僕君1

僕と君 13 オムレツの月


スケッチブックにクレヨンでまるく描くライン。
夢中になって、両手で持つクレヨン。
お日さまのパレードみたい。
君のすきな黄色、たまご色、レモン色、みかん色。
たくさんのおいしそうな、やさしい色合い。

僕はそれを見ると、ママのようにお話を作りたくなる。
それを聞きたがる、君の瞳。

みかんのボートがありました。
それは、小さな手の持ち主の仕業なのです。

みかんの皮をちぎっては置き、またちぎっては置く。
一艘の小型の皮舟には、ひと房のみかんが乗船。
さあみんな揃ったら、航海にでよう。

大きな波にのみこまれそうな舟たちは、すぐに後悔した。
ちっちゃなみかん乗組員たち、大海原に投げ出されてざっぱーん。

やっと岸に着きました。
わーい! と思うまもなく
みかんサイズのお手々がにゅっとやってきて
どこかに連れ去られていきました。

ぱくっと食べてにんまりする、その怪獣の正体はいかに。
あわれ、みかんの空ボート。ぷかぷか、ゆらゆら。
満足そうな、君のにっこり笑顔。

こら、またみかんで遊んでるって、ママの声。

土曜の昼下がりに、お散歩していると
君は空をゆびさし、月の存在を教えてくれる。
いつのまにか、昼の月もみえるんだね。

大根のうす切りに失敗したような
そっと置き去りの白く透けた月、半月。

「パパ、どうして月、はんぶん?」 と君が聞くので
「うーん、空のうさぎが食べちゃったかな」
とテキトーに答える僕。

今夜は、ママがオムレツをつくってる。
君は、フライパンの中をみて
「ねえねえ、うさぎさんたべた?」という。
ママは?な顔をする。

僕も一瞬なんのことかわからなくて。
そこには半分に折り返された、黄色のオムレツがいた。
フライパン直食いは、熱いだろうなぁ、うさぎちゃん。

わが家の日常を絵本にしたら、きっとこんな具合。
みかんだの、月だの、オムレツだの、もぐもぐだ。


⇒ 『僕と君』 14 シンクロ


いつか自分の本を作ってみたい。という夢があります。 形にしてどこかに置いてみたくなりました。 檸檬じゃなく、齧りかけの角砂糖みたいに。