

車掌「お客さん。お客さん。」

ME「ガタンゴトン音」
 明転
 車掌は腰を曲げて青年に目線を合わせている。青年は座ったまま眠っている。
 青年、目を覚ます。

車掌「お客さん、大丈夫?具合悪い?」
青年「…はっ、銀河ステーション?」
車掌「銀河ステーション?『銀河鉄道の夜』のこと?」
青年「えっ…」

 SE「警笛」

車掌「随分素敵な夢を見ていたんだね。しかし残念ながら、これは山手線だ。」

 SE「踏切音」

青年「夢…?」
車掌「どこで降りるの?」
青年「特に決めてなくて。」

 SE「リアルな山手線車内アナウンス」
アナウンス「まもなく、品川、品川~~』

青年「えっ、品川って俺が乗った駅じゃん。何で?」
車掌「何でって、山手線は環状線だからね。一周しちゃったのかな。」

 SE「停車音」

車掌「ほら、着いたよ。どうするの?」
青年「…降ります。」
車掌「はい。気を付けてね。」
青年「ありがとうございます。」

 車掌、下手より退場。
 青年、立ち上がり前方へ。

アナウンス「ドアが閉まります。ご注意ください。」
 SE「ドアが閉まる音」

青年「帰ろう…。」

 SE「雑踏」

 下手から人がたくさん登場しては退場する。
 一人が、すれ違いざま青年に軽くぶつかる。

青年「あっ、すみません。」

 ぶつかった衝撃で青年のバッグからりんごが落ちる。

青年「…えっ。」

 青年、りんごを手に取る。
 舞台上にいる人が全員青年を見て、微笑む。

暗転

いつも本当にありがとう。これからもどうか見てください(*´◒`*)ノ